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国立大学法人 電気通信大学

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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
柏原 研究室

学びをデザインする―学習支援システムの研究

所属 大学院情報理工学研究科
情報学専攻
eラーニングセンター長
メンバー 柏原 昭博 教授
所属学会 人工知能学会、電子情報通信学会、教育システム情報学会、情報処理学会、日本教育工学会
研究室HP http://wlgate.inf.uec.ac.jp/
印刷用PDF

掲載情報は2021年3月現在

柏原 昭博
Akihiro KASHIHARA
キーワード

eラーニング、学習科学、学習工学、技考学、学習モデル、メタ認知支援ツール、eラーニングライブラリ、学習リソースナビゲータ、Webベース学習支援

パソコンやインターネット、スマートフォンなどのメディアの普及によって、学習の形態は近年多様化しつつあります。人工知能(AI)技術の進展によって、機械自体も学習(機械学習)するようになっています。そのような中で、機械とは異なる人間特有の「学び」とは何でしょうか。
学習支援システムの研究によって「学びのデザイン」に取り組む柏原昭博教授は、学びをデザインすることが学びについて知ることにつながると考えています。学びのデザインとは、どのように学ばせたいかという観点から学びを設計するものであり、「学びの認知的な真正さを指向するよりも、学びから得られる学習効果を重視する点でより工学的である」と柏原教授はとらえています。

ウェブ上の知識を網羅的、体系的に学ぶ

柏原教授は学びのモデルを基盤とし、個々の学習者に応じた主体的な学びを支援する学習支援システムとして、ウェブ上で「調べ学習」を行うツールを開発しました。調べ学習とは、何をどのように調べるかという「学習シナリオ」の作成を通じて自ら課題を見つけるもので、ウェブ上の空間を探求しながら網羅的、体系的に学ぶシステムです。単なる情報の検索ではありません。
まず検索エンジンに調べたいテーマを入力し、ウェブ上のリソースを探索します。そこで学んだ知識のキーワードを抽出・分類し、これを基にテーマについて調べるべき課題を見つけ出して課題間のつながりを示すマップを作成します。さらに、この個々の課題について、同様にリソースを探索して知識を学びます。この作業を課題が見つからなくなるまで繰り返し、その結果、できあがったマップが学習シナリオです。
例えば、下記の図は、「地球温暖化とは何か」というテーマに対して、開発したツールを使うことで、地球温暖化という「現象」の初期課題を起点にして、地球温暖化の原因・背景・影響となる温室効果ガス(原因)、化石燃料(背景)、海面上昇(影響)を関連課題として見出し、学習シナリオを作成している場面を表しています。
現代の知識社会で求められるのは、情報を取捨選択して構成する力であり、自ら課題を見つける力です。ウェブ上には人類の知恵が詰め込まれており、そこでウェブ調べ学習が役立つのです。固定的な内容を学ぶ教科書とは違い、一つのテーマに多様な観点からアプローチし、広がりと深さを持ったシナリオを作成することによって学びをより豊かにできます。「学生だけでなく、社会人になってもこうした能力は欠かせない」と柏原教授は指摘します。

「ウェブ調べ学習」のイメージ

エンゲージメントを引き出す学習支援ロボット

ロボットを学習に導入する効果

これに加えて、ロボットを学習支援に用いる研究にも取り組んでいます。人の学習に対する意欲的な取り組みや関与のあり方を示す「エンゲージメント」(熱中)に着目し、特に人型のコミュニケーションロボットがこれを促進することを明らかにしました。人間の先生による講義と、ロボットによる講義で学生の反応を比較したところ、人の動作を増幅して指さしやアイコンタクトなどを行うロボットの方が、より学習者のエンゲージメントを引き出せることが分かりました。
さらに、ロボットと一緒に英文を交互に読み合いできるシステムにも発展させています。コミュニケーションを取りながらロボットが発音やリズムを正してくれ、人の語学学習を支援します。学習者がロボットをパートナーとして信頼することにより、学習効果がより高まるのだそうです。柏原教授は「ロボットは学びの認知面だけでなく、心理面や情動面も支援できる、最適な学び相手になる可能性がある」と考えています。

ロボットによるプレゼン支援

教育を変える

このほか、ロボットやアバター(分身)を活用した効果的なプレゼンテーションの支援方法も提案しています。人気キャラクターのアバターや、市販の対話ロボットなどを使い、これらに人の実際のプレゼン動作を投影し、顔や腕の動き、音声などを忠実に再現させることによって、自分の動作を客観的に評価できるようにしました。
柏原教授は学習工学の観点から、教育学のほか、認知科学や心理学、AIや知識工学など多様な分野の知見を生かし、主体的な学習を支援する学びのデザインに長年取り組んできました。学びを理解し、体系的にとらえられるようになれば、教師の能力によらずに質の高い教育を均等に提供することができます。多様な学習支援システムの研究を通じて、「教育をもっと良くしたい」というのが柏原教授の最終的なゴールなのです。

ロボットやアバターに動作を投影する
※ 図中のロボットとアバターは,それぞれVstone社製のSotaとクリプトン・フューチャー・メディア(株)製の『初音ミク』を用いている。

【取材・文=藤木信穂】