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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
梶本 研究室

触覚インタフェースで世界を〝遊び場〟に変える

所属 大学院情報理工学研究科
総合情報学専攻
メンバー 梶本 裕之 准教授
所属学会 日本バーチャルリアリティ学会、計測自動制御学会、ヒューマンインタフェース学会、日本ロボット学会、米電気電子学会(IEEE)、米計算機学会(ACM)
研究室HP http://kaji-lab.jp/
印刷用PDF

掲載情報は2015年8月現在

梶本 裕之
Hiroyuki KAJIMOTO
キーワード

ヒューマンインタフェース、バーチャルリアリティ、触覚ディスプレイ

タッチパネルをたたくと、表面が木のような触感になったり、ある時はゴムになったり、はたまた金属になったり――。梶本裕之准教授は、そんな触覚インタフェースの研究に取り組んでいます。
「触覚」とは文字通り、モノに触れた時に起こる感覚です。視覚や聴覚などに比べて、触覚インタフェースの開発は難しく、いまだ本格的な普及までに至っていません。梶本准教授は「リアリティは多感覚の統合によって生まれる」と考えており、従来の感覚に触覚を加えることで、リアリティのある“究極のディスプレイ”が完成するといいます。
タッチパネルは指先や専用ペンで画面に触れて入力を行う装置であり、入力のしやすさという観点から見るとまだ課題があります。触覚を与えることで、これを改善しようというのが梶本准教授の研究の動機です。方向性は二つあり、一つは触覚ディスプレイ、もう一つは触覚センサの開発です。
触覚ディスプレイは触感を提示する装置です。これはディスプレイの画面上に100個以上の電極を置き、電圧をかけて直接指に電気刺激を与えています。この時に生じる振動感覚をうまく制御することによって、木やゴム、アルミニウムの三つの感覚の違いを作り出しました。弦の感触なども出せるといい、例えば、ディスプレイ上でも琴のような楽器を臨場感を持って弾くことができます。梶本准教授は「これらの触覚を与えることで操作性が劇的に変わることはないけれども、リアリティはかなり向上してきた」とみています。
一方、触覚センサは、触感を提示するためにユーザの動作を計測するシステムです。梶本研究室では、高速応答を特徴とするシステムを開発しています。触覚センサを取り付けたスティックでタッチパネルをたたくと、たたいた瞬間に振動子が振動して木やゴム、アルミニウムの感触を伝えることができます。
普通のタッチパネルは、接触してから計測結果が触覚に反映されるまでに100ミリ秒程度かかりますが、このシステムはスティックのたたく前の動きを計測して接触の瞬間を予測するため、たたいたと「同時に」触覚を与えることができます。これによって、タッチパネル自体の材質感を瞬間的に変えられることが分かっています。

タッチパネル上の透明電極マトリクスを用いた触覚呈示
超高応答タッチパネルと振動呈示を用いた材質感の呈示

このほかにも、梶本准教授は多様なインタフェースを作っています。視覚障害者向けの感覚代行装置としては、スマートフォンのカメラを使って周辺環境を撮影し、画像処理を行い、電気触覚ディスプレイに変換するシステムを作製しています。これは視覚を触覚に変換する装置です。最近ではスマートフォンのカメラが3D化しつつあり、奥行き方向の遠近感まで与えられるようになってきています。
実用化が近いのが、「ハンガー反射」の研究です。これは、頭にハンガーをかけると、錯覚現象によって、頭が自分の意志とは関係なく自然に回ってしまう現象です。これと同等の機能を持つ装置を開発し、病気で首が傾いてしまう痙性斜頸の患者に使ってもらうため、病院と共同研究を進めています。

ハンガー反射を用いた痙性斜頸への臨床応用

遊び心があふれているのも梶本研究室の特徴です。ハンドルを回すと鉛筆を削ったような振動が伝わる「バーチャル鉛筆削り」や、トクトクと注いでいる感じが出せる「バーチャルとっくり」、遠隔地にいる人の手のひらをくすぐっているような感覚を与えられる装置、無限に上昇するような感覚を与えたエレベーターなど、ここでは全ては紹介しきれません。研究内容は頻繁に更新しているので、最新の成果については研究室のホームページをぜひご覧ください。
触覚を与える箇所は手のひらや指先だけでなく、腕全体や全身にまで広げています。関節に振動子をつけてギシギシする感覚を与えれば、自分がまさにロボットのように歩いてしまいます。梶本准教授によれば、「自分の身体全体をキャンバスにすれば、“変身することも可能”」なのです。

 
擬似透過的状況を用いたくすぐり感の伝送

さらに進むと、自分の身体を内側から変える拡張現実(Augmented Reality:AR)の世界があります。身体の変身だけではなく、心までコントロールできるのです。例えば、われわれ人間は驚くと毛が逆立つことを経験的に知っています。そこで、皮膚の知覚器官に高電圧源を置いてこの状態を人工的に作り出し、その上でその人を驚かせると、実際に発汗量が増えて「びっくり量」が増幅することが分かりました。普通の状態で驚かせた場合に比べて、より驚きが増すように心を制御できたととらえることができます。そのほか、自分のかすかな笑いを周りに伝えると、自分の笑いもそれにつられて増幅するような楽しい装置も作っています。梶本准教授はこうしたさまざまな装置を提案しています。共通するのは、一見するとおもちゃのような簡易な装置と、人間の錯覚現象とを組み合わせていることです。誰でも使える“魔法のような小箱”を作りたいのだそうです。人間の機能や体力を維持向上する福祉的な用途だけにとどまらず、「世の中を楽しい『遊び場』にするための手段をたくさん提供すること」が、梶本准教授の研究のミッションなのです。
【取材・文=藤木信穂】

手のひら全体に触覚提示を与える世界一高密度な装置
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