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国立大学法人 電気通信大学

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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
野村 研究室

音でQOLを高める

所属 大学院情報理工学研究科
情報・ネットワーク工学専攻
メンバー 野村 英之 教授
所属学会 日本音響学会、The Acoustical Society of America、海洋音響学会、電子情報通信学会、日本超音波医学会
研究室HP http://www.acelec.cei.uec.ac.jp
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掲載情報は2021年3月現在

野村 英之
Hideyuki NOMURA
キーワード

音響エレクトロニクス、非線形音響学、音波、超音波、超音波応用計測、超音波イメージング、QOL

身の回りで絶えず生じている「音」は、さまざまな物質を通して音波が伝わることによって我々の耳に届きます。人間の耳に聞こえる音は20ヘルツから20キロヘルツ程度であり、この周波数帯域の音波を特に「可聴音波」と呼びます。一方、これを超える周波数の音波は一般に「超音波」と呼ばれており、人の耳には聞こえません。

可聴音波から超音波までをカバー

野村英之教授は、音響学とエレクトロニクスを融合した「音響エレクトロニクス」の領域において、可聴音波から超音波までの幅広い周波数帯域をカバーする研究に取り組んでいます。そこでは線形の音響現象だけでなく、複雑な非線形の音響現象も活用しています。「人の耳に聞こえる音波だけでなく、聞こえない音波もうまく利用することで、我々の生活の質(QOL)の向上につなげたい」というのが野村教授の思いです。
複雑な振る舞いを示す「カオス」や粒子の性質を持つ安定な孤立波「ソリトン」など、自然界には非線形性を持つ興味深い現象が存在します。音波の領域では、波形歪みや音響流、音響放射圧、音響ソリトン、ソノ(音)ルミネッセンス、ソノケミストリーといった現象が注目されており、野村教授はこうした非線形音響現象の基礎理論の構築に向けた研究や、これを利用した応用技術の開発を進めています。

音響エレクトロニクスとその応用。人が聞こえる可聴帯域から、人が聞こえない超音波までを扱う。

低周波のイメージングで深く見る

水中に設置した真ちゅう棒ターゲット

超音波の応用として代表的なのは医療用の超音波イメージングでしょう。現在、一般に使われているのは指向性や距離分解能に優れる数メガヘルツ帯(メガは100万)の高周波の超音波ですが、野村教授は高周波の音波では届きにくい生体の深い場所を可視化できる、低周波の超音波イメージングについて研究しています。
既存の超音波診断装置を使い、超音波を発生させるプローブの信号の出力方法を工夫することで、周波数を数百キロヘルツ帯まで下げます。高周波音波の利用に比べて画質はやや粗くなりますが、より広範囲かつ、体表面から数十センチメートルの深い位置までイメージングできるようになりました。高周波だと影になって見えない場所や、重なり合っている部分なども可視化できるそうです。野村教授は「低周波で全体をスクリーニング(選別検査)し、より詳しく見たい箇所はスポット的に高周波を利用するといった併用が可能かもしれない」と考えています。

従来の高周波超音波イメージング。重なりあった背後の物体の可視化が困難
低周波超音波イメージング。重なりあった物体も可視化できる

パラメトリックスピーカを改良

パラメトリックスピーカのビーム長を制御し、音のプライベート空間を実現する

そのほか、超音波を使った指向性の高いスピーカである「パラメトリックスピーカ」を使って、音が伝わる環境を改善する研究にも取り組んでいます。パラメトリックスピーカはビーム幅が狭く、かつ遠くまで音を伝えられるため、音源の正面にいる人に音をまっすぐに届けることには適しています。一方で、狭い空間に置くと壁などに音が反射してしまい、残響が発生するほか、背後にいる人にも音が伝わってしまいます。
そこで野村教授は、パラメトリックスピーカの指向性は保ちながら、ビーム長を制御して音が伝わる距離を数メートル程度に短くすることで、特定の場所だけに音楽やアナウンスを届ける“音のパーソナル空間”の実現を目指しています。パラメトリックスピーカはすでに実用化されていますが、こうした付加価値をつけることによって、使い方を一層広げられるでしょう。企業の注目度も高く、実用化が期待される技術です。

プライベートな音環境をつくる

例えば、現在、駅の窓口などに設置されているパラメトリックスピーカは、目の前の人に確実に情報をアナウンスできる一方で、後ろの人にまで不必要な会話が伝わってしまう恐れがあります。これを新たなスピーカに置き換えれば、こうしたリスクが軽減し、銀行など個人情報を取り扱う場所にも導入できるかもしれません。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行をきっかけに、オンライン会議やオンライン授業が普及しています。こうしたスピーカを使えば、家族のいるリビングなどでも、後ろに筒抜けにならずに自分だけのプライベートな音環境を確保できそうです。野村教授はこのように、音を制御することによって新たな空間の概念を作り、QOLの向上に貢献したいと考えているのです。

【取材・文=藤木信穂】