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国立大学法人 電気通信大学

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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
正本 研究室

 

脳を計測する「脳活計」を作る

所属

大学院情報理工学研究科
機械知能システム学専攻
脳・医工学研究センター

メンバー

正本 和人 教授

所属学会

世界脳循環代謝学会(ISCBFM)、国際酸素輸送学会(ISOTT)、日本脳循環代謝学会、日本生体医工学会、日本微小循環学会、日本機械学会

研究室HP http://www.nvu.mi.uec.ac.jp
印刷用PDF

掲載情報は2022年6月現在

正本 和人
Kazuto MASAMOTO
キーワード

生体医用工学、生体光イメージング、脳計測学、神経血管工学、脳微小循環調節、酸素輸送ダイナミクス、多次元画像解析、生体物質輸送、オプトジェネティクス、二光子レーザー顕微鏡

朝起きて鏡の前に立つと「あなたの脳の活動指数は35%です―」と、今日も脳活計が教えてくれる。「そうか、今日は脳が疲れ気味なので、勉強はほどほどにしてスポーツで汗を流そう」。いつしかこんな日常が当たり前になるかも知れません。

脳の状態をモニタリング

正本和人教授は、脳の血行動態(血液の状態)を非接触で測って日常生活の脳の状態をモニタリングする、「脳活計」と名づけた脳活動の計測装置の研究を進めています。脳を計測する方法は、現在もMRI(磁気共鳴断層撮影法)やPET(陽電子放射断層撮影法)などがありますが、いずれも装置が大がかりで病院に行かないと測ることができません。
これに対して、正本教授が目指すのは、小型かつ軽量で身に付けて持ち運べるウェアラブルな計測装置です。「将来は一人一台、このような装置を持つようになるかもしれない」と正本教授は考えています。
MRIやPETのほかに、光を使った脳の診断装置もありますが、既存の装置は脳の血流の変化を波形のパターンとして表すだけで、脳がどのような状態にあるのかを計測することはできません。体温計や体重計などのように、脳の状態も数値として定量的に示すことができれば、手軽に脳の状態を知ることができるでしょう。

早期診断と予防医療に向けて

こうした研究の背景には、脳の病気の罹患数が増えている現状があります。脳の病気は主に脳血管疾患と精神疾患に大別されます。脳血管疾患は血液の循環に関する疾患であり、がん、心疾患、老衰に次ぐ日本人の死因別死亡数の第4位になっています。一方、精神疾患は精神活動に関する疾患であり、糖尿病、がん、脳血管疾患、虚血性心疾患とともに「5大疾病」と呼ばれ、精神疾患の患者数はその中でトップです。精神疾患に悩む患者は年々増え続けているのです。
脳の病気は、たとえ命に関わらなかったとしても、生活の質の急激な低下を招きます。例えば脳卒中や認知症などは、一度発症すると寝たきりになったり、介護が必要になったりすることが多いことはよく知られています。こうしたことを避けるためにも、正本教授は「普段から脳の血行動態を測って血管の機能をモニターし、機能低下の兆候をいち早く察知する“早期診断”とともに、“予防医療”の推進が重要だ」と強調します。 脳の血液の流れ、すなわち血流(血管機能)の低下は、脳疾患が発症する15年以上前(潜伏期)から始まっています。そのため、脳血流の異常を早めに検知する早期診断ができれば、たとえその後に病気が発症しても症状は軽く済むでしょう。また、脳血流を増強するなどの予防医療によって、将来、病気になりにくい脳を作ることができるかも知れません。

計測し、解析する

正本教授はこれまでに、生体を立体的に撮影して断層画像を得る「二光子レーザー顕微鏡」と呼ばれる近赤外の極短パルスレーザー光を使った顕微鏡を使って、脳を直接見られる状態にした上で、血流の速さを解析するソフトウエアを開発しました。血流の速さに「血管の直径」と「長さ(本数)」の情報が加わると、血流量を計算できます。顕微鏡の分解能は1マイクロメートル(マイクロは100万分の1)以下で、例えばマウスの大脳皮質の血管構造など非常に薄い部分を立体的に可視化できます。
こうして撮像した生体計測データの画像解析も工学部としての重要な仕事です。例えば、動物の脳において血流が低下した時の血管内部の構造や、血管が修復する過程などをライブで撮影し、そのメカニズムを解析しようとしています。このほか、人の指先の微小な血管を流れる血流と血管の形状から、全身の健康状態を診断する技術なども研究しています。

制御する

これに加えて、脳血流を低下させないためにはどうしたらよいかといった、予防医療の観点から行う生体の制御の研究もしています。最近、脳が活動した際に見られる脳の血流増加について、その要因となる脳の神経細胞(ニューロン)とグリア細胞が、それぞれ独立に作用する調節メカニズムがあることを明らかにしました。
認知症などの脳の疾患では、脳血流が低下することが主要因の一つとみられています。正本教授は「脳の血流低下の原因となる細胞の活動が分かれば、脳血流の回復や治療、機能低下の予防につなげられるのではないか」と考えています。さらに、オプトジェネティクス(光遺伝学)の手法を使って、脳血流を制御する研究にまで広げています。

医工連携

正本研究室の特徴は、工学部に所属しつつ医学部の研究室と密接に協力していることです。「工学が一人歩きしてしまうと、医療に必要なニーズを汲み取りにくい」と語る正本教授。医療応用を見すえたその研究は、理想的な医工連携の実践の形だといえるでしょう。電気通信大学には、工学系の先生方が中心となって推進する脳・医工学研究センターがあり、異分野を超えてつながる「脳科学」研究の一層の発展が期待されます。

動画

研究概要

実験風景

【取材・文=藤木信穂】