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国立大学法人 電気通信大学

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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
木寺 正平 研究室

マイクロ波やミリ波、テラヘルツ波帯電磁波による革新的画像化技術の研究

所属 大学院情報理工学研究科 情報・ネットワーク工学専攻
メンバー 木寺 正平 教授
所属学会 電子情報通信学会、米電気電子学会(IEEE)、電気学会、国際電波科学連合(URSI)、応用物理学会
メールアドレス kidera@uec.ac.jp
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掲載情報は2024年5月現在

木寺 正平
KIDERA Shouhei
キーワード

マイクロ波、ミリ波、テラヘルツ波センシング、レーダ信号処理、ミリ波車載レーダ、道路非破壊診断、複素誘電率イメージング、多重散乱波による見通し外センシング、医用画像診断、自動運転センサ

マイクロ波やミリ波、テラヘルツ波帯などの電磁波は、第5世代通信(5G)や6Gなどの大容量通信用途だけでなく、センシング用途としても活用が期待されています。
これらの電磁波の波長は数メートル-数百マイクロメートル(マイクロは100万分の1)であり、光では透過しない道路や人体などの内部にまで到達し、かつX線などに比べて極めて低いエネルギーのため、さまざまな応用に展開することができます。

センシングの分解能や精度を高める

木寺正平教授は、このような高周波数帯の電磁波センシングにおいて、基礎的な研究に加え、自動運転システムやインフラのモニタリング、医療などへの応用に向けた研究を進めています。一般に、電磁波センシングは空間分解能(精度)が数十センチメートル-数センチメートル程度とされていますが、信号・画像解析、深層学習などの情報科学と計測技術を融合させることで、従来の分解能や精度を超えようとするのが木寺教授の研究の大きな目的です。

基盤研究では、波長の100分の1程度の精度を実現する高速立体像画像化法(Range points migration :RPM)の提案や、多重散乱波を用いた見通し外イメージング、超分解能ドップラ推定法(Weighted kernel density :WKD)と統合した多元的イメージング、レーダ法とトモグラフィ法を双方向に作用させる複素誘電率再構成法などのテーマに取り組んでいます。

見通し外の領域にいる歩行者などを識別

応用研究としては、自動運転などのための車載ミリ波レーダや、道路・トンネルなどの交通インフラの非破壊モニタリング、安全なマイクロ波乳がん診断・治療の大きく三つの柱を掲げています。一つ目は、車載ミリ波レーダによる人体画像化、および識別技術です。そこでは画像化と速度推定において、位相情報を使う「コヒーレント処理(フーリエ変換)」と振幅のみの情報を使う「インコヒーレント処理(RPM、またはWKD)」を統合することで、互いの長所を最大限に引き出すイメージングとドップラ速度を融合した新しい解析手法を考案しました。
車載ミリ波レーダで想定される24ギガヘルツ帯、および79ギガヘルツ帯の市販のレーダモジュールを用いて、従来の分解能や精度を大幅に超える速度と画像の統合イメージングに成功しました。木寺教授は「これまで低い分解能が課題だった、ミリ波を使った自動運転車向けなどの車載レーダの性能向上につながり、より遠くにいる人などを高精度に識別できるようになる」と考えています。
これに加え、ミリ波レーダの多重散乱波データを機械学習させることで、駐車車両の間などの見通し外(視認できない)領域にいる歩行者などを、生体信号に特有のデータを抽出することで識別できることを世界に先駆けて実証しました。この技術を応用すれば、自転車に乗った人と歩行者の識別なども可能です。将来は子どもなど急に飛び出してくる人の動きを予測し、運転者にアラームを発するといった運用を模索していくそうです。

コンクリート内部を非接触に計測

二つ目のコンクリート非破壊モニタリングの研究では、マイクロ波を使い、道路やトンネルなどコンクリート内部の50センチメートル程度の深部を非接触で計測します。コンクリート内部の空洞や腐食、水の浸入といった異常などの検知は、現状は超音波による試験や打音検査などによって行われていますが、マイクロ波のレーダを車両に搭載すれば、高速かつ広範囲に検査することができます。
木寺教授はこのマイクロ波を使った非破壊検査において、レーダ法とトモグラフィ法による双方向イメージングを行うことで、実際の道路などでの複素誘電率のイメージングに世界で初めて成功しました。実証実験では「遊離石灰が起きていた道路下面を調べたところ、正常な箇所に比べて有意に高い誘電率が推定され、予測通り、床板表面における水の存在が示唆された」(木寺教授)そうです。今後はテラヘルツ波の活用などに広げていく予定です。

乳がんの診断・治療にも応用

最後のテーマが、マイクロ波による乳がんの診断・治療への応用です。乳がんは国内外でがんの罹患(りかん)率がトップの疾患ですが、既存の診断技術であるX線マンモグラフィは放射線による被曝や圧迫、がんの識別が困難といった問題から、受診率は30%程度にとどまっています。
これに代わる簡易スクリーニング検査として、「マイクロ波マンモグラフィ」が有望視されています。これはがん細胞の電気的特性を利用することから、小さながん組織でも高感度に区別できるうえ、非接触で安全、さらに低コストで簡便なことから、受診率の向上につながると見込まれています。

このマイクロ波マンモグラフィ検査において、木寺教授はレーダ法とトモグラフィ法による複素誘電率イメージングにさらに深層学習を導入し、検査の精度や速度を大幅に高めることに取り組んでいます。乳房の簡易ファントムを使い、広島大学病院との連携による臨床試験データを用いて実証を進めています。
マイクロ波はがんの診断だけでなく、治療にも応用されつつあります。マイクロ波プローブをがん細胞付近に挿入し、その周囲を高周波の電磁波で焼灼するマイクロ波アブレーション(マイクロ波焼灼)と呼ぶ手法が実用化され、肝臓がんや腎臓がん、肺がん治療などに用いられています。さらに今後、最も侵襲の少ない乳がん向けの治療法として普及が期待されており、木寺教授はこの手法の焼灼時のリアルタイムモニタリングなどを通じて、乳がん治療の精度の向上に寄与することを目指しています。

【取材・文=藤木信穂】