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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
木寺 研究室

UWB電磁波で壁や人間、煙の中をイメージングする

所属 大学院情報理工学研究科
情報・通信工学専攻
メンバー 木寺 正平 准教授
所属学会 電子情報通信学会、米電気電子学会(IEEE)、電気学会
研究室HP http://www.ems.cei.uec.ac.jp/
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掲載情報は2015年8月現在

木寺 正平
Shouhei KIDERA
キーワード

近距離レーダ、レーダ信号処理、超広帯域(UWB)レーダ、非破壊計測、超高分解能イメージング法、多重散乱波イメージング法、非侵襲生体計測、ロボットセンサ、誘電率推定、偏波レーダ

レーダの研究分野は産業に直結するため、企業の関心が特に高い領域の一つです。レーダとは電波を対象物に向けて発し、その反射波をとらえることで対象物までの距離や方向を測る装置です。ただ、一口にレーダといってもさまざまな種類があり、例えば、気象状況を観測する気象レーダや、情報収集衛星の一種であるレーダ衛星などはよく知られています。これらは主に数十メートルから数キロメートル離れた遠方の対象物をとらえる探知機です。
これに対して、数メートル以下の近距離の対象物をとらえる近距離レーダの研究が近年、ひときわ活発になってきています。というのも、1990年代まで米国では機密技術であり、それまで軍事目的にしか使われていなかった無線通信方式である「超広帯域無線(Ultra Wide Band:UWB)」に対して、2002年に米連邦通信委員会(FCC)が民間利用にも門戸を開いたことで世界的に注目されるようになったのです。
UWBの定義は「500メガヘルツ(メガは100万)以上の広い帯域幅を利用する無線通信」です(図1)。近距離の高速通信に使えるほか、近距離の対象物を検知するレーダとしての利用が可能です。一般に、UWBレーダは数十メートル程度の距離内にある車や建物などの対象物を、数センチメートル程度の分解能で検知できるといわれています。近距離向けのため、従来のレーダと違って、屋外だけでなく、室内で使えることも大きな特徴です。
図 1

木寺正平准教授はUWBレーダが取得したデータを解析し高度な信号処理法によりレーダ3次元画像の分解能を5倍以上に高める研究に取り組んでいます。数センチメートル程度だった分解能が1センチメートル以下程度まで向上できれば、より小さな対象物まで見分けられるようになります。「レーダで計測したデータさえあれば、帯域幅で決まる分解能を新たな画像化法で超越することができる」と木寺准教授は自信をみせます。
これを実現する新しいレーダ画像化法として、木寺准教授が開発したのが、境界点抽出(Range Points Migration:RPM)法です(図2)。RPMは、対象の立体像を再構成する際に、対象の表面境界を再現することだけに処理を絞ることによって、3次元像の画像化に必要なデータ量を従来の数千分の1以下に圧縮する方法です。既存の合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar:SAR)法では、対象が存在すると思われる範囲のすべてにおいて積分計算を行う必要があるため、計算処理に時間がかかっていました。RPM法は境界を抽出することに特化することで、従来は約1時間かかっていた対象物の位置の推定を約1秒の高速で行えるようにしたのです。

図 2

また、RPM法は各アンテナで距離が正確に測れた場合、分解能をいくらでも小さくすることができます。しかし、距離の分解能は帯域によって制限されるため、これが足かせになります。これを解決するため、周波数干渉計法という超分解能の距離推定法をRPM法に導入し、超分解能の画像化を実現しました。
例えば3ギガヘルツ(ギガは10億)の帯域幅を使ったUWBレーダは、通常なら5センチメートル程度の分解能を持ちますが、RPMと超分解能距離推定法を併用すれば、これを1センチメートル程度まで高性能化できます。これは人を十分検知できるレベルです。また、位置の推定精度は1ミリメートル単位、即ち百分の一波長の精度で可能です(図3)。さらに、従来は虚像の原因となるため使っていなかった「多重散乱波」を積極的に利用することで、イメージング可能な領域を広げることにも成功しています(図4)。

図 3
図 4

高分解能のUWBレーダは、光学センサやレーザが苦手とする粉塵や高濃度ガス、真空、暗闇、強い逆光などの環境下でも使えるため、特に災害現場で威力を発揮します。電磁波は壁を透過するため、がれきに埋もれている生存者を探し出す災害救助ロボットなどへの搭載が期待されています。地中内の埋没物の探査や金属などの資源探査にも使えます。
最も需要が見込まれる用途は、道路や橋梁、トンネルなどの交通インフラの点検でしょう。UWBレーダはコンクリート内部の亀裂や金属物、水分などの対象物を3次元のイメージング像で可視化できます。特徴は「非破壊」かつ「リアルタイム」の検査が可能なことです。高い分解能で測定できる従来の超音波検査は、対象物に接触させなければ計測できません。UWBレーダなら、例えば車にレーダを搭載し、すべての方向にレーダを出しながら、車で移動しつつ広い領域を一度に検査するようなことが将来、可能になるかもしれません。
また、セキュリティセンサとしてUWBレーダを使えば、高齢者や身障者の見守りにも使えます。プライバシーの観点では、従来の光センサは細かいところまで見え過ぎてしまうという欠点がありました。レーダなら高くても数センチメートルの分解能ですから、例えば、お風呂場などで人が動かなくなってしまっているということだけを粗く検知することができます。監視性能はしっかり備えています。そのほか、従来は検知しにくいと言われていた初期の乳ガンの早期発見など、UWBレーダは生体への応用も可能です。
「レーダに関するノウハウは私どもが持っているので、企業側にレーダの知見が無くても連携は可能」と木寺准教授は考えています。実際、企業からの問い合わせは多く、木寺准教授も「研究成果をできるだけ社会に役立たせたい」との思いを持っています。今後はUWBレーダの実用化に向けて企業と連携することはもちろん、生体と電磁波とのインタラクションについても研究を深めていきたいと考えているそうです。
【取材・文=藤木信穂】

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