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国立大学法人 電気通信大学

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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
澤田 研究室

制御工学をセキュリティやエネルギー、自動運転車に生かす

所属 i‐パワードエネルギー・システム研究センター
機械知能システム学専攻
メンバー 澤田 賢治 准教授
所属学会 米電気電子学会(IEEE)、計測自動制御学会、システム制御情報学会、電子情報通信学会、電気学会、機械学会
研究室HP home 澤田 研究室
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掲載情報は2023年4月現在

澤田 賢治 Kenji SAWADA
キーワード

制御系セキュリティ

制御工学は、ある対象を自在に動かすための枠組み(アルゴリズム)を研究する学問です。澤田賢治准教授はこの制御工学を主軸にして、最適化や信号処理といった数学の理論を使いながら、セキュリティやエネルギー分野のほか、自動車やロボットなど多様な産業への応用を目指しています。

IoT時代のセキュリティ対策

セキュリティ分野では、IoT(モノのインターネット)時代に向けて、特に工場内などの産業用機器の制御システムや重要インフラ(社会基盤)をサイバー攻撃から守るための技術を研究しています。情報システムとは違って、制御システムは一般的に運転期間が20-30年と長く、攻撃を受けても簡単に停止させられないといった制約があります。
 澤田准教授はアクチュエータやセンサを搭載した制御システムを動かす産業用コントローラに、セキュリティ機能を持たせるアルゴリズムを開発しました。コントローラのふるまいを常時監視し、正常な動作から逸脱した場合にリアルタイムに警告を出すことができます。これによって、サイバー攻撃による異常を迅速に検知できるようになりました。実際に、FA(ファクトリーオートメーション)機器やPA(プロセスオートメーション)機器に実装し、その機能を実証しています。

サイバー攻撃後の対応を考える

電気やガス、水道などの重要インフラを狙ったサイバー攻撃は多発しており、国家や企業にとってセキュリティ対策は喫緊の課題になっています。澤田准教授は国家プロジェクトにも参画し、攻撃を受けても運転を安定的に継続できる防御技術を研究してきました。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会では、設備を支える主要なインフラに導入されるなど社会実装も進めています。自動運転車向けのセキュリティの研究にも着手しました。
従来の「境界防御モデル」では万全なセキュリティの維持が困難なことから、近年、ネットワークに接続されたものは信頼せず、攻撃されることを前提にした「ゼロトラストモデル」が注目されています。澤田准教授は以前からサイバー攻撃後の対応について企業と共同研究しており、「攻撃を受けた際に、別のコントローラに切り替えて運転を継続するシステムの設計を行っている」そうです。

インシデント発生後のシステム運用

レジリエンスを考慮したエネルギーシステム

エネルギー分野では、地震や洪水など災害時のシステムの早期復旧を目指した、いわゆるレジリエンス(復元力)の高いエネルギーシステムの研究を手がけています。特に、ネットワークにつながった制御システムを分散的に自律処理する自律分散制御の手法を使って、電力システムの最適な制御方法などを模索しています。

自動倉庫システムや自動運転車両における渋滞を解消

自律分散制御の研究としては、ほかにも制御工学の観点から、ロボットを効率的に動かす研究をしています。昨今、米アマゾンが完全自律倉庫ロボットを導入して話題になりましたが、こうした自律走行時に問題になるのが、多数台のロボットが縦横無尽に走行することによる渋滞の発生です。荷積みや荷下ろしをするロボット同士の動作を協調させることで全体の動きを最適化し、渋滞を緩和する試みです。この研究は自動運転車にも応用しています。

個性化制御で人の運転に寄り添う

自動運転車の制御は最近、特に注力しているテーマです。自動運転車は現在、条件付き運転自動化「レベル3」が実用化され、改正道路交通法の施行により、無人運転も可能な高度運転自動化「レベル4」の公道走行も解禁されました。すでに導入が進んでいますが、インターネットにつながったコネクテッドカー時代には、エンジン制御など自動車のソフトウエアを随時アップデートしながら性能を向上していく形が主流になるでしょう。そのため「制御の重要性はますます高まる」と澤田准教授は考えています。
特に「レベル5」の完全運転自動化に至るまでには、ともに運転するドライバーの存在は無視できません。澤田准教授は運転する人の特性やスキルに応じた「個性化制御」を目指し、ネットワークを通じて蓄積されたドライバーの情報を活用して自動運転とうまく協調させる研究に取り組んでいます。人間参加型の人工知能(AI)であるヒューマン・イン・ザ・ループを制御工学に導入し、人の意思決定を制御系に取り込むという最新の研究です。
「これから車は単に性能を上げるだけでなく、個人に合った性能にいかに更新していくかという競争になるだろう」と澤田准教授は見通しているのです。

個性化制御
従来の自動運転とHuman-In-The-Loop Systemによる個性化された自動運転

【取材・文=藤木信穂】