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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
野嶋 研究室

自在に動くスマートヘア(人工毛)と、新世代スポーツの追究

所属 大学院情報理工学研究科
情報学専攻
メンバー 野嶋 琢也 准教授
所属学会 バーチャルリアリティ学会、情報処理学会、ヒューマンインタフェース学会、米電気電子学会(IEEE)、米コンピュータ学会(ACM)
研究室HP http://www.nojilab.org
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掲載情報は2017年3月現在

野嶋 琢也 Takuya NOJIMA
キーワード

バーチャルリアリティ、ヒューマンインタフェース、エンターテインメント

「毛」は、生物学において「生物体の表面から突出した糸状の構造物」と定義されています。人間の髪の毛や鳥の羽毛、植物の毛茸、獣毛など、毛は人工物には存在しない生物特有のものです。
だからこそ、人工物で毛を再現することには大きな意味があります。野嶋琢也准教授は、毛をモチーフにした柔らかい毛状インタフェース(スマートヘア)を研究しています。毛には「柔軟で親しみやすく、触れた時に独特の温かさを感じる」という魅力があります。

生き物のように動く毛状インタフェース

開発したスマートヘアの一つは、草のようにサワサワと動く80本の細いアクチュエータ(駆動装置)の集合体です。iPadなどのタブレット端末をその下に置き、映像を流すと、各アクチュエータがそれぞれ異なる挙動を示します。

草のように動くスマートヘア
温めると形が変わるワイヤ状の形状記憶合金にチューブをかぶせ、このチューブの下に、光に反応する光センサと小型の駆動回路を内蔵させます。端末に流す映像のシーンなどによって光の強度が変わり、80本のアクチュエータがこれに連動して思い思いに動くため、全体を眺めると、まるで生き物が動いているかのように見えるから不思議です。
ネコのしっぽをまねたアクチュエータなども開発しています。これも同様に、形状記憶合金を毛で覆って光センサを内蔵させており、なでるとしっぽが動きます。スマートフォンのアクセサリのほか、怒ると毛が逆立つペットロボットの毛皮などに使えそうです。

猫のしっぽのように動くスマートヘア

教育への応用やイベント演出なども

ワークショップでのスマートヘアを活用した授業

その愛らしい動きから、こうしたスマートヘアを教育に活用する取り組みも始めました。理工系に進学する女子生徒が少ないことに対し、「小学校の学習指導要領に沿った形で、女子をより意識した理科教育が行えないか」というのが野嶋准教授の問題意識です。「電気の通り道」という基本的な理科の授業で、一般的な豆電球ではなく、スマートヘアを用いることで、子どもの興味・関心をより引き出すことに成功しています。

スマートヘアの毛の密度は簡単に増やせます。数千本、数万本のアクチュエータでも大型ディスプレイが1台あれば動きをコントロールできます。イベントの演出などに適しているかもしれません。「例えば、“動く壁”や“動くじゅうたん”など、スケーラビリティ(拡張性)によって、ダイナミックに躍動するインタフェースを作り、新たな価値を作り出したい」と野嶋准教授は考えています。

コミュニケーションツールとしての宇宙服

女子美大と共同製作したスペース・クローズ 写真提供:女子美術大学

最近はさらに進んで、女子美術大学と共同で、スマートヘアを取り入れた宇宙ファッションの研究も手がけています。「30年後に宇宙旅行が身近になったときに、どんな衣服が求められるか」という観点から研究しているのです。
無重力状態になって、まず乗り越えるべき壁が「宇宙酔い」です。そこで、体にセンサーを装着して心拍や胃電図をとり、そこから“酔いの兆候”をとらえ、これによって衣服の襟や袖の飾りを光らせたり、色を変えたりする宇宙服(スペース・クローズ)のデザインを考案しました。
「服で表現することにより、周りの人が体調の変化に気づき、気遣える、そんなコミュニケーションのツールができたら」と野嶋准教授は展望しています。

スポーツとゲームを融合し、価値を提供する

開発した口腔トレーニング用ゲーム「スカッチュ」

一方、野嶋准教授の研究のもう一つの柱は、スポーツとゲームとの融合です。最近、非接触で口と舌の動きを検出する装置を開発し、口腔動作が鈍る高齢者などを想定した口腔トレーニング用ゲーム『スカッチュ』を開発しました。舌を左右に振るとラケットが動き、口をすぼめると球が打て、にっこりほほ笑むと初期位置に取ります。子どもからお年寄りまで楽しめるようさまざまな工夫をしています。

また、どんな相手とでも対等な試合ができるドッジボールの対戦法も開発しました。各プレーヤに攻撃力や防御力、体力(ヒットポイント)などの概念を導入し、個人の身体能力に合わせて自由に設定できるようにしました。
例えば、力の強い人は攻撃力を「低め」に、弱い人は「高め」に設定すれば、双方のチーム力を拮抗させられます。プレーヤはセンサを内蔵した専用のヘルメットをかぶり、ボールを頭上に掲げるとボールが認識されます。ボールに一度当たってもアウトにならず、ヒットポイントがゼロになるとアウトになるというルールです。

新しいドッジボール対戦法の試み

“勝負の世界”であるスポーツにこのような「平等を促す概念」を持ち込むことには違和感があるかも知れません。しかし、野嶋准教授は「スポーツはどうしても身体能力が強調されてしまうが、個人の持ち味を生かしたチームを編成すれば、スポーツの可能性や世代を超えた楽しみ方が広がるのではないか」と考えています。
野嶋准教授は、人間とシステムを一体化して増強する、いわゆる「オーグメンテッド・ヒューマン(人間強化)」時代の新しいスポーツのあり方を追究しているのです。

【取材・文=藤木信穂】