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国立大学法人 電気通信大学

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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
策力木格 研究室

分散学習による高品質な車両IoT基盤の構築

所属 大学院情報システム学研究科 
情報・ネットワーク工学専攻
メタネットワーキング研究センター長
メンバー 策力木格(WU Celimuge) 教授
所属学会 電子情報通信学会、米電気電子学会(IEEE)、情報処理学会
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掲載情報は2023年4月現在

策力木格
WU Celimuge
キーワード

車両ネットワーク、無線通信、エッジコンピューティング、セマンティック通信、分散機械学習

高度道路交通システム(Intelligent Transport Syste:ITS)は「人」と「道路」、「車両」の間で情報を送受信し、交通の輸送効率や快適性を高めるツールです。対象は道路交通だけでなく、鉄道や海運、航空など幅広く、新しい産業や市場が生まれる可能性の高い分野でもあります。

日本が発祥のITS

ITSは日本が発祥の地であることはあまり知られていないのではないでしょうか。日本の同分野の研究は1970年代から始まりましたが、当初は特定の用語はありませんでした。1995年、日本人の研究者が国際学会で「ITS」という用語を提唱すると、次第に普及し、現在では世界共通の用語として定着しています。
日本のITSは、代表的なものではカーナビゲーションシステムや道路交通情報通信システム(VICS)、料金自動収受システム(ETC)、先進安全自動車(ASV)などがあり、世界の成功事例として知られています。信号機の制御や道路防災などの道路交通管理、公共交通の支援、カーシェアリングにおける自動車の予約システム、携帯電話を使った自動車向け情報提供サービス(テレマティクスサービス)など各種システムの実用化も進んでいます。

車両間でデータを共有

こうした先進的なITS分野において、策力木格教授は現在、車両間を協調させながら分散学習する車両IoT(モノのインターネット)の研究に取り組んでいます。IoTの領域では、デバイス間などはネットワークでつながりつつありますが、自動車においては現状では複数の車両間の連携はまだ取れていません。
単一の自動運転車両だけでなく、複数の車両間でデータを共有しながら制御できるようになれば、山道や市街地などさまざまな道路状況に合わせて、走行時の迅速な判断が可能になります。「今後、プライバシーが保護されていけば、車両間が協調する車両IoTの時代に突入するだろう」と策力教授は見通しています。

学習に適した車両を選択する

研究の背景

ただ、通信、計算、ストレージなどの情報処理資源は有限であり、複数の車両間で生データを共有することは現実的ではありません。そこで策力教授は、学習用データをサーバなどに集約せずに機械学習ができるプライバシー保護に適した連合学習(フェデレーテッド・ラーニング、FL)に深層強化学習を導入し、多数の車両データを活用しながら、通信、計算、ストレージの各資源を最適化する手法を考案しました。

また、車両は常に移動しており、集約型ではない自律分散型のネットワークを瞬時に構築しながら学習させることは非常に困難です。そのため、経験に基づいて人間のように柔軟に推論できる「ファジィ論理」を用いて、複雑かつ動的な道路環境におけるデータを作成し、このデータを使ってFLモデルを事前に学習することで車両IoTの信頼性を高めることに成功しています。

その際、すべての車両データは使わず、どの車両のデータを学習させるのがよいかという車両の能力に応じた「学習クライアント」の選択を効率的に行い、限られた資源の中でネットワーク品質を向上させる手法を提案しています。そのほか、ブロックチェーン技術を導入した自律分散環境におけるFLモデルなども検討しています。これらの提案手法をまずコンピュータシミュレーションによって検証し、その後、実車両を用いた実証実験を進めていく予定です。

ファジィ理論に基づいたクライアント選択
シミュレーション評価の様子

自動車メーカーと共同研究

策力教授は中国の内モンゴル自治区の出身です。日本企業への就職を目指して電気通信大学に留学し、博士号を取得しました。その後、さらに研究を深めるために大学に残りましたが、自動車メーカーと共同研究を進めるなど産学連携に意欲的に取り組んでいます。「分散学習を用いた車両IoTの実用化を目指し、専門家だけでなく、産業界の方々と広く意見交換をしながら、グローバル規模で研究を進めていきたい」と考えています。

【取材・文=藤木信穂】