このページの先頭です

メニューを飛ばして本文を読む

国立大学法人 電気通信大学

訪問者別メニュー

ここから本文です

研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
石橋(孝)研究室

低消費電力のIoTセンサーの開発と実用化への取り組み

所属 大学院情報理工学研究科
情報・ネットワーク工学専攻
先端ワイヤレスコミュニケーション研究センター
メンバー 石橋 孝一郎 教授
所属学会 電子情報通信学会、米電気電子学会(IEEE)Fellow
研究室HP http://mtm.es.uec.ac.jp/
印刷用PDF

掲載情報は2021年5月現在

石橋 孝一郎 Koichiro ISHIBASHI
キーワード

IoT、低電力集積エレクトロニクス、超低電力LSI、エネルギーハーベスティング、センサーネットワーク、電力センサー、医療向けセンサー、IoTセンサー、水産業応用、省エネルギー応用

すべてのモノがインターネットにつながるIoT(モノのインターネット)時代が到来しつつあります。近年、「トリリオン・センサー・ユニバース」(星々のような1兆個のセンサーの世界)という言葉が生まれ、2024年ごろには、年間1兆個のセンサーを使った大規模なセンサーネットワークが地球上を張り巡らすようになると予想されています。こうした多数のセンサーが膨大なデータを生み、そこから得られた価値ある情報が我々の生活を大きく変えると期待されています。

低電力化技術

研究概要

低電力集積エレクトロニクスを専門とする石橋孝一郎教授は、安心・安全なIoT社会の実現に向けて、デバイスの低消費電力化や環境発電(エネルギーハーベスティング)、各種センサーなど、多様なIoT関連技術を研究しています。これまでに世界トップ級の低電力LSIを開発してきた実績があり、低電力化技術では、主にIoTデバイス向けに世界最小クラスの電力で動作する32ビットCPUなどを実現しています。

携帯向けの電波を集める

現在力を入れているのは、環境中のエネルギーから電力を集めて発電させるRF(無線周波数)エネルギーハーベスティング技術の研究です。地上デジタル放送波や携帯電話用の電波などのエネルギーを集め、その電力によってセンサーを駆動させるシステムを開発する国家プロジェクトを進めています。携帯電話のRF信号は人が住むところには必ず存在し、空間を漂うこの電波のエネルギーを多数集めることで、10マイクロワット(マイクロは100万分1)程度の電力として使えるのです。
プロジェクトでは、従来は10%程度だった電力への変換効率を80%近くまで高めることに成功しました。人工物質(メタマテリアル)を使ったアンテナによって電波の受信感度を高めたほか、整流子(アクテナ)を高性能化し、1マイクロワットほどの微小な電力でも動作可能なシステムを開発しました。石橋教授は「非常時などにセンサーの電源が確保できなくなっても、環境中から効率良く電力を取り込むことができれば早期に復旧できる」と考えており、数年以内の実用化を目指しています。

RFエネルギーハーベスティングIoTの世界

独自開発のビートセンサー

これに加えて、エネルギーハーベスティングで動作可能な独自の極低電力センサーとして、心拍(Beat)のように規則的にデータを送信する「ビート方式」のIoTセンサーを開発しました。センサー内の各送信器にID番号をふり、そのIDの信号だけを送信する仕組みで、消費電力を極限まで抑えられます。ID信号を送信する間隔を細かく制御することによって、温度や電力、湿度、照度などを測定する多様なセンサーとして使うことができます。一般的なIoTセンサーに比べて小型かつ安価なうえ、データの精度も高く、長時間の動作や長距離の通信も可能です。

開発したビートセンサー

石橋教授は実際にベトナムの大学と共同で、同国最大の都市ホーチミン市が推進するスマートシティプログラムに参画し、ビートセンサーを使って大気汚染を検出したり、河川の干ばつを検知したりして早期に警告することを目標にしています。そのほか、農業分野では種まきや収穫の適切なタイミングを検知したり、養殖業では水質管理に導入したりなど、多方面で実証実験に乗り出しているのです。

デング熱患者のスクリーニング

さらに医療向けセンサーとして、非接触のドップラーレーダーを用いて心拍や呼吸数などの生体情報を取得し、デング熱の患者をスクリーニング(選別検査)するプロジェクトも進めています。デング熱は東南アジアなどの熱帯・亜熱帯地域で主に夏に流行する感染症で、蚊が媒介して感染が広がる熱帯病の一つです。現時点で有効なワクチンはありません。
開発したスクリーニングシステムは、着衣のまま胸の表面を数十秒間計測するだけでデング熱に感染しているかどうかを判定できます。2019年夏に、ベトナムの首都ハノイで感染者を含む400人以上の生体情報を取得してスクリーニングした結果、人工知能(AI)を用いた分析手法において、98%以上の精度で感染症の罹患者を検出できることが分かりました。発熱の有無をチェックする体温検査よりも高精度な方法だといいます。

スクリーニングの実証実験の様子
このプロジェクトは電気通信大学の「グローバル・アライアンス・ラボ」の活動として、ベトナムのハノイ医科大学やベトナム国立熱帯病病院など、複数の機関の協働により推進しています。このように石橋教授は、国内外の大学や企業と積極的に連携し、さまざまな分野においてIoTセンサーの研究と実用化に取り組んでいます。

【取材・文=藤木信穂】