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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
宮脇 陽一 研究室

ヒトの脳活動を計り、「第6の指」の先へ

所属 大学院情報理工学研究科 機械知能システム学専攻
脳・医工学研究センター
メンバー 宮脇 陽一 教授
所属学会 日本神経回路学会、日本神経科学会、日本視覚学会
メールアドレス yoichi.miyawaki@uec.ac.jp
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掲載情報は2024年5月現在

宮脇 陽一
MIYAWAKI Yoichi
キーワード

脳神経科学、知覚、感覚、視覚、触覚、ニューラルネットワーク、人工知能、医用生体工学、自然言語処理、ブレインマシンインタフェース、義肢

ヒトの身体はなぜ、今のような形に決まっているのでしょうか。もし、仮にあとから6本目の手の指や、3本目の腕、足などを人工物で加えたら、私たちの脳はどのように感じるのでしょうか。
このような目的から、宮脇陽一教授らが開発に取り組んだ「第6の指(sixth finger)」は、国内外で大きな反響を呼びました。手のひらの小指側に6本目となる「人工指」、いわゆるロボットハンドを装着したところ、誰もが1時間足らずでその感覚に慣れ、さらにはほかの身体の部位とは独立に、かつ自在に動かせるようになることを実証しました。「人工指でも自身の身体の一部のように感じられるため、人間の“身体拡張”の可能性を開く」と宮脇教授は考えています。
これまでもロボットアームやロボットハンドを装着して動かす研究はありましたが、ロボットアーム(腕)を“足”で動かすというように、従来はほかの身体部位を用いてこれらを制御する必要があり、機械部分だけを独立に動かすことはできませんでした。

開発した「第6の指(sixth finger)①
開発した「第6の指(sixth finger)②

人工指を「身体化」する

開発した人工指を手のひらの小指側に装着し、そのうえで腕の筋肉の電気活動をセンサーで計測します。このセンサーから得られた情報が、指を曲げる筋肉と伸ばす筋肉を同時に活動させたときの信号パターンを示した時に、内蔵したモーターが稼働して人工指が動くように設計しました。人工指の内部には皮膚を刺激するピンが内蔵されており、人工指の曲げ伸ばしと連動する形で、人工指に皮膚感覚がフィードバックされるように作り込んであります。
実験では、被験者が人工指を装着した後、自身の指と人工指の両方を使って、指の曲げ伸ばしやタイピングなどのタスクを1時間程度行いました。そのタスクの前後に、人工指を外した状態で行動実験とアンケートを行いました。

sixth fingerを装着したタイピングの様子)

その結果、人工指を自身の身体の一部と感じた度合いが高かった被験者ほど、人工指を外した後の自身の「小指」の位置に対する感覚のばらつきが大きくなることが分かりました。この結果は、人工指を外した後でも小指側の位置感覚が曖昧になるくらい、人工指が自らの身体に「取り込まれた」ことを示しています。宮脇教授は「『第6の指』が自らの身体の一部として『身体化した』結果だ」ととらえています。現在は、この時に実際に、脳がどう変化したかを調べるために、磁気共鳴断層撮影装置(MRI)による脳活動の計測を進めています。

腕やしっぽ、羽は身体化できるか

脳は私たちが思うよりも柔軟な器官であるようです。例えば、事故による欠損や病気によるまひなどでも身体の変化は起こりますが、そうした際でも私たちは新しい身体に順応し、さらに義手や義足などで失われた機能を補えば、身体を再び操れるようになります。
もし、指が6本あったら、ピアノやギターの演奏手法がガラリと変わるかも知れません。これまで片手では持てなかったものが、持てるようにもなるでしょう。宮脇教授は「6本目の指が受け入れられるのならば、7本目はどうか。指ではなく腕ではどうか。さらにはしっぽや羽など、人類が持たない器官は身体化できるのか。ヒトは生まれ持った身体からどれだけ自由になれるのか。そうしたことも今後は研究していきたい」と話しています。

時間・空間分解能の高い脳計測

このほか、脳活動の計測や解析方法の研究も大きな柱になっています。脳を傷つけずに測る非侵襲の脳計測には、脳の神経細胞の電気的な変化をとらえる脳波(EEG)計測のほか、磁場を利用する脳磁場(MEG)計測や機能的磁気共鳴画像法(fMRI)などがあります。
これらの方法はそれぞれ一長一短があり、EEGやMEGの計測は脳の電気や磁気の変化をミリ秒オーダーで直接測るため「時間分解能が高い」というメリットがある反面、計測点が脳の外側にあり、脳のどの部位が活動したのかが分からないという「空間分解能の低さ」がデメリットになります。一方、fMRIは血流の変化をミリメートルオーダーの「高い空間分解能」で計測できますが、血流変化を介して間接的に脳活動を測ることから「時間分解能が低い」という欠点があります。
宮脇教授はこれらを同時に満たす方法として、fMRI計測で得られた情報とMEG計測で得られた情報を組み合わせることで空間分解能を高めたり、fMRI信号を高速計測することで時間分解能を高めたりする方法を研究しています。

人の眼球運動を解析する

さらに、画像を見たときの人の目の動き(眼球運動)をディープニューラルネットワーク(DNN)を使って解析した結果から、人は複雑な特徴(高次の特徴量)を持つ場所に最初に目を向けやすい傾向にあることが分かりました。今後、目の動きと脳活動を比較することで、脳でどのような情報処理が行われているかが分かるようになるでしょう。
ヒトの身体や感覚、知覚の変容によって脳の活動はどのように変わるのか――。人工指の研究も脳計測の研究も、根底には共通の問いがあるのです。

【取材・文=藤木信穂】