研究室紹介OPAL-RING
田中(基) 研究室
階段や小道も難なく進む「ヘビ型ロボット」の開発
所属 | 大学院情報理工学研究科 機械知能システム学専攻 |
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メンバー | 田中 基康 教授 |
所属学会 | 米電気電子学会(IEEE)、計測自動制御学会、日本ロボット学会 |
研究室HP | https://sites.google.com/site/motoyasutanakalab/ |
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掲載情報は2017年11月現在
- 田中 基康 Motoyasu TANAKA
- キーワード
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ヘビ型ロボット、多連結ロボット、冗長性、レスキューロボット、不整地踏破
高さ1メートルもある段差や階段を登ったり、20センチメートル幅程度の狭い小道をすり抜けたりと、人間が立ち入れない場所にもスルリと入り込める「ヘビ型ロボット」は、工場などの点検のほか、災害現場で被災者などを探し出す災害救助(レスキュー)用途などとして期待されている次世代ロボットです。
こうしたヘビ型ロボットの分野で注目されている田中基康准教授は、ヘビのように細長いこのロボットを「いかに賢く動かすか」をテーマとし、制御アルゴリズムの開発や、実際にロボットを作って動かす実用研究を手がけています。
単純な形でも賢く動く
- ヘビ型ロボット T2 Snake-3
ヘビ型ロボットは、今やロボット開発における一大分野に発展していますが、そもそもなぜ「ヘビ型」なのでしょうか―。生き物のヘビは、手も足もない細長いシンプルな体でありながら、平地はもちろん、障害物などがある場所や、狭い道でもスイスイと進みます。それだけでなく、微小な突起に体を引っかけて壁を登ったり、泳いだり、さらには空を飛んだりするものもいます。
田中准教授は、「単純な形状ながら、さまざまなことが可能なロボットが作れる」とヘビ型ロボットの魅力を語ります。ヘビ型ロボットの開発は当初、ヘビの動作をまねる研究から始まったそうですが、現在では生き物を超える多くの機能を搭載しています。冒頭の「段差や階段を登れるヘビ型ロボット」は、田中准教授が最近開発したものです。
全長170センチの細長いロボット
これは、車輪部を関節で直列につないだ全長170センチメートル、重さ約9キログラムのロボットで、17個の関節用モーターと10個の車輪用モーターを積んでいます。先頭と最後尾に取り付けたカメラの映像を見ながら、人間が遠隔地から無線で操作して動かす仕組みです。田中准教授が開発した最新の制御アルゴリズムは、「たとえ車輪にモーターが付いていなくても動かせる」そうです。
うねうねと前進するだけでなく、体全体で障害物をよけるほか、頭を持ち上げても倒れないといった“賢い”動きが可能です。距離センサーを搭載すれば、周囲の環境の地図を作成できるため、この地図で体の位置を確認しながら確実に進ませることもできます。
- 壁を使って先頭を高く持ち上げる
- 配管進入
- 狭路に進入
- 持ち上げた先頭部で軽作業(例: 引き出し開け)
- 高さ1mの段差越え
- 階段昇降
複雑な環境下でも動かす
平地でできるこうした動作を、複雑な環境下で行わせることが次の目標です。平面だと難なくできる動きも、不整地ではとたんに難しくなります。階段などの段差は現在も登れますが、今後は斜面を登ったり、障害物が散乱している場所を移動したり、パイプの中をくぐったりといった動作の実現を目指しています。
期待する応用先は、プラントなどの工場設備や天井裏といった危険が伴ったり人が入れなかったりする場所の巡回点検や、トンネルや橋などインフラの点検用途です。事故や災害発生時の被害の拡大を抑えるこうした日常的な人の点検作業を代替できれば、「災害時に活躍するレスキューロボットに応用する前段階として、平常時から使える『災害予防ロボット』として役立てられる」と田中准教授は考えています。
そのほか、既製品では難しい階段や狭い場所なども楽々と掃除ができる「お掃除ロボット」や、腕や足に巻き付けて体をもみほぐす「マッサージロボット」などの応用も見込んでいます。ヘビ型ロボットは長さを自在に変えられ、軽いため持ち運びも簡単です。
移動+作業できるロボットへ
現状のヘビ型ロボットは、人が入れない場所にスムーズに「移動できる」ことがその特徴ですが、さらにそこへロボットハンドなどの新たな機能を追加すれば、目的地に移動した上で「作業させる」ことが可能です。こうしたことから、「ヘビ型ロボットは、作業ロボットの“プラットフォーム”として位置づけられる」と田中准教授はとらえています。
- 段差・狭所も移動できる多連結掃除ロボット
- ヘビ型マッサージロボット
現在でも、机の引き出しを開けたりする作業はできますが、将来は、取り付けたロボットハンドでドアを開けたり、検査装置を搭載して工場などにある機械の故障を検知したりといった使い方ができるようになるかもしれません。また、人工知能(AI)を組み込めば、人が操縦せずに、自律的に動かすことも難しくないでしょう。
2020年には、日本でロボットの国際大会「ワールド・ロボット・サミット(WRS)」が開かれます。そこではレスキューロボットの新リーグが設置される予定で、田中准教授はそこへの出場を目指し、現在、新たなヘビ型レスキューロボットの開発を進めています。
【取材・文=藤木信穂】