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国立大学法人 電気通信大学

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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
美濃島 研究室

光周波数コムを用いた知的光シンセサイザの開発

所属

大学院情報理工学研究科
基盤理工学専攻

メンバー

美濃島 薫 教授

所属学会

応用物理学会、レーザー学会、米国光学会(Optica)、日本光学会、日本物理学会、国際光工学会(SPIE)、米国物理学会(APS)、米電気電子学会(IEEE)

研究室HP http://www.femto-comb.es.uec.ac.jp/
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掲載情報は2022年7月現在

美濃島 薫
Kaoru MINOSHIMA
キーワード

光計測、超高速光科学、光周波数コム、光コム、光シンセサイザ、超短パルスレーザー、ファイバレーザー、精密計測、イメージング、分光、距離計測、センシング、光物性

音の高さが規則的に並んだ鍵盤をもつピアノのような楽器が「音を奏でるシンセサイザ」なら、「光を奏でるシンセサイザ」はどのようなものでしょうか。ピアノは鍵盤で音程やリズム、強さを制御することで楽器になります。この音の世界の鍵盤に対応するのが、光の世界の「光周波数コム」です。光の領域では、光の周波数が規則的に並んだ光周波数コムを使って光の振幅や位相、周波数、波形などを制御することによって、光を自在に奏でる“光の楽器”を作ることができるのです。

光を自在に操る

日本の光周波数コムの研究をリードする美濃島薫教授は、光を使いこなすツールとして、光周波数コムを用いた知的光シンセサイザの研究開発を進めています。「究極の夢は光を自在に操ること。その夢の技術が実現できたら、それがどのように人類・社会に役立つのかという応用の道筋を示したい」と美濃島教授は語ります。

知的光シンセサイザの研究

知的光シンセサイザの研究

光周波数コムは波長範囲の広い、いわば“白色”のレーザーであり、これを周波数に分解すると、出力が等間隔に並んだくし形(コム)になっています。この光周波数コムは人類が手にした最も正確な計測ツールであることから、「光のものさし」とも言われています。光周波数コムの研究はノーベル物理学賞も受賞しています。

光の櫛「光(周波数)コム」

光の櫛「光(周波数)コム」

“計測は科学の母”と言われるくらい、ものさしは科学の基本であり、測れるものはすべて作ることができます。もちろん、ものづくりに限らず、医療や製薬、環境、防災などの分野や人工知能(AI)、ビッグデータなどの活用領域においても、測定が基盤になることは言うまでもありません。

「長さ」の国家標準に

美濃島教授は、工業技術院計量研究所(現:産業技術総合研究所)に所属していた2000年、研究チームで光周波数コムを用いた光周波数の絶対測定に成功しました。2009年には、産総研の光周波数コム装置が「長さ」分野の国家標準として指定され、日本のものさしの基準の精度が300倍に向上しました。光周波数コムによって、時間(周波数)と長さ(波長)が一本のものさしで測れるようことになったことも大きなインパクトを与えました。
もっとも光周波数コムは単なるものさしにとどまりません。エレクトロニクスの領域から光の領域までの広い範囲を精密に測定できるということは、エレクトロニクスと光技術という異なる技術分野をつなぐことにほかなりません。また、時間や空間、周波数、強度、偏光、ビームパターンなど、一見無関係な異なる次元も精度を落とさず広範囲にわたって自在に結びつけることができます。知的光シンセサイザは「光周波数コムの圧倒的な正確さが生む“余裕”によって、新たな機能を作り出すことができる」と美濃島教授は強調しています。

10キロ先の紙の厚さが分かる

美濃島教授はこうした光周波数コムを「作る」研究と、「使う」研究を並行して進めています。作る研究については、光ファイバを用いた世界最高性能のファイバコムを研究室で自作しています。例えば、二つの光コム光源を束ねてあたかも1台の光源のように動かすデュアルコム・ファイバレーザーを開発し、小型化と実用性能を実現しています。

JST,ERATO美濃島 知的光シンセサイザ(2013.10~2020.3)

JST,ERATO美濃島 知的光シンセサイザ(2013.10~2020.3)

一方、使う研究に関しては、10キロメートル先のコピー用紙の厚さを測定できるほどの精度と、ピコメートル(ピコは1兆分の1)の微細測定が可能な光周波数コムの距離計を開発しました。国際比較で世界トップの精度を達成し、周波数コムの初の実用応用として大きな注目を浴びました。距離の高精度・広範囲な絶対測定は、半導体デバイスの作成などの微細な領域から、建造物の劣化診断といった大型設備の長期モニタリングまでさまざまな応用を開くに違いありません。
さらに産業界から最も期待されているのが、3次元計測(イメージング)技術としての活用です。美濃島教授は時間とともに周波数が規則的に変化する(チャープした)光周波数コムを使い、高い測定精度と広い範囲、および高速性を同時に実現させ、これまで未踏の領域とされた10のマイナス6乗の高い精度/範囲の3次元イメージをピコ秒・フェムト秒(フェムトは1000兆分の1)の一瞬でとらえることが可能なことを示しています。自動車や航空機など大型物体の形状・構造計測や自動運転、ロボットなどのセンシング、材料加工や細胞の観察など、今後幅広い分野に適用されていくでしょう。

物質材料の“血液検査”

このほか、光周波数コムを使った高精度で広範囲、かつ高速で高い識別性を持った分光・分析技術は、基礎物理や環境、医療、宇宙などの分野においても新たなツールとして期待されています。例えば、波長を赤外線の領域まで延ばした「赤外コム」は、温室効果ガスの分光検出や呼気の分析、有害物質の検知などに役立つそうです。
こうした優れた機能を持つ光周波数コムの光源と分光技術を組み合わせることによって、「物質材料の“血液検査”ともいえる包括的な評価技術が可能になり、高速かつ広帯域、高感度、高機能を兼ね備えたマルチモーダル型のオンデマンドシステム“光ネットワークアナライザ”が作れる」と美濃島教授は考えているのです。
科学技術の基盤となる「光」を使いこなし、その可能性を最大限に引き出したい――。そうした思いで、美濃島研究室では、極限を極める基礎研究から幅広い産業に役立つ応用研究まで、光周波数コムの研究開発を系統的かつ包括的に手がけているのが特徴です。特に光周波数コムの単なる精密に留まらない応用研究は日本の強みでもあり、世界でも高く評価されています。

【取材・文=藤木信穂】

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研究概要

研究紹介