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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
小木曽 研究室

制御理論でモノや人を自在に操る

所属 大学院情報理工学研究科
知能機械工学専攻
メンバー 小木曽 公尚 准教授
所属学会 計測自動制御学会、システム制御情報学会、日本機械学会、米電気電子学会(IEEE)
研究室HP http://www.kimilab.mi.uec.ac.jp
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掲載情報は2015年8月現在

小木曽 公尚
Kiminao KOGISO 
キーワード

制御理論、制御工学、ゲーム理論、最適化、数理モデル、ダイナミクス、飽和要素、リファレンスガバナ、空気圧ゴム人工筋肉、暗号化

自動車やロボット、ロケットなどの高性能な機械の制御は何に基づいて設計されているのでしょうか。恐らく今までの熟練技術者の経験や勘、ノウハウに頼る部分がかなり大きいのではないでしょうか。ところが、こうしたいわゆる「暗黙知」は他人に伝えることが困難です。それゆえに、モノづくりの現場では次世代への技能の伝承が課題になっています。

暗黙知を数理モデルに

しかし、そんな暗黙知も、モノの動きの本質をとらえて数理モデルで記述する「制御理論」を使えば、その多くを表現することができます。制御理論が専門の小木曽公尚准教授によれば、制御理論に基づく「制御工学こそ、モノづくりのエッセンスである」そうです。数理モデルにノウハウを落とし込めれば、世界中の人々が、それこそ未来永劫そのモデルを利用することができるのです。
制御理論とは、モノを自動で動かす(制御する)ための方法論です。あるいはコントローラー(制御装置)を作るための骨格といってもよいかも知れません。制御したいモノの動きを抽象化し、最適な数理モデルで表現することを目指すものです。モデルが完成した後にようやく、それを基にコントローラーをどう作るか、というモノづくりが始まるのです。

モノづくりに利用する

市販品の人工筋肉
人工筋肉の概念図
人工筋肉装置

小木曽准教授はこれまでに、身体の動きを補助するパワーアシストスーツや、介助ロボット、リハビリシステムなどに使われる「人工筋肉」の数理モデルを作ることに成功しました。人工筋肉は、ゴムのような弾性材のチューブに空気を入れると動力を得る柔らかいアクチュエータ(駆動装置)です。数理モデルを用いたシミュレーションと、実際の人工筋肉装置を使った実験結果がほぼ一致することから、得られた数理モデルの高い有効性を確認しています。
所望の数理モデルを立てるまでにはある程度の時間を要しますが、一旦できればモデルは無限のパターンを表せます。「モデルを使えば、機械要素の設計が効率的かつ高精度に行えるようになり、モノづくりの高性能化につながる」と小木曽准教授は考えています。制御理論を取り入れたモノづくりはまだほとんど行われていないのです。

ゲーム理論に導入

もっと言えば、制御理論の応用先はモノづくりに限りません。小木曽准教授が現在、力を注いでいるのが、人の意思決定を制御するための数理モデル作りです。オークションなどにも使われているよく知られる「ゲーム理論」は、利害の対立する集団の行動を数学的にとらえる理論で、現在の経済学における有力な手法になっています。しかし、ゲーム理論は通常、ゲームに参加する各プレーヤーが相手に対して最適な戦略を取っている「均衡状態」をモデル化するものであって、そこに「制御する」という発想はほとんどありません。
そこで小木曽准教授は、ゲーム理論に初めて制御理論の手法を導入し、ゲームを制御する、いわばゲームデザインを行うことを目指しました。実際に取り組んでいるのが、ソフトウエア工学の研究者と協力し、通常ボランティアで行われる「オープンソースソフトウエア」の開発に、人々がどんな意思で参加しているのかを明らかにしようという試みです。
オープンソースソフトウェア開発の依頼者は報酬を出せないため、できるだけ楽しんで開発してくれる人を探したい。現にそこには、進んで参加する人と、一方で興味はあるが、何らかのきっかけがないと参加するまでには至らないという人、技術は持っているのに参加する意思は持たない人などがいるでしょう。これらの関係は「ベイジアンゲーム」と呼ばれるゲーム理論の問題として考えることができます。
人の心は簡単には読めませんが、制御理論の導入により、例えばこのプロジェクトに参加しているある人の「奉仕心が40%」、「楽しさが60%」、「満足度が80%」などという、「“本音”の情報を確率的に推定できるかもしれない」と小木曽准教授は期待しています。「このような働きぶりを示す人はこんな気持ちであることが多い」といったモデルを作ることができれば、人の本音を自動で計算できるようになるかも知れません。さらには、プロジェクトを効率的に進めるために人をどう動かすか、すなわち、人や組織のマネジメントに向けて有効な手段を示せるかもしれないのです。

制御理論を多方面へ

制御理論は機械工学や電気工学の手法として生まれ、現在でもこれらの分野がメーンの応用先です。しかし、人の制御にまで適用範囲が広がれば、社会へのインパクトは大きいでしょう。小木曽准教授は「エンジニアリングに限らずに、制御理論を多方面へ輸出することが研究者としての役目」だと考えています。人の制御が可能になれば、コンサルティングなどのツールとしても使えそうです。
ほかにも、制御システムを暗号化する研究にも取り組んでいます。これはモデルを立てて制御するような研究ではなく、既にあるコントローラーの内部を暗号化するものです。工場などの産業用計算機の中に組み込まれているコントローラー内部の信号が盗聴されるのを防ぐ仕組みで、現在社会問題になっているサイバー攻撃の対策になります。「制御」を知り尽くしているからこそ、こうした実用的な研究も可能なのです。数学を使いこなし、ソフトとハードを自在に行き来できる、制御理論とはそんな万能な力を秘めた学問なのです。
【取材・文=藤木信穂】

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