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国立大学法人 電気通信大学

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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
岡本 研究室

情報推薦システムの研究

所属 大学院情報理工学研究科
情報学専攻
メンバー 岡本 一志 准教授
所属学会 電子情報通信学会、情報処理学会、人工知能学会、日本知能情報ファジィ学会、情報知識学会、日本経営工学会、日本感性工学会
研究室HP http://www.ds.lab.uec.ac.jp/
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掲載情報は2021年3月現在

岡本 一志
Kazushi OKAMOTO
キーワード

データサイエンス、Webインテリジェンス、推薦システム、計算知能、ソフトコンピューティング、機械学習、最適化、コンピュータビジョン、行動センシング、マーケティング

オンラインショッピングのサイトなどでは、商品の購入履歴やレビューなどの評価データを基に、「この商品を買った人は、こんな商品も買っています」といった推薦がしばしば行われています。こうした表示に思わず見入ってしまう人も多いのではないでしょうか。しかし、どのような根拠でその商品を推薦しているのかは、実は明確にはなっていません。

透明性のある説明

協調フィルタリング

岡本一志准教授は、このような情報推薦システムについて研究し、ユーザや運用者に対して、商品を推薦した「理由」を的確に説明することを目指しています。統計学や計算機科学、機械学習の手法を使ったデータサイエンスの領域において、特に計算知能の方法論を用いています。購買履歴や商品の評価などの行動ログを収集・分析することによって、人の意思決定を支援したり、モノやサービスの価値推定やマッチングに生かしたりするのが研究の目的です。

データ収集と分析に関する研究

例えば、商品を薦める際に、「この商品はお勧めです。なぜなら○○だからです」というように、システムがどのように判断したのかを明確に提示できれば、説得力が高まります。「推薦理由の“透明性”のある説明を行うことは、推薦した商品の受け入れやすさや信頼性、満足度に寄与することが明らかになっている」(岡本准教授)そうです。
こうした研究は、従来はユーザやアイテムに変更があってもモデルの再構築が不要な「メモリベース法」で行われるのが主流でしたが、処理に時間がかかるという課題がありました。これに対して、岡本准教授は規則に従った推薦をすることで高速化できる「モデルベース法」を採用しています。事前に学習したモデルに基づくため、推薦の説明をする際の計算時間を大幅に短縮できるのです。

推薦の説明

図書の推薦に応用

想定される応用

一つの応用として、電気通信大学の附属図書館の貸出履歴のデータを使って「図書推薦システム」を作りました。学年と学科、専攻の同じ学生を同一グループに分類し、このグループが2015年と16年に借りた図書のデータをシステムに学習させます。これを基にして、同グループが17年に借りるであろう図書の一覧を推薦します。この予測結果と、実際に17年に借りられた図書を比較し、その予測精度(当たった確率)をスコアで算出します。
その結果、推薦結果の上位5―20件の分析では、現状でも2―3割の確率で予測が当たることが分かりました。従来研究にはなかった説明機能を新たに加えており、さらに予測までのスピードを100倍以上に高速化した上で、同等以上の精度を維持しています。推薦理由の説明方法は、例えば「予測スコア 4.1」「ユーザの影響 1.3」「アイテムの影響 0.9」「交互作用 0.7」「システムの影響(バイアス) 1.2」といったように、5点満点のスコアで表示します。

人と人をマッチングする

さらにこれを発展させ、岡本准教授は人と人をマッチングさせる「共同研究者の推薦システム」も開発しました。これは公開されている科学研究費助成事業データベースの情報を基に、研究者のつながりをネットワークで示し、その中で共同研究相手として最適な研究者を割り出すものです。この推薦結果は、従来研究では予測し得なかった新たな共同研究者を発掘できることが分かりました。
このシステムは、大学ではリサーチ・アドミニストレーター(URA)の業務支援や、学内の共同研究の活性化などに役立ちそうです。予想もしなかった相手との連携が、新たなイノベーションにつながるかもしれません。研究者間だけでなく、研究者と企業をつなぐ産学連携や、専門スキルを持った人材を探すなどのヒューマンリソース・マッチング分野に広く応用できるでしょう。岡本准教授は「人と人をつなぐ場合には、特に推薦理由の説明により高い透明性が求められる」と考えています。
そのほか、賃貸物件の部屋の間取り図や階数、専有面積、立地、築年数などの属性を入れると賃料が予測できる、不動産向けのシステムなども研究しています。

スコアだけでなく、言葉でも説明

このように推薦システムはあらゆる分野に適用できます。一方で、オンラインショッピングなど商品の推薦に使う場合は、主にレビューデータを活用しますが、そこには営利目的で書かれたウソのレビュー(スパムレビュー)が含まれている可能性があります。今後はこのスパムレビューを検出したり、レビューの有用性を評価したりする研究に発展させていくそうです。
また、説明の手法についても、スコア表示だけでなく、言葉で表現できるようになれば、より分かりやすく訴えられるでしょう。岡本准教授はそうした技術を改良していくとともに、「マーケティングだけでなく、組織内の人材交流などにも推薦システムは活用できる」として、企業からの積極的なアプローチを求めています。

【取材・文=藤木信穂】