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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
金子(修) 研究室

データから直接コントローラをつくる

所属 大学院情報理工学研究科
機械知能システム学専攻
メンバー 金子 修 教授
所属学会 米電気電子学会/制御システム学会(IEEE, Control Systems Society)
計測自動制御学会、システム制御情報学会、電気学会
日本鉄鋼協会、電子情報通信学会、日本機械学会
研究室HP
印刷用PDF

掲載情報は2017年3月現在

金子 修 Osamu KANEKO
キーワード

制御工学、モデリング、データ駆動制御、データ駆動推定、制御理論、動的システム理論、制御応用、メカニカル制御

「保証期間中の市場信頼性データの解析」の研究

エアコンや炊飯器などの家電製品から、自動車や航空機、工場設備といったインフラ(社会基盤)に至るまで、あらゆるモノは「制御」されることによって動いています。このようにモノの動きを見極め、自在に操る工学の領域を制御工学と呼びます。
金子修教授は、この制御工学の世界に斬新な手法を持ち込みました。従来の制御の枠組みでは、実験を積み重ねて、制御対象となるモノの動作を高精度な「数理モデル」に落とし込むことから始まります。その上で、モデルからモノを動かすための制御器(コントローラ)を設計するというのが通常の流れです。

モデル不要

これに対して、金子教授はモデルを使わずに、制御対象の機器の駆動時のデータやその振る舞いから、直接コントローラを設計する手法を考案しました。これが「データ駆動制御」と呼ぶ考え方であり、金子教授が「FRIT(擬似参照信号に基づいた繰り返しチューニング)」と名付けた方法です。

FRITに必要なのは一組のデータセットのみです。データから擬似的な参照信号を構成し、オフライン(ネットワークにつながっていない状態)で最適化計算をするだけで、所望のコントローラが得られる仕組みです。「コントローラの目標は事前に決めず、データに合った性能のコントローラを作るようなイメージだ」と金子教授は説明します。

メンテナンスなどを効率化

従来は、モデルを立てるために膨大な実験が必要で、またコントローラの設計には、専門家の知識や経験を要することから時間やコストがかさんでいました。FRITを導入すれば、既に運用している機器のデータを活用しながら、経年変化した機器のメンテナンスをリアルタイムに行ったり、故障に耐えうる柔軟なコントローラを設計したりできます。
このように、FRITによってコントローラの設計を大幅に効率化できます。実際、金子教授は企業と共同で、エレベータドアの開閉制御や蒸気ボイラーの圧力制御といった領域にFRITの適用を進めています。「現場作業を効率化したいという企業のニーズとうまくマッチしたのだろう」と金子教授はみています。
加えて、やはりモデルがないと不安だという要望もあることから、コントローラだけでなく、モデルも同時にデータから取得できる手法も考案しました。これにより、モデルを土台にして、コントローラをより高機能化するといった対応も可能になります。

FRITの手順

制御理論も研究

一方で、シーズ寄りの「制御理論」の研究も手がけています。具体的には、入出力を課さないシステムの解析や制御です。入力すると出力として結果が出てくるようなシステムではなく、システム全体を「外部に開かれた変数」としてとらえるという、より一般化した制御理論を提案しています。うまくいけば、「入出力の関係が分からないケースでも、温度場や流体現象などの複雑系の内部状態を推定できるようになる」と金子教授は見通しています。

今後の応用展開としては、人と機械の協調システムの開発を目指しているそうです。一つは自動車・モビリティ分野で、FRITで「自動車の最適なコントローラ」と「ドライバーの運転特性(モデル)」を同時に取得し、運転が上手ではないドライバーの場合、コントローラが自動で運転を支援するといった仕組みを実現しようとしています。また、生産現場における熟練技術者の技能継承や、福祉・医療分野のリハビリテーション用途などにも応用が見込めると考えています。
そのほか、データ科学と融合させて、大規模なデータベースに蓄積されているビッグデータから、最適なデータを抽出してコントローラの設計に生かす手法なども研究しています。

あらゆる産業に応用可能

モノを動かすための「制御」は、機械や自動車、電機などあらゆる産業に不可欠な概念であり、「性能向上や生産のコストダウンにつながるような制御のテーマなら、どんな分野でも協力できる」と、金子教授は企業との連携に大変積極的です。今後、IoT(モノのインターネット)機器が大量に世の中に普及すれば、効率的で低コストなFRITの有用性はますます高まるに違いありません。

【取材・文=藤木信穂】

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