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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
孫 研究室

生体情報を計測し、AIで解析して診断を支援する

所属 大学院情報理工学研究科
機械知能システム学専攻
メンバー 孫 光鎬 助教
所属学会 日本生体医工学会、計測自動制御学会、電子情報通信学会、米電気電子学会(IEEE)生体医工学会(Engineering in Medicine & Biology Society)
研究室HP http://www.radar.ee.uec.ac.jp
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掲載情報は2017年3月現在

孫 光鎬 Guanghao Sun
キーワード

非接触生体計測、生体情報処理、生体信号処理、医用画像処理、医療システムデザイン、医療機器の臨床評価、在宅ヘルスケアシステム

「感染症をスクリーニング(選別検査)するシステムや、うつ病の診断を支援する手法を提案できる」。孫光鎬助教は、人の健康状態を把握する上で重要な心拍や呼吸、体温といったバイタルサイン(生体情報)を非接触で測定し、そのデータを解析するだけでなく、医療応用まで目指しています。工学を医学に役立てる「医用工学」がその研究の領域です。

レーダーで非接触計測

バイタルサインは、主に「マイクロ波レーダー」で測定します。生体計測は通常、心拍なら心電計、呼吸なら呼吸計測器、体温は体温計というように、体に電極などを装着して測るのが一般的ですが、マイクロ波レーダーを使えば、患者に負担をかけずに、非接触で簡単かつ精度よく測定できます。現代は病院に行かなくても、バイタルサインが手軽に測れる時代になっています。
マイクロ波とは、周波数が300メガヘルツ(メガは100万)―300ギガヘルツ(ギガは 10億)の電磁波です。その中でも、X帯(8ギガ―12ギガヘルツ)とK帯(20ギガ―40ギガヘルツ)を利用した小型のレーダーから対象物に向けて連続的に電波を発射し、その反射波を解析すると、対象物までの距離や方向を割り出せます。この原理により、例えば、呼吸時の胸の動きといったわずかな変動から、心拍などを測定できます。機器の装着が不要なため、24時間のモニタリング(観測)も可能です。

感染症を短時間でチェックする

開発した感染症スクリーニングシステム

このマイクロ波レーダーを使い、孫助教はデザイナーとともに、医療機器として「感染症スクリーニングシステム」を開発しました。感染症にかかると、一般に体温だけでなく、心拍数や呼吸数も上昇します。同システム内蔵のサーモカメラ(熱画像計測カメラ)で顔を撮影して検温し、マイクロ波レーダーで呼吸や心拍を測定すれば、「感染している」か「正常」かを、従来手法より 15ポイント高い85%以上の精度で判定できます。

判定は、人工知能(AI)技術の一つである機械学習を使って、測定から得られた数値データや画像データを統合的に解析します。孫助教は、その判定の基準となる自己組織化マップを考案しました。データが蓄積すればするほど、AIによって判別の精度が向上していく仕組みです。
システムは数十センチメートル離れた場所から非接触で測れるため、1人当たり3秒で検査すれば、1時間以内に約1000人をスクリーニングできます。空港や飛行機の機内などで、大勢の人の健康状態を迅速にチェックし、二次感染を防ぐのに役立ちます。
従来は発熱だけを検査するものが多く、感染していても解熱剤で一時的に熱を下げていれば、検査をすり抜けてしまうといった欠点がありました。孫助教は「迅速で精度の高いこのシステムを使えば、感染者の多くを水際で食い止められる」と考えています。
それだけでなく、全国の測定データを1カ所に集め、AIでこうしたビッグデータを解析すれば、感染症のサーベイランス(調査監視)システムにもなります。「将来、日本列島の感染症のハザードマップ(被害予測地図)がリアルタイムに作れるかもしれない」と孫助教は期待しています。

システムの仕組み
応用の展望

うつ病の診断支援も

もう一つの大きな研究テーマが、うつ病の診断支援です。うつ病は感染症とは違い、身体症状だけでなく、精神症状も現れるため、診断に明確な基準がありません。そのため、経験ある医者が問診によって診断しているのが現状です。一方で、うつ病は自律神経の乱れから来る症状であり、その自律神経は心拍の変動に影響を与えることが知られています。

うつ病患者と健常者のHRV測定データの解析結果
そこで孫助教は、精神科の医師と共同で、自律神経の活性度を表す「心拍変動指標」(HRV)によるうつ病の診断支援を目指しました。うつ病の患者に精神負荷をかけるためのタスク(課題)を与え、その作業の前後における心拍の変動をマイクロ波レーダーで測定した結果、 90%以上の患者が健常者とは明確に異なる心拍変動パターンを示しました。このデータを判断基準にすれば、「HRVがうつ病の客観的な診断に使える可能性がある」と孫助教は見通しています。そのうち、スマートフォンなどの端末にマイクロ波レーダーを搭載できるようになれば、うつ病のセルフチェックが手軽にできるようになるかもしれません。

見守りロボットへの実装を目指す

そのほか高齢化社会に向けて、寝たきりの高齢者などを想定した睡眠時のバイタルサイン計測や、家庭用の見守りロボットにマイクロ波レーダーを搭載するといった研究も進めています。ロボットは1.5メートル程度離れた場所から、健康状態をモニタリングできるようにするのが目標です。
孫助教は、生体計測やデータの解析にとどまらず、診断法の提案や医療機器の開発、臨床評価に至るまで一貫して取り組んでおり、産学連携にも非常に積極的です。医用工学の基礎から応用まで自ら手がけるのは、「新しいアイデアに基づいた独自開発の医療機器を、世の中に早く使ってもらいたいという強い思いがある」からです。

【取材・文=藤木信穂】

研究・産学連携