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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
萓野 研究室

電磁ノイズの発生を減らし、高品質な情報化社会へ

所属 大学院情報理工学研究科
情報・ネットワーク工学専攻
メンバー 萓野 良樹 准教授
所属学会 電子情報通信学会、エレクトロニクス実装学会、米電気電子学会(IEEE)
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掲載情報は2019年9月現在

萓野 良樹 Kayano YOSHIKI
キーワード

電磁環境両立性(EMC)、電磁環境学、プリント回路基板(PCB)、電磁ノイズ、シグナルインテグリティ、機構デバイス

スマートフォンにパソコン、タブレット端末と、今や一人で複数の機器を持ち歩くことも珍しくなくなり、身の回りはさまざまな電子機器であふれています。これは機器の高性能化や小型化が進んだ結果であり、それに伴って使用する周波数も徐々に高周波帯に移行してきました。これに加えて、太陽電池などの再生可能エネルギーや電気自動車といった大電力を扱うパワーエレクトロニクス市場も年々拡大しつつあります。

電磁環境両立性(EMC)

このような電子機器が密集する環境では、ある機器が発する不要な電磁波がほかの機器の誤動作などを引き起こす「電磁ノイズ」の問題がしばしば起こります。機器の高周波化によって、近年その対策にはより細かい対応が求められるようになりました。こうした複雑な電磁環境下で複数の機器を共存させることを電磁環境両立性Electromagnetic Compatibility: EMC)と言い、その学問体系を電磁環境学と呼びます。

 
電磁環境両立性の確立
電磁環境両立性の確立

萓野良樹准教授はこのEMCの分野において、特に電子機器内の高周波信号の伝播や不要な電磁波の発生メカニズムについて、実験とシミュレーションの両面から研究しています。EMC問題の解決は安全安心な電磁環境を作るために必須となる技術であり、萓野准教授は「EMCの研究を通じて、高周波かつ広帯域用途の新しい信号処理や機能集積回路の実現に貢献したい」と考えています。

差動伝送の電磁波放射

具体的には、例えば電子機器が発する電磁ノイズを抑制する研究として、USBやHDMIといった有線のデジタルデータ伝送に採用されている差動伝送方式の信号配線について検討しています。差動伝送は一対の信号線を使ってデータを伝送するため、ノイズに強く高速化が可能です。一方で、従来のシングルエンド方式とは異なり、構造が非対称で配線が不等長であることから、電磁波放射の詳しい発生メカニズムは分かっていませんでした。
萓野准教授は実験とシミュレーションによってこの点を明らかにし、既存の等長配線によるプリント回路基板の設計手法は信号の伝送には適しているものの、電磁波放射の抑制の観点からは必ずしも最適とはいえないことを示しました。こうした知見は、「不要な電磁波を発生させにくい電子機器の設計に向けた有用な指針になるだろう」と萓野准教授は想定しています。

検討レイアウト
検討レイアウト
近傍磁界分布の測定結果
近傍磁界分布の測定結果

電気接点のアーク放電

また、電気接点(スイッチ)の開閉時に発生するアーク放電についても研究しています。電気回路では金属製のスイッチの開閉を機械的に行うことで電流をオンオフしていますが、その際アーク放電が発生し、接点部分の接触不良や開閉の不具合、高周波の電磁ノイズ発生などを引き起こします。

磁気吹き消しのための外部直流磁界の印加
磁気吹き消しのための外部直流磁界の印加

特に電気自動車や大型家電など、直流高電圧・大電流用途のスイッチを用いる場所ほどその影響を受けやすく、対策が不可欠になっています。ここでスイッチを早く切ってアーク放電の継続時間を短くするとスイッチの寿命は長くなりますが、アーク放電中の電圧変化が大きくなり、電磁ノイズが増大してしまいます。こうした問題を解決するため、萓野准教授はスイッチを冷やしたり周囲に磁石を置いて磁界をかけたりして、寿命を低下させずにアーク放電時のノイズを最小限に抑える新型スイッチの開発を目指しています。

分散遅延デバイス

そのほかEMCから派生した研究として、周期構造を用いた新しい分散遅延デバイスの開発も手がけています。誘電率と透磁率がどちらも負のメタマテリアル(特異的な性質を持つ人工物質)として、周期的な共振器と電磁結合部を持つ伝送線路構造によって、これまでにない電磁応答を示す負の群遅延特性を実現しました。 これは例えば、レーダなど電波探知機器のキー技術として、「災害時に建物や土砂に埋もれた人を発見したり、ビルの鉄筋や配管の解析をしたりできるほか、荷物検査に用いる金属探知機の高性能化などにも役立つかもしれない」と萓野准教授は期待しています。 萓野准教授は電子機器やパワーエレクトロニクスなど、電気を利用するすべてのシーンで考慮が求められるEMCについて、まず基本となるメカニズムを解明した上で、さらに実機への適用も見すえています。こうした地道な取り組みは、今後ますます進展する高度電子情報化社会のスムーズな運用に欠かせないものなのです。

【取材・文=藤木信穂】

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