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国立大学法人 電気通信大学

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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
平田 研究室

戦略的に材料の発光や着色機能を制御する

所属 大学院情報理工学研究科
基盤理工学専攻
メンバー 平田 修造 助教
所属学会 日本化学会、米化学会(ACS)、応用物理学会、光化学協会、高分子学会
研究室HP http://uec-hirata.researcherinfo.net/index.html

掲載情報は2018年11月現在

平田 修造
Shuzo HIRATA

キーワード

発光、りん光、蓄光、有機EL、量子ドット、光アップコンバージョン、非線形光学、非線形吸収、フォトクロミック、量子化学計算

「着色(光吸収)」や「発光」といった光の機能を分子レベルで扱う分子光化学という領域は、生物や環境、エネルギーから、工学、材料開発に至るまで、多様な分野の基礎となる学問です。例えば、光合成や光触媒、太陽電池、光癌治療などは分子の光吸収を利用しており、ディスプレイや照明、蛍光イメージングなどは分子の発光現象を利用しています。

研究概要

設計から合成、計測、応用まで

研究室で取り組む(学習)する手法

平田修造助教はこの分子光化学の分野において、化学だけでなく情報学や物理をうまく活用し、新たな光機能分子材料の開発を目指しています。そこでは、理論を基にした計算による「分子設計」と分子や材料を作る「合成」、物理化学因子を計測する「光物性計測」に加えて、分子を使った応用による「機能確認」という一貫したサイクルで研究しています。

例えば、現在取り組んでいるのが、発光現象が遅延して起こり、軌跡を残す分子材料の研究です。平田助教は暗闇でブラックライトを当てると発光する芳香族の分子材料において、分子が簡単には動けないように周りを固めるなどの工夫をすることで、ブラックライトの照射を止めても十数秒間、室温中で強く光り続けることを示しました。既存の無機の蓄光体と比較しても効率が高く、発光の軌跡が強く残るため、偽造防止やイメージングなどに役立ちそうです。

また、周囲の明るさに応じて色が変化する面白い分子材料も研究しています。光が弱い室内照明の下では薄い橙色に見えますが、懐中電灯を当てると濃い橙色に着色する分子材料を作りました。周囲が明るくなると色が濃くなるこの材料は、例えば窓ガラスに塗布すれば、日差しが強い時のみ色が濃くなるため、サングラスのように日差しをカットできる“スマートウィンドウ”になるでしょう。

ディスプレイや太陽電池に応用

現在研究室で行っているテーマの例

高性能な有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)材料の研究では、薄膜ディスプレイ装置内の発光を効率良く外に取り出す発光材料の開発を目指しています。ディスプレイには通常、コントラストを明確にするために表面に膜を用いますが、膜によって光の強度は半減してしまいます。発光分子を工夫することでこれを大きく抑制できれば、発光素子に流す電流を小さくでき、スマートフォンなどのバッテリー寿命の向上につなげられます。

そのほか、緑色のレーザーを当てると青く光るといったような、吸収波長よりも短波長側で発光する波長変換分子材料なども研究しています。これは将来、低コストかつ高コントラストの発光イメージングや人工光合成、太陽電池などへの応用が見込めます。

「偶然の発見」にも期待

平田助教が研究において特に心がけているのは、既存の概念の枠組みの中でさらに高性能化を目指す「戦略的な研究」には70%程度の力を注ぎ、残りの30%は、実験を通じて「偶然に出会う面白い現象を見つける」ことに集中するということです。それによって、材料のブレークスルーにつながるかもしれないと考えているからです。

実験値と理論値の相関性がAIによる高速材料スクリーニングを可能にする構図

ここ20年間ほどで材料開発の手法は様変わりしました。2000年ごろは、熟練の研究者が経験に基づいて、数カ月間に10個程度の割合で新しい材料のアイデアを提案していました。研究領域によっては、現在では量子化学計算で1日1個のアイデアを出せるようになっているため、例えば100個のアイデアから選りすぐりの10個を選ぶことができます。将来は、人工知能(AI)が1日に1万個のアイデアを出し、そこから大きな可能性を持つ10個を選定して材料開発を進めることが可能になるとみられています。成功の確率が著しく向上していることにもはや異論はないでしょう。

ただ、高性能な材料を高い確率で探索する方法にはさまざまなアプローチがあり、AIを使って高速にスクリーニングするだけなら既に世界で多くの人が取り組んでいますが、そもそもこれは「発見」とは呼びません。また、方式や手法がおおよそ決まっているモノづくりにおいては、人件費の安い中国などにはとても太刀打ちできないでしょう。

計算値と実験値の相関をとる

これに対して、平田助教は「AIに学習させるデータとなる『計算値と実験値の相関を取得する』ことが重要である」とし、これを先んじて進めることで、高性能な材料をいち早く作成できると考えています。この“相関性”を明らかにすることが研究の本質であり、それを実現するには、例えば「右に倣え」といったような精神や人海戦術では難しく、物理的な論理力と化学における実験力が不可欠です。今後はこうした能力を備えた人材がより求められていくはずです。

実験値と理論値の相関性の判断が従来できていない材料の性能の領域を明確にする

さらに、このような相関性を見いだすことは、材料のいまだ開発されていない領域を浮き彫りにするという観点からも重要です。実験によってその未達領域に偶然にでも出くわすことができれば、「世の中にまだない新しいソリューションを先駆けて提案し、世界と勝負できるはずだ」と平田教授は見通しているのです。

分子はそのつなぎ方によって、着色したり、発光したりと多様な機能を持たせることができ、その可能性は無限大です。画期的な光機能分子や材料の発見によって、世界をガラリと変えてしまうようなことも可能かもしれません。

【取材・文=藤木信穂】