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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
守 研究室

流体の摩擦抵抗を減らし、高性能なモノづくりに生かす

所属 大学院情報理工学研究科
機械知能システム学専攻
メンバー 守 裕也 准教授
所属学会 日本機械学会、日本流体力学会
メールアドレス mamori@uec.ac.jp
印刷用PDF

掲載情報は2019年4月現在

守 裕也 Hiroya MAMORI
キーワード

熱流体制御、流れの数値シミュレーション、抵抗低減、伝熱促進、再層流化、乱流、流体力学

自動車や航空機、船舶など人やモノを運ぶ輸送機においては、運行時に機体が流体(空気や海水)から受ける抵抗をできるだけ減らすことが求められています。流体から受ける抵抗を最小限に抑えることで、機体を動かすために必要な動力(エネルギー)を削減できるため、結果的に輸送コストの圧縮につながるのです。
流体から受ける抵抗の一つに機体の表面と流体の間に生じる「摩擦抵抗」があり、この摩擦抵抗をいかに小さくするかが設計上の大きな課題になっています。通常、輸送機周りの流れには複雑な乱流の渦が存在しているため、工学的に制御することは非常に困難です。

流体に存在する「乱流渦」のイメージ
流体に存在する「乱流渦」のイメージ

進行波状制御を提案

守裕也准教授はこの取り扱いの難しい乱流の摩擦抵抗を減らすため、特にプラントや工場などの配管で流体を輸送するような簡易な流れを模擬し、コンピュータ上で流体の挙動を精密に計算する直接数値シミュレーションなどの手法によって、摩擦抵抗を制御する研究に取り組んでいます。
守准教授が提案しているのは、壁面上に人工的に波を与えて流体を制御する「進行波状制御」という手法です。流れに対して逆方向に波を与える方法は従来もありましたが、進行波を流れと同じ方向に与えることで、流体の乱れが減衰して摩擦が非常に小さい層流になり(再層流化)、結果として摩擦抵抗が約70%減ることをシミュレーションによって確認しました。

   
進行波制御による流れの時間変化
進行波制御による流れの時間変化

進行波を与えると流れに直角の方向に軸を持つ横渦が発生しますが、これによって摩擦抵抗の原因である流れ方向に軸を持つ縦渦が消え、摩擦抵抗が減ることがその理由であることが分かりました。従来法は乱流のままで再層流化しておらず、摩擦抵抗の低減率は20%程度でした。
これによって、流体の輸送に必要なエネルギーを60%ほど削減できるため、エネルギーの効率的な利用が可能です。実際に、一定の間隔で振動を与えるアクチュエータを使って進行波状制御実験を行った結果、摩擦抵抗が低減できることが示唆されました。

 

航空機や自動車に応用

イルカの遊泳方法
イルカの遊泳方法
守准教授は、これ以前に進行波による「吹出し・吸込み制御」法を提案し、その高い摩擦低減効果を確認していましたが、同手法は実用面でハードルがありました。しかし、進行波状制御はアクチュエータによって可能なことから、実用化に期待が持てます。また、この進行波はイルカが高速遊泳時に利用しているという説もあります。

今後、守准教授はこうした流体の制御法を、航空機の翼周りや自動車の車体周辺などの工学的な流れなど、より流れの速い実用的な乱流場に応用することを目指しています。そのほか、摩擦抵抗は減らしつつ、熱の伝わりやすさは維持するという相反する性能の両立に進行波状制御を利用することも検討しています。こうした試みはエアコンなどに搭載する熱交換器の性能向上などに役立ちそうです。

表面加工による低減効果も

一方、進行波状制御以外にも、表面加工によって流れを制御する研究などに取り組んでいます。例えば、ハスの花などにみられる超撥水(ちょうはっすい)性の加工や、“さめ肌”と言われる、サメの表皮にある周期的な凹凸構造(リブレット)を模した加工などによる摩擦抵抗の低減効果を実証しています。
その他の流体制御として、航空機の翼の表面などに液滴が落下して凍り付く「着氷」や、「着雪」のメカニズムに関する基礎研究も手がけています。

AI活用も視野に

機械学習を用いた流体制御
機械学習を用いた流体制御

最近では、人工知能(AI)を使った乱流制御や解析手法の開発にも着手しました。ディープラーニング(深層学習)や強化学習といった機械学習の手法を利用して、摩擦抵抗を減らす新たな制御法の開発も視野に入れています。
こうした点から、守准教授は、今後「自動車メーカーや材料メーカーなど、企業との共同研究にも積極的に取り組んでいきたい」と考えています。

【取材・文=藤木信穂】

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