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国立大学法人 電気通信大学

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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
遊佐 研究室

機械の設計・製造から破壊までの力学シミュレーション

所属 大学院情報理工学研究科
機械知能システム学専攻
メンバー 遊佐 泰紀 助教
所属学会 日本機械学会、日本計算工学会、日本シミュレーション学会、精密工学会、日本計算力学連合
研究室HP http://www.yusa.lab.uec.ac.jp/
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掲載情報は2021年3月現在

遊佐 泰紀
Yasunori YUSA
キーワード

固体力学、計算力学、計算機支援工学

現実の世界で起こる現象を数学のモデルで表すシミュレーションは、航空機や自動車の設計など、今やものづくりの現場で必須の技術です。特に、材料や構造のモデル化やシミュレーションを行う計算固体力学の分野では、ゴムのように力を抜くと形が元に戻る単純な「弾性解析」だけでなく、現在は「弾塑性解析」や「接触解析」といった高度な非線形解析のシミュレーションが行われ、製品の高性能化に寄与しています。

既存のツールにとらわれない

遊佐泰紀助教は、機械の設計・製造から破壊に至るまでのさまざまな力学現象のシミュレーションを研究しています。特に、多数の孔や亀裂を持つ構造の解析や、複合材料からなる構造の応力解析、溶接過程や発電プラントにおける高温環境下の力学挙動の解析、亀裂と破壊の解析といったテーマに取り組んでいます。
2015年ごろまでに、それまでの計算力学の研究成果が商用のコンピュータ支援工学(CAE)ソフトウエアに集約されました。遊佐助教は「その結果、民間企業をはじめとする多くの技術者が、『商用CAEソフトに搭載されている機能以外のことは現状では難しい』という表面的な思考にとらわれている」と危惧しています。商用ソフトにどのような機能が加わるのかは、言うまでもなく開発企業の経営戦略によるのです。
遊佐助教は「まだ数十年間の歴史しかない計算力学のポテンシャルは高く、将来の計算力学が実現する技術は、現在の商用CAEソフトの水準をはるかに超えるだろう」と見通しており、それゆえに自身の研究では「既存のツールに振り回されずに、"原理原則思考"かつ"シーズ志向"で新たな価値を創造したい」と考えています。

非線形解析や溶接のシミュレーション

現在進めている主な研究の一つは、非線形方程式を使った解法の見直しです。非線形解析の黎明期だった40年ほど前の研究手法を発掘し、それを難しい亀裂問題の大変形の弾塑性解析に適用したところ、従来手法よりも約100倍高速に解くことができました。商用ソフトにはない方法ですが、すでに淘汰された解法でも、適切に使えば原理的には高速化が可能であることを示しました。
もう一つは、溶接分野のシミュレーションです。一般に、溶接の解析には膨大な量の計算が必要でが、既存の手法には最新の並列計算技術が使われていません。そこで遊佐助教は、通常はスーパーコンピュータなどで動作させる、「バランシング領域分割法」と呼ばれる最先端の分散メモリ型の並列プログラムを開発しました。これを使って溶接変形や残留応力などを解析したところ、大規模並列化によって、金属の積層造形の解析などのより複雑な問題を短時間で解けるようになりました。

孔の空いた構造解析や形状計測

多数の孔や亀裂を持つ構造の解析を三つ目のテーマとして進めており、これは複雑な構造のガスタービンなどへの応用を想定しています。孔が空いていると、通常の有限要素法の解析では計算しにくいという問題があります。遊佐助教は新しい解析手法として、解析対象全体と亀裂部分を個々に定義し、それらを重ね合わせて同時に解く重合メッシュ法の一つである「反復型重合メッシュ法」を提案しました。これで、例えば30個の孔を持つ構造に相当する応力の分布を可視化することに成功しています。 最後はレーザースキャナなどで物体の3次元形状を計測した「形状計測データ」の活用です。一般に、構造物は設計段階の図面の解析はしますが、完成した構造物の解析はほとんど行いません。構造物が使用によって経年劣化しても、実際の構造物の正確なデータを取得するのは容易ではないからです。遊佐助教は配管などの複雑な構造体向けに、形状計測データを取得して処理することで、そのデータを基に物体の応力を解析する新しい方法論を提案しました。

スパコン「富岳」利用も

また、世界最速のスパコン「富岳」を使った国家プロジェクトにも参画しています。スパコンで計算させる並列有限要素法の解析ソフトの研究開発として、洋上風力発電向けの風車ブレード(翼)の解析や、燃焼器・ガス化炉に用いる非弾性材料の挙動のモデル化などを進めています。 このほか、独自に破壊力学の解析に関する研究も行っています。遊佐助教はスパコンを使いこなす数少ない力学シミュレーションの研究者であり、今後、企業との共同研究でも大きな貢献をしてくれるに違いありません。

動画

【取材・文=藤木信穂】