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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
長井 研究室(阿部研究員)

子育てを支援するロボットの開発

所属 大学院情報理工学研究科
機械知能システム学専攻
メンバー 阿部 香澄 特別研究員
所属学会 日本ロボット学会、人工知能学会
研究室HP http://apple.ee.uec.ac.jp/chicaro/
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掲載情報は2017年3月現在

阿部 香澄 Kasumi ABE
キーワード

子ども、ロボット、インタラクション、認知科学

毎日10分でもいいから家事に集中できたら―。赤ちゃんを育てる家庭では、誰もが一度はそんなことを思うのではないでしょうか。特に3歳以下の子どもは、大人が片時も目を離すことができません。核家族が大半を占める現代の日本では、子どもを「短い時間見守っておく」だけの存在でも大変貴重なのです。

ロボットを介して子どもを見守る

阿部香澄特別研究員は、自らの育児経験を生かし、長井隆行教授の研究室チームと、遠隔地から子どもを見守る「テレプレゼンス(遠隔操作)子育て支援ロボット『ChiCaRo(チカロ)』」を開発しました。「例えば、家事などで手が足りないとき、離れて暮らす祖父母にほんのちょっとの間、子どもを見ていてもらう。そうした用途を想定しました」と阿部研究員はその狙いを説明します。

「チカロ」のコンセプト
使い方は、テレビ電話のように簡単です。ロボットシステムを設置した2拠点間において、どちらか一方が電話をかけるようにコールをし、もう一方が応答すると、画面上に相手の姿が映る仕組みです。応対する相手は、「おじいちゃん」や「おばあちゃん」などの写真から子ども側が選べます。
といっても、単なるビデオチャットではありません。言葉が未熟な子どもに映像だけを見せても、その興味は長くは続かないでしょう。そこで、乳幼児が身体を使って遊べるように、「ビデオチャット」と、オモチャなどを差し出せる「(ロボット)ハンド」を組み合わせた、移動可能なロボットを作りました。

はいはいする子どもを追いかける

遠隔地にいる大人が映像を通じて子どもに声がけをしながら、手元の端末でロボットを操作します。子どもは親しい人の顔を見て安心し、相手からオモチャを受け取ったり、逆に「どうぞ」と、相手にオモチャを手渡したりするやりとり遊びが可能です。
また、ロボットには特定の「色」に追尾して動く機能を搭載しており、その時の子どもの服の色を設定しておけば、ロボットが子どもの向きに応じて回転するため、ビデオチャットを途切れさせることがありません。祖父母の遠隔操作で、はいはいする子どもを追いかけることもできます。このようにして、遠隔地にいても子どもの行動を常に見守ることができるのです。

大家族の機能を導入

「チカロ」を通して2歳児がおばあちゃんと遊ぶ様子

まるでその場に一緒にいるかような感覚で共に遊ぶことができ、子どもの興味を引きつつ、発達まで促す。こんなロボットが子育て家庭に1台あれば、「核家族の閉鎖的な育児によるストレスを和らげつつ、昔の“大家族の機能”も持たせられるのではないか」と阿部研究員は期待し、この協働による新しい育児環境を提案しています。祖父母だけでなく、単身赴任中のお父さんや仕事中のお母さんなどが、子どもとすぐにコミュニケーションできるツールとしても役立ちそうです。
子ども向けのロボットは、親しみやすい人型ロボットから学習用のロボットまで、さまざまなタイプが開発されていますが、0―3歳の乳幼児を対象にしたロボットはほとんどないそうです。一方向型の教育ではなく、「保育」に着目し、遊びを通じて子どもの想像力をはぐくめる点が、『チカロ』の特徴といえるでしょう。

想定するビジネスモデル

すでに複数の子育て家庭や託児所などで試験運用を行い、その効果を確認しているほか、メディアでも紹介され、知名度は上がりつつあります。阿部研究員は、「『ICT(情報通信技術)による遠隔保育』という新たな試みであるがゆえ、社会の理解が進みにくい面もあるが、興味を持っていただける企業があれば、早期の製品化を目指したい」と考えています。
家庭で利用するだけでなく、保育所などに導入すれば、人手不足が深刻で業務負担も大きい保育士の仕事の一端を担える可能性もありそうです。

人と人とのコミュケーションを促す

阿部研究員は、子どもと遊ぶロボットを一貫して追求してきました。これまでに、じゃんけんや絵本の読み聞かせ、(トランプ遊びの)神経衰弱、○×ゲーム、かくれんぼなどができるロボットを開発しています。「いかに子どもにロボットへの親近感を抱かせ、飽きさせないか」がその開発のポイントだそうです。
そのため、子どもと触れ合う“プロ”である保育士に、実際にロボットを遠隔操作してもらい、どのように遊べば子どもが飽きずに、仲良く長く楽しめるかを観察し、分析結果をロボットの動作モデルに落とし込んで実装しています。
ロボットの開発を通じて、阿部研究員は「人と人とのコミュニケーションをより円滑にする」ことを目指しています。今後は、存在を主張しない人工知能(AI)をロボットへ搭載し、遊び方をより工夫して人の遠隔操作をサポートするほか、「活発」「おしゃべり」「内気」など、子どもの性格や気質に応じて柔軟に応対できるコミュニケーションのあり方を検討するそうです。何物にも縛られず、自由に発想する子どもこそが、もしかするとロボットと最も分かり合える存在であり、私たちに新たな知見を与えてくれるのかもしれません。

【取材・文=藤木信穂】

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