【ニュースリリース】高速大容量を実現する新たな通信技術(Beyond 5G/6Gの実現に向けて) ―セルフリーMIMOのためのビームフォーマー設計法の開発―
2021年05月10日
石橋功至教授(先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター)、アブレウ・ジュゼッベ客員教授、飯盛寛貴協力研究員、安藤研吾さん(情報・ネットワーク工学専攻博士前期2年)は、5G高度化・次世代の6Gに向けた高速大容量、多数同時接続を実現するビームフォーミング設計法を確立、周波数利用効率を従来の最大7倍に増大する新たな通信技術について、特許出願を行いました。
2020年から日本でも5Gのサービスが開始され、今後はスマートフォンのような多機能端末における超高速なファイル転送や3D、VR映像の視聴といった高速大容量通信だけでなく、産業機器やビッグデータを収集するIoTサービス向けの通信需要が急増することが見込まれています。しかしながら現行の5Gシステムでは、このようなデータ需要や提供サービスの爆発的な増加に対応できなくなることが予想されています。このためBeyond5G、6Gでは、次なるソサエティ5.0の実現を見据え、有限な無線通信資源を極限まで活用し、より多様な通信需要に対応可能な技術の確立が急務となります。
5Gで採用された大規模MIMOシステムでは、ビームフォーミングという、複数のアンテナ素子からの信号の振幅や位相を制御して特定の送受信角度に向けて電力を集中させる技術を用いて、通信効率を向上させています。しかしながら、実際に達成可能な通信容量は、通信基地局と各通信端末の位置関係などの通信環境に依存するため、無線資源を十分に活用しきれずに所望される通信効率の達成が困難となる場合があります。そこで、劣悪な通信環境においても高い通信品質を担保するため、一機の基地局に全アンテナを具備させる大規模MIMOシステムに対し、基地局の機能を、信号を放射するアクセスポイントと、信号処理を行う中央制御局に分割し、これを光フロントホールで接続することで、信号の送受信点を空間中に分散して配置するセルフリーMIMOシステムが注目を集めています。
本発明により、端末ごとに具備するアンテナ数が異なるようなセルフリーMIMOシステムにおいても、通信の干渉構造に基づいた適切なビームフォーミングの設計が低計算量で可能となりました。さらに、ビームフォーミングの基本設計を変えることなく、通信要求に応じたシステム全体の周波数利用効率増大と、通信速度の利用者間公平性向上の切り替えを可能としました。
Beyond 5G、6Gでは端末としてスマートフォンだけでなく、自動運転車やロボット、ドローンなど、様々なサイズのデバイスと高速・大容量な通信を実現し、極限的な周波数利用効率を達成する必要性があります。本発明によって、セルフリーMIMOシステムにおいて、各端末の具備するアンテナ数が異なる環境においても、周波数利用効率および利用者間の公平性を向上させることが可能となりました。また、従来では通信速度が遅くなりがちな駅や繁華街などの混雑するエリアでも快適な通信を行えるなどの効果が期待できます。
セルフリーMIMOシステムの概念図