このページの先頭です

メニューを飛ばして本文を読む

国立大学法人 電気通信大学

ここから本文です

お知らせ

【ニュースリリース】ホロー原子を使ったX線レーザーの短パルス化 -X線の時間幅を制御する非線形光学素子を実現-

2021年10月18日

理化学研究所(理研)放射光科学研究センタービームライン研究開発グループビームライン開発チームの井上伊知郎研究員、矢橋牧名グループディレクター、高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室先端光源利用研究グループ実験技術開発チームの犬伏雄一主幹研究員、電気通信大学レーザー新世代研究センターの米田仁紀教授らの共同研究グループ※は、内殻電子[1]を失った原子(ホロー原子)を利用した「非線形光学効果[2]」によって、X線自由電子レーザー(XFEL)[3]施設「SACLA[4]」から出射されたX線レーザーの時間幅(パルス幅)を短くすることに成功しました。
本研究成果は、X線領域における初めての実用的な非線形光学素子の実現を示すものであり、XFELのパルス幅の自在な制御やアト秒(10-18秒、100京分の1秒)X線光源の開発への応用が期待できます。
今回、共同研究グループは、集光したX線パルスを厚さ10マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)の銅の薄膜に照射することで、パルスの前半部分で銅の原子をホロー原子へと変化させ、パルスの後半部分ではホロー原子を通過する状況を作り出しました。通常の原子とホロー原子とではX線の吸収のされ方が大きく異なるため、銅の薄膜を通過後のX線のパルス幅は通過前のパルス幅よりも短くなることが期待されます。実際に、通過前後のX線のパルス幅をそれぞれ計測した結果、通過後のパルス幅が約35%短縮されていることを確認しました。さらに、シミュレーションにより、薄膜の厚みやX線強度を変えることで、XFELのパルス幅を自在に制御できることを示しました。
本研究は、科学雑誌『Physical Review Letters』オンライン版(10月15日付:日本時間10月16日)に掲載されました。

※共同研究グループ
理化学研究所 放射光科学研究センター XFEL研究開発部門
・ビームライン研究開発グループ ビームライン開発チーム
 研究員 井上伊知郎
 研究員 大坂泰斗
 基礎科学特別研究員 山田純平
・ビームライン研究開発グループ 理論支援チーム
 チームリーダー 玉作賢治
・ビームライン研究開発グループ 
 グループディレクター 矢橋牧名
高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 先端光源利用研究グループ 実験技術開発チーム
 主幹研究員 犬伏雄一
電気通信大学 レーザー新世代研究センター
 教授 米田仁紀

研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金若手研究「2色発振X線自由電子レーザーを利用した非線形X線分光法の開発(研究代表者:井上伊知郎)」による支援を受けて行われました。

(論文情報)
タイトル:Shortening x-ray pulse duration via saturable absorption
著者名:Ichiro Inoue, Yuichi Inubushi, Taito Osaka, Jumpei Yamada, Kenji Tamasaku, Hitoki Yoneda, and Makina Yabashi
雑誌:Physical Review Letters

(用語説明)
[1] 内殻電子:原子に含まれている電子のうち、原子核に近い軌道を回っている電子。
[2] 非線形光学効果:物質の光への応答が光の波の振幅に比例しない光学現象。通常、その観測には強力なレーザー光が必要とされる。
[3] X線自由電子レーザー(XFEL): X線領域におけるレーザー。従来の半導体や気体を発振媒体とするレーザーとは異なり、真空中を高速で移動する電子ビームを媒体とするため、原理的な波長の制限はない。また、数フェムト秒(1フェムト秒は1,000兆分の1秒)の超短パルスを出力する。XFELはX-ray Free Electron Laserの略。
[4] SACLA:理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL施設。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser の頭文字を取ってSACLAと命名された。2011年6月に最初のX線レーザーを発振、2012年3月から共用運転が開始され、利用実験が始まっている。大きさが諸外国の同様の施設と比べて数分の1とコンパクトであるにも関わらず、0.055ナノメートル(nm、100億分の1メートル)以下という波長のレーザー生成能力を持つ。

詳細はPDFでご確認ください。