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国立大学法人 電気通信大学

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お知らせ

【ニュースリリース】熱の流れに量子効果が与える影響の解明:エネルギーロスのない熱流の発見と、量子熱機関への応用

2021年11月05日

ポイント

  • *量子系が熱源と接触している状況において、量子効果が熱の流れにおけるエネルギーロスにどのように影響するかの系統的な規則を理論的に明らかにした。
  • *得られた規則は、量子効果が量子熱機関における「摩擦」をどのように増減させるかに関するルールを明らかにしている。
  • *特殊な場合には、量子効果を用いてエネルギーロスのない熱の流れを作ることができる。
  • *発電機・エンジン・冷却器などをはじめとした熱機関の、量子効果を用いた性能向上につながる可能性がある。

概要

田島裕康助教(情報・ネットワーク工学専攻、兼任:JSTさきがけ研究者)は、布能謙特別研究員(理化学研究所開拓研究本部)と共に、量子的な状態の重ね合わせが熱の流れにどのように影響するかの系統的な規則を理論的に明らかにしました。この規則によれば、適切な種類の量子重ね合わせを大量に用意することで、マクロな大きさの、エネルギー損失のない熱の流れを作ることができます。この効果を用いることで、少なくとも理想化されたモデルの上では、発電機・エンジン・冷却器などをはじめとした熱機関の性能が大幅に向上することがわかりました。
この研究成果は、令和3年11月4日(EST)付で米国科学雑誌「Physical Review Letters」オンライン版に掲載されました。また、特に重要な成果として「Editor's Suggestion」とAmerican Physical Societyの「Featured in Physics(Synopsis)」に選ばれました。

今後の期待

本研究成果は、発電機やエンジン、冷却器と言った熱機関全般の性能向上を量子的に行う際、有望な指針を与えると期待できます。現時点で「散逸なし熱流」自体は理想化された理論モデルの上で確認されているだけですが、我々が提案する熱機関の性能向上それ自体は、現在の量子情報技術の範囲で十分に確認可能なものです。将来的に、散逸なし熱流を現実の系で実現できるようになれば、高いパワーと、(ほぼ)理想的な熱効率とを併せ持つ熱機関が実現することになります。
また、本研究成果は異なる温度を持つ熱源の間の熱の移動であれば適用可能であるため、熱機関以外の対象にも適用することができます。特に、光合成をはじめとした生体反応の中で量子重ね合わせがどのような影響を及ぼしているかの解析などへの適用が期待できます。

図

量子重ね合わせの種類と、それがどのように熱の流れに影響するかの図解。横棒一つ一つが、一つのエネルギー状態を表し、縦軸がその状態が持つエネルギーの大きさを表している。

詳細は下記PDFをご覧ください。