【ニュースリリース】オノマトペで質感を表現する人工知能を開発
2021年11月17日
ポイント
- *つるつる、さらさらといったオノマトペで質感を表現するAIを開発
- *画像に写っているモノの質感を100人の被験者がオノマトペで表現
- *オノマトペにディープラーニングを適用した研究は世界でも珍しい
概要
電気通信大学大学院情報理工学研究科および人工知能先端研究センターの坂本真樹教授らは、モノの質感をつるつる、さらさらといったオノマトペ(擬音語・擬態語の総称)[1]で表現する人工知能(AI)を開発しました。
1,946枚の画像に写っているモノの質感を100人の被験者にオノマトペで表現してもらったデータを使って、深層学習(ディープラーニング)のモデルを作りました。1枚の画像に対して複数のオノマトペを正解データとして学習させることで、人によって質感の印象が異なるという曖昧さを考慮したモデルの作成に成功しました。
ディープラーニングをはじめとするAIは、一般に質感のような曖昧な学習は苦手とされており、オノマトペにディープラーニングを用いたという点でも世界でまれにみる研究成果といえます。
成果は国際学術誌「Frontiers in Psychology」に掲載されました。
背景
現在、人の神経細胞をモデルにしたニューラルネットワークをベースとする畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)が、一般物体認識の分野で注目されています。その中でも、近年はより多層の構造を持つ深層畳み込みニューラルネットワーク(Deep Convolutional Neural Network:DCNN)が頻繁に用いられています。DCNNには画像の特徴量を学習の過程で自動で抽出できる利点があり、モノの質感を認識する際の課題である「着眼点が人により異なる」ケースでも適用することができます。しかしながら、DCNNをはじめとするAIはそもそも質感のような曖昧な学習は苦手としており、学習の手法に工夫が必要でした。
そこで、オノマトペを使って質感の表現を試みました。オノマトペには、音韻の一音一音に印象が結びつき、共通の印象を与える「音象徴性[2]」が強く現れる傾向があります。これを利用すると、印象を定量化できるため、オノマトペ1語でも多様かつ微細な表現ができるようになります。例えば、形容詞は表現の種類が膨大にあり、また副詞でも「とても」「かなり」といったように似たような意味を持つ表現が数多くありますが、オノマトペを使えばこれらを包含した表現が1語で可能になります。
手法
本研究では、DCNNを使ってオノマトペが持つ音象徴性に着目し、質感を表現するAIを作製することを目指しました。図に示すように、入力を画像、出力を音韻とし、オノマトペによる正解データを学習させます。
実験では、素材画像の研究として一般的なフリッカー材料データベース(Flickr Material Database:FMD)画像から切り出した、繊維、ガラス、金属、プラスチック、水、葉、革、紙、石、木の10個のカテゴリー素材に関する1,946枚の画像と、これらの画像に対応づけた30,138語のオノマトペを実験データとして用いました。オノマトペは、画像に写っているモノの質感を100人の被験者が表現したものです。
この実験データの中から、実験に適したオノマトペとして全体の97.7%にあたる29,443語を選びました。選定したオノマトペは、「さーさー」「ふわふわ」といった「1・2モーラ型」のみで、ローマ字50音表記に沿った音韻だけを使用します(「ふぁ」「てぃ」などは除外する)。さらに、日本語として適切な表現だけを採用しています(「んめんめ」などは除外)。オノマトペは73次元の音韻ベクトルで表現しています。
学習モデルの概要
成果
1枚の画像に対して複数のオノマトペを正解データとして学習させることで、人によって質感の印象が異なるという曖昧さを考慮したDCNNのモデルを作成することができました。このモデルによって出力された音象徴単語は、約80%の正解率を持つことを確認しています。
今後の期待
モノの質感をオノマトペによって表現するDCNNを使ったモデルを作りました。DCNNをはじめとするAIは、質感のような曖昧な学習は苦手とされており、オノマトペにDCNNを用いたという点でも画期的な成果といえます。 人間のように質感を表現できるコンピュータが実現すれば、人とロボットが共存するといわれる将来、例えば、ロボットが目の不自由な人に質感を教えるといったことが可能になると期待されます。
論文情報
- 雑誌名:「Frontiers in Psychology」
- 論文タイトル:Computer Vision System for Expressing Texture Using Sound-Symbolic Words
- 著者:Koichi Yamagata, Jinhwan Kwon, Takuya Kawashima, Wataru Shimoda, Maki Sakamoto
- DOI番号:10.1109/CVPR.2015.7298970
外部資金情報
本研究は科学研究費補助金による支援を受けて行われました。(MEXT Grant Nos. JP23135510 and JP25135713 およびJSPS KAKENHI Grant No. JP15H05922)。
用語説明
- [1]オノマトペ:擬音語・擬態語の総称
- [2]音象徴性:言語音が触覚や視覚など何らかの感覚的印象と結びつく現象
詳細は下記PDFをご覧ください。