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国立大学法人 電気通信大学

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お知らせ

【ニュースリリース】二本鎖DNAが自己集合により六角形型液晶を形成することを発見

2022年11月04日

ポイント

*短鎖二本鎖DNAが自己集合し、六角形型液晶を形成することを発見
*六角形型液晶の安定した形成にはDNAの末端の配列と、温度、構成物の濃度が影響した
*液晶内部では積層したDNAが六角形の面に対して垂直に並んだ構造であることが示唆された
*精密設計の必要のない自己集合するDNA液晶は医療・材料方面への応用が期待できる

概要

牧野哲直さん(基盤理工学専攻博士前期1年)、中根大介助教、田仲真紀子准教授(基盤理工学専攻)は、ごく単純な一種類の短い二本鎖DNAが自己集合により、試験管内で10マイクロメートル前後にもなる六角形のプレート型液晶を形成することを発見しました。この成果はWiley-VCH発行の国際学術雑誌「ChemBioChem」に掲載されました。

背景

生体内はさまざまな分子が高濃度で共存する分子混雑環境にあることが知られており、そのような環境では生体分子は密に集合することがあります。集合状態では生体分子は、低濃度条件で溶液中に均一に分散している場合とは異なる機能を示すことが予想されるため、生体分子の集合状態での機能は近年特に注目されています。試験管内で作製した分子混雑環境においても生体分子の集合が観測されており、二本鎖DNAも集合すると生体内外で液晶相を形成することが知られています。しかし二本鎖DNAによる液晶相の形成とその機能についてはまだ未解明な点が多く残されています。
今回の研究では、配列の決まった一種類の二本鎖DNAを溶解させた溶液中で、水溶性のポリエチレングリコールを高濃度としたところ、DNAの配列や濃度条件によって、非常にユニークな形態のDNA液晶が形成されることがわかりました。

成果

塩を含む溶液中でDNA濃度、ポリエチレングリコール濃度を調節し、溶液の加熱操作とその後の室温までの冷却を行ったところ、共焦点蛍光顕微鏡観測により溶液中に正六角形のプレート型DNA液晶を多数確認することができました。これらの六角形型液晶は10マイクロメートル前後の比較的大きなサイズで、顕微鏡により容易に観測することができます(図1)。

図1:新しく発見された六角形型DNA結晶の蛍光顕微鏡画像と六角形結晶を形成するDNA配列

このように短い二本鎖DNAが、分子混雑環境で自己集合により六角形型結晶を形成することはこれまでに報告例がなく、今回はじめて観測されたものになります。さまざまな実験条件を検討することで、六角形型液晶の安定した形成にはDNAの末端の配列と、温度、DNAとポリエチレングリコールの濃度が影響することがわかりました。
さらに偏光顕微鏡観測によって、屈折率の異方性を調べたところ、六角形のプレート型液晶内で、二本鎖DNAは六角形面に垂直に隣り合って並んでいることが強く示唆されました(図2)。

図2:六角形型DNA液晶の偏光顕微鏡画像と、予想される内部構造の模式図

DNA分子が集合すると、溶液中に高濃度で存在する比較的低分子量のポリエチレングリコール分子が動ける空間が増加するので、エントロピーの増大が起こることになります。そのためDNA分子同士に引力が働き(枯渇力)、このような六角形型の集合体の形成につながったことが考えられます。
六角形型DNA液晶を含む水溶液の吸光度の温度変化測定を行ったところ、二本鎖DNAが一本鎖DNAに解離する融解温度より低い温度(30-45℃)において、吸光度が変化する新たな領域が現れることがわかりました。そこで温度変化をさせながら六角形型DNA液晶の位相差顕微鏡観測を行った結果、新たに現れた温度変化による吸光度変化は、DNA液晶が溶液に融解する温度と対応していることが明らかとなりました。

今後の期待

ごくシンプルで精密な設計の必要のない化学合成した短鎖の二本鎖DNAが、特定の条件でマイクロメートルサイズの六角形型液晶に自己集合するという現象が今回の研究によって見出されました。二本鎖DNAはその電気伝導性も長年着目され、研究されてきました。自己集合して整列し、マイクロメートルサイズのプレートサイズの液晶となったDNAはユニークな電気伝導性を示すことが予想され、周囲の環境によって形態と機能を変化させるような新規の材料としての応用が可能となります。また自己集合したDNA液晶を利用した医薬品やドラッグデリバリーなど、今後の医療面への応用ができる可能性も期待されます。

(論文情報)
著者名:Tetsunao Makino; Daisuke Nakane; Makiko Tanaka
論文名:Self-assembled micro-sized hexagons built from short DNA in a crowded environment
雑誌名:ChemBioChem(Wiley-VCH)
DOI:10.1002/cbic.202200360

(外部資金情報)
本研究はJSPS科研費22H05066、21K07020、20H05543、21K05108の助成を受けて行われました。

詳細はPDFでご確認ください。