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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
伊藤(毅)研究室

人間の知を拡張するゲームAIの可能性を追究

所属 大学院情報理工学研究科
情報・通信工学専攻
メンバー 伊藤 毅志 助教
所属学会 日本認知科学会(JCSS)、情報処理学会(IPSJ)、人工知能学会(JSAI)、国際コンピュータゲーム協会(ICGA)、米電気電子学会(IEEE)
研究室HP http://minerva.cs.uec.ac.jp/~itolab-web/wiki.cgi
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掲載情報は2017年3月現在

伊藤 毅志 Takeshi ITO
キーワード

認知科学、人工知能(AI)、ゲーム情報学、将棋、囲碁、カーリング、人狼、スポーツ、マンマシンインターフェース、生体データ計測、人間らしさ

 

2017年、人間とコンピュータの知恵比べの歴史に一つの幕が下りました。両者はこれまでさまざまなゲームでその知能を競ってきましたが、「将棋」に続いて、“最後の砦とりで”と言われた「囲碁」でも、ついに名人が人工知能(AI)に敗れました。
囲碁では、2015年に米グーグル傘下の英グーグル・ディープマインドが囲碁AI「アルファ碁」を開発し、さらに、AI同士の自己対戦によって強くなる「アルファ碁ゼロ」を創り出しました。アルファ碁ゼロの論文からは、囲碁だけでなく、チェスや将棋でも同様の手法で強いAIを作れることが示されています。ディープラーニング(深層学習)の手法の登場によって、ゲームAIの研究は新たな局面を迎えたのです。

強いAIの開発から、AIの賢い利用へ

認知科学の手法を使ってゲームAIの研究に取り組む伊藤毅志助教は、「強いAIを作るという研究は一つの区切りを迎えた」ととらえています。現在は、その賢いAIをうまく使って、人間の能力をいかに拡張するかというテーマに軸足を移しています。
そこで伊藤助教は、特にコンピュータと人間の認知過程を可視化して比較し、AIが重要とみなす部位を抽出して人間に理解させることを目指しています。ディープラーニングの中身はブラックボックスであるとしばしば指摘されますが、AIがどのように賢くなったのかが分かれば、人間にとってより使いやすいAIを開発できるでしょう。AIが人間の能力を超えるとされる「2045年問題」も控えており、今後はこうした研究が一層求められることは間違いありません。
 
 

不確定要素を含むゲームでも人間に並ぶ

 

不確定要素を含むゲームでも人間に並ぶ
システムは複雑ですが、一定の条件下では、すでに人間に匹敵するAIが完成しつつあります。伊藤助教は「人間が思いつかないような戦略をAIに提案させ、AIを使って学習した選手が将来オリンピックで活躍するようになる」と想定し、カーリングの学習支援システムの開発に取り組んでいます。
さらに、別の複雑な要素を含むゲームとして、うそや駆け引きといった高度な心理戦が繰り広げられる「人狼ゲーム」を対象にした研究も進めています。人狼AIはまだ人間の能力には及びませんが、これが完成した暁には、人間の高度な交渉術や、逆に人間が陥りやすい思考の研究につながると考えています。
生体データの取得には、視線の動きをとらえるアイカメラのほか、発汗・脈拍計測器や筋電計測装置、加速度センサ、脳の血流量を測る光トポグラフィ装置などを用いています。最近は、少林寺拳法など動きを伴うスポーツ時の生体情報を計測して可視化する研究にも乗り出しています。これは、「熟達化」を促すためには、自身の身体の生体データをフィードバックすることが有効であるという知見を利用した研究です。

ゲームAIはベンチマーク

 


ゲームAIは、ルールが明確で勝敗のあるゲームを対象にすることで、より賢いAIの開発に貢献してきました。一方で、ゲームAIがこのようにAI研究のベンチマークになっているにもかかわらず、日本ではいまだにゲームを軽視する風潮があり、ゲームAIの研究がもたらす効果にあまり目が向けられていません。AIの効果的な導入を模索する企業は、ゲームが開く未来にそろそろ気付くべきときに来ています。
囲碁AIの研究は、もともと日本が世界の中でも進んでいましたが、いつの間にか、グーグルが巨大資本と膨大なマシンパワーで「アルファ碁」という優れた成果をもたらしました。こうしたビックデータを用いた知的システムが、まだ見ぬ新たな技術に大化けすることは想像に難くないでしょう。
ゲームはAIの能力を測る最適な実証の場であり、その応用の可能性は計り知れません。伊藤助教は「ゲームAIで培った知見は人間の知を拡張する可能性を秘めており、我々もその架け橋になるような研究がしたい」と考えています。

【取材・文=藤木信穂】

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