研究室紹介OPAL-RING
藤井 研究室
データを使って周波数資源を効率的に割り当てる
所属 | 先端ワイヤレスコミュニケーション研究センター |
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メンバー | 藤井 威生 教授 |
所属学会 | 米電気電子学会(IEEE)、電子情報通信学会 |
研究室HP | |
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掲載情報は2022年6月現在
- 藤井 威生
Takeo FUJII
- キーワード
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無線通信、移動通信、周波数共用、コグニティブ無線(CR)、無線アドホックネットワーク(自律分散型無線ネットワーク)、無線環境データベース、高信頼性通信、V2X(車向け通信)、自動運転車向け通信
携帯電話をはじめとする移動通信システムの増加や無線LANの利用拡大、近年のIoT(モノのインターネット)通信の普及に伴い、こうした需要に応えるために大容量通信が可能な第5世代通信(5G)やその先のBeyond5G、6Gなどの次世代通信規格の研究開発が進んでいます。一方で、無線システムが急激に増えたことによって周波数の帯域が枯渇し、新たな周波数資源の割り当てが困難になるといった状況が将来の無線通信技術の発展に向けた課題となっています。
空間、時間、干渉耐性の三つの軸で
ただ、現状の無線通信では、実際に割り当てられた周波数帯域の利用率は100%には達しておらず、空間的、時間的に使われていない隙間の帯域が存在します。藤井威生教授は、このような周波数帯域を有効に活用するための研究に取り組んでいます。そこでは「空間的な空き帯域を活用する空間軸と、システムの空き時間を活用する時間軸に加えて、電波の干渉に耐えられる干渉耐性軸の三つの軸でそれぞれ動的な周波数共用が可能だ」と藤井教授は考えています。
藤井教授はこの3軸において、特にスマートフォンや無線LAN端末などから収集した大量のビッグデータを集約して活用する「データ指向型」の動的な周波数利用を推進しています。例えば、地域の企業や自治体などが自分の土地内で5Gシステムを利用するローカル5Gでは、現状、事前に割り当てられたエリアや条件を超えて周波数を利用することはできません。しかし、工場が稼働していない夜間は一般ユーザにその帯域の利用を開放するといったダイナミックな周波数利用が可能になれば、限られた資源を有効に使うことができるでしょう。
電波環境の測定実験の様子(1)
電波環境の測定実験の様子(2)
スペクトラムデータベースの活用
このような周波数共用を人の手ではなくサーバが自律的に行うことを目指して、藤井教授は周囲の無線環境や周波数資源の利用状況をデータで蓄積し、管理する「スペクトラムデータベース」を活用する方法を提案しています。多数の端末から集めた観測データをクラウドセンシングすることによって、高精度の電波伝搬モデルを構築し、一例として電波環境のマップを作成しました。観測データにはどうしてもムラが生じてしまいますが、これを補間して埋めるクリギング(マップの推定値を改善する内挿法)の導入によって、実環境にかなり近い精度のマップが作れることを示しています。
V2Xにもデータを活用
もう一つの研究テーマは、自動車とあらゆるモノをつなぐ無線通信(V2X:Vehicle-to-every thing)にデータを活用する試みです。V2X環境では受信側だけでなく送信側も移動体になるため、それぞれの観測データを解析する必要があります。そのなかで多様なアプリケーションを搭載したコネクテッドカー(つながる車、CAV)を安全に走行させるためには、通信の信頼性の確保が欠かせません。
藤井教授はスペクトラムデータベースを活用し、通信機器を備えた3台の走行する車両間において、V2Xの信頼性を予測する実証実験を行いました。周辺の無線環境や車両の環境に応じて周波数を割り当て、さらにニューラルネットワークを用いたクリギングによる補間を行うことにより、送信機に対応する受信電力のマップを構築することに成功しました。これによって、例えば交差する道路を走る車両の存在がビルなどの影に隠れて見えなかったり、信号が大きく減衰して電波が受信できなかったりするような場合でも、安定的な車両間通信によってその車両の位置情報をリアルタイムに把握できるようになります。
将来はAIが自律的にシステムを設計
このほかにも、藤井教授は米国や欧州との周波数共用に関する共同研究や、衛星通信、ドローン通信などの次世代通信技術の開発に関する国家研究計画、またレベル4の自動運転サービスの実現に向けた通信システムの研究プロジェクトなどに参画しています。
現在はシステムごとに固定的に周波数を割り当てていますが、こうした技術開発が進めば、数年後には現行の5G/LTE規格において自律的な周波数共用が可能になり、2030年ごろには多様な無線システムに自律的なダイナミックスペクトラムによる割り当てが採用されるようになるかもしれません。
さらに先の2050年くらいまでには、「人工知能(AI)や機械学習を活用し、無線システム自体が環境やユーザに合わせて自律的に設計されるような世界が構築されるのではないか」と藤井教授は無線通信の将来について展望しています。
【取材・文=藤木信穂】