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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
松浦 研究室

光ファイバ通信技術の応用
 ――光信号処理と光ファイバ給電、自動運転車への展開

所属 大学院情報理工学研究科
情報・ネットワーク工学専攻
メンバー 松浦 基晴 准教授
所属学会 米電気電子学会(IEEE)、電子情報通信学会、米国光学会
研究室HP http://www.mm.cei.uec.ac.jp/
印刷用PDF

掲載情報は2018年3月現在

松浦 基晴 Motoharu MATSUURA
キーワード

光ファイバ通信、光信号処理、ネットワーク、無線通信、防災、携帯電話、レーザ、電力伝送

研究に対するビジョン

光ファイバ通信は日本が世界のトップを走ってきた分野であり、産業としても既に確立されています。さらにここに来て、陸上基幹伝送システムや海底ケーブルシステムといった従来の長距離伝送用途だけでなく、短距離伝送向けの光ファイバ通信の需要も増えつつあります。というのも、将来は、これまで使われていなかった自動車などの乗り物、ロボットの内部のほか、IoT(モノのインターネット)機器などにも、光ファイバが張り巡らされると見込まれているからです。

光ファイバ通信とIoTやAIを融合

光信号処理技術

松浦基晴准教授は、この成熟した光ファイバ技術の優位性を生かして、通信分野はもちろん、光信号処理や光ファイバ給電に関連した新技術を次々と生み出しています。「近年盛んなIoTや人工知能(AI)技術と光ファイバ通信技術を融合させれば、社会にインパクトを与える新しい産業が生まれるだろう」と松浦准教授は考えています。
研究室では、主に「光信号を制御・処理する信号処理技術」、「通信と送電が可能な光ファイバ給電技術」、「自動運転車を支える光ファイバ伝送技術」の三つのテーマを中心に研究を進めています。一つ目の光信号処理技術は、IoTの普及により爆発的に増えているデータを処理するために、現在、世界中で増設されているデータセンタ向けの技術です。

データセンタ向け光信号処理

この光信号処理において、松浦准教授は、米グーグルや米マイクロソフトなど世界大手のデータセンタが採用するとみられる次世代の変調方式「光振幅変調(PAM–4)」に対応した波長変換において、高速動作の実証実験に成功しました。 もうひとつ、成果をご紹介しましょう。アナログ信号をデジタル信号に変換するアナログ・デジタル(A/D)変換は電子回路には欠かせない技術ですが、将来はこれを光の領域で行うことが期待されています。電気的なA/D変換に比べ、光技術によるA/D変換は低消費電力化と高速化が可能です。 松浦准教授はこの次世代の光A/D変換を、世界で初めて単一の半導体素子を使って実証しました。従来の光A/D変換は、光ファイバの非線形効果を使って行っていましたが、長距離の光ファイバはそれだけでシステムが大型になってしまいます。これに対して松浦准教授は、汎用的な半導体型の光増幅器において、従来の光ファイバと同等以上の精度で光A/D変換ができることを示しました。 単一の半導体素子内で光A/D変換ができれば、圧倒的な小型化が可能になり、レーザやフォトダイオードといった光部品に集積することも見込めます。実用化できれば、通信分野だけでなく、新たな応用が開かれるでしょう。

光ファイバで通信に加え、送電も

二つ目のテーマは、将来、重要とされる光ファイバ給電技術です。これは光ファイバを使って従来用途の「通信」を行うだけでなく、「送電」も同時に行う技術です。石英ガラス製の通常の光ファイバは電気を通さない性質を持ちますが、電気を送る「電力線」としての役目も果たすことができます。
例えば、光ファイバで無線通信用の信号と、基地局を駆動するための電気を同時に送ることができれば、災害時でも使える無線通信システムが構築できます。従来は必須だった大規模なバッテリーや自家発電装置が不要になり、災害時に停電しても光ファイバによって電気を供給できるのです。
光ファイバ給電は古くからある技術ですが、これまでは通信と送電を同時に行うと、伝送時の信号品質が著しく低下する課題がありました。そこで松浦准教授は、小コアの外側に大コアを持つ、2層のダブルクラッド構造を採用した新型の光給電型光ファイバ伝送システムを提案しました。
小コアに信号光、大コアに給電光を送ることで、1本の光ファイバで従来比100倍以上となる約60ワットの電力を約300メートルにわたって伝送し、高い信号品質も持たせられることを実証しました。この成果は海外でも高く評価されています。
光ファイバーを用いた無線通信ネットワーク
光給電型光ファイバー無線伝送

自動車や飛行機が今後のターゲット

最後のテーマとして、自動車や飛行機などへの導入に向けたプラスチック製の光ファイバの研究も手がけています。例えば、将来の自動運転車には、複雑な制御系や高精細映像のための高速の車載ネットワークが必要になることから、車内に多数の光ファイバが張り巡らされると想定されています。そこでは特に、ガラス製ではなく、狭い場所にも収容できる柔軟なプラスチック製ファイバが有望とされています。
松浦准教授は、この自動運転車向けのプラスチックファイバについて、ファイバの接続部をコアの直径に対して4分の1ほど軸ズレさせた場合の伝送品質を測定したところ、ガラスファイバに比べて2倍以上の高い伝送品質を示すことを実験により確かめました。今後、こうした曲げや振動に強いプラスチックファイバの導入が進んでいくでしょう。
光ファイバ1本当たりの伝送容量は年々増大し、過去15年で約200倍の容量の情報が送れるようになりました。さらにIoTやAI、自動運転車の普及により、光ファイバ通信技術がさらに新たな価値を提供していくことはもはや疑いようがありません。
松浦准教授は、「光ファイバ通信は日本が強い領域だからこそ、光ファイバ給電など有用な技術の早期の実用化を目指して開発を進めたい」と意気込んでいます。

【取材・文=藤木信穂】

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