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国立大学法人 電気通信大学

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お知らせ

【ニュースリリース】不適切な換気によるエアロゾル感染拡大に警鐘

2023年02月06日

石垣陽特任准教授(情報学専攻)、横川慎二教授(i-パワードエネルギー・システム研究センター)らの研究グループは、宮城県結核予防会、産業医科大学産業医実務研修センターおよび東京工業大学の研究グループと連携して、COVID-19の集団感染(クラスター)が発生した60ヶ所以上の医療福祉機関・事業所において、再発防止の観点から立ち入り調査を行ってきました。

これらの調査結果から、従来からエアロゾル感染の要因として指摘されてきた「換気の悪い密閉空間」に加えて、「気流に乗ったエアロゾルによる風下汚染(図1)」と、「送風機・扇風機によるエアロゾルの飛散(図2)」の2つの新しい要因が見つかりました。こうした「不適切な換気」によって、逆にエアロゾル感染が拡大し、クラスターの発生要因となる可能性があると考えられます。そこで研究チームでは対策として、送風機・扇風機の設置方法を見直すことや、施設内での気流の確認と管理を行うことでエアロゾル感染のリスクを低減させることを提言しています。

これらの研究成果は国際的な医学系ジャーナルのJMIR Formative Research(JMIR Publications 社、論文情報1)および、自然科学系ジャーナルのScientific Reports(ネイチャー・リサーチ社、論文情報2)において出版されました。

図1:高齢者施設における風下汚染クラスターの再現実験

図1:高齢者施設における風下汚染クラスターの再現実験

図2 送風機クラスターの再現実験

図2:送風機クラスターの再現実験

背景

新型コロナウィルスの感染拡大予防のためは、「エアロゾル」「飛沫」「接触」という3つの感染経路毎に、複数の対策を講じることが重要とされています。特に昨今は感染力の強い変異種の蔓延から、エアロゾル感染への対策の重要性が高まっています。

しかし接触・飛沫感染に比べ、エアロゾル感染は視覚的に認識しにくく、有効な予防策や再発防止策がとられにくいのが現状です。そこでエアロゾル感染のリスクを可視化するため、CO2センサーによる室内空気環境の管理が注目されています。

研究の詳細

研究チームではCO2センサーをネットワーク状に配置し、測定された時系列データを系統的に解析することで、換気回数やエアロゾルの伝搬経路を可視化することを実証するため、実際にクラスターが起きた現場で再現実験を行いました。その結果、研究チームではエアロゾル感染クラスターには少なくとも次の2つの異なる種類があることを突き止めました。

事例1 気流に乗ったエアロゾルによる風下汚染(高齢者施設での事例、論文情報1)

2021年4月までに当該建物内で合計59人の感染者が報告されました。このうち、36名が施設の利用者(入所者、日帰り利用者を含む)で、残りの23名が施設職員でした。研究チームでは同年8月にCO2センサーネットワークによる換気と気流の調査を実施しました。その結果、発端となったと考えられる初期感染者が入居していた個室から、廊下を介して空間的に繋がっているデイルームに向けて緩やかな気流が発生していることがわかりました(図1、3)。この気流はデイルームに設置された大型の換気扇による強い吸引力によるもので、陽性者が居た個室にある換気扇よりも吸引能力が高いため、デイルームと個室で圧力の差が生まれ、結果として感染性のエアロゾルが個室から漏洩し、1分程度でデイルームに到達する可能性があることがわかりました。

デイルームは入居者だけでなく日帰りで施設を訪れる人が自由に利用できる憩いの場であり、被介護者や職員など複数の人が頻繁に利用するため、感染リスクは比較的高かったものと予想されます。この施設ではデイルームの利用者を中心に最初の感染が広がったことから、研究チームでは不適切な換気による吸引・漏洩が初期感染に繋がったものと結論づけています。

キャプション

図3: 高齢者施設におけるエアロゾルの挙動を熱流体シミュレーションによって可視化したもの

一般に高齢者施設では、生活の質の向上や入居者の見守りのために開放的な建築空間の設計が推奨されています。しかしこのように相互に接続された空間設計においては、圧力差に配慮した換気設計も同時に求められることが今回の調査で判明しました。

この高齢者施設において、研究チームではデイルーム近辺の個室の使用を控えると共に、デイルームが陰圧となってしまう機械換気を見直すため、窓開けによる自然換気を併用することを提案し、この実地調査の後に新規感染者は発生していません。

●事例2 送風機・扇風機によるエアロゾルの飛散(工場での事例、論文情報2)

2021年に、1週間に相次いで5名の感染が確認された製造工場の事務室にて、同年11月にクラスター発生時の状況を再現するためCO2トレーサーガス法による換気調査と熱流体シミュレーションを行いました。その結果、クラスター発生当時は外部に空気の逃げ場がない状態であり、さらに事務所内に設置された送風機による気流が、発端となった感染者から放出されたウィルスを含むエアロゾルの飛散につながった可能性が高いことがわかりました(図4)。そこで研究チームではこの様子を簡易的に可視化し、リスクコミュニケーションメッセージとして発信するため、研究室内で再現実験を行いました(図2)。さらに、送風機は人に当てたり空気をかき混ぜる目的で使用するのではなく、室内の汚れた空気を押し出すように、窓やドアの近くに外向きに設置するように推奨しています。また、室内で換気の行き届かない淀みがある場合に、その空間に向けて作動させる事も有効だと考えられます。

なお、この製造工場において、研究チームでは送風機の配置を変更することでエアロゾルの飛散リスクを下げる対策を提案し、この実地調査の後に新規感染者は発生していません。

感染者5名が確認された製造工場事務室の見取り図

図4:感染者5名が確認された製造工場事務室の見取り図

【研究チームの構成】
石垣 陽 特任准教授 (情報学専攻)
横川 慎二 教授 (i-パワードエネルギー・システム研究センター長)
喜多村 紘子 准教授 (産業医科大学 産業医実務研修センター、産業医)
齋藤 彰 氏(宮城県結核予防会、臨床検査技師)
源 勇気 助教(東京工業大学 工学院(研究当時)。現株式会社Fixstars Amplify ディレクター)
川内 雄登 氏(情報学専攻 博士前期課程2年)

【論文情報】
1)Yo Ishigaki, Shinji Yokogawa, Yuki Minamoto, Akira Saito, Hiroko Kitamura, Yuto Kawauchi, Pilot Evaluation of Possible Airborne Transmission in a Geriatric Care Facility Using CO2 Tracer gas: A Case Study, JMIR Form Res. 新しいウィンドウが開きます http://dx.doi.org/10.2196/37587
2)Hiroko Kitamura, Yo Ishigaki, Hideaki Ohashi, Shinji Yokogawa, Ventilation improvement and evaluation of its effectiveness in a Japanese manufacturing factory. Sci Rep 12, 17642 (2022). 新しいウィンドウが開きます https://doi.org/10.1038/s41598-022-22764-2

詳細はPDFでご確認ください。