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国立大学法人 電気通信大学

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お知らせ

【ニュースリリース】保存則のもとでの量子操作の原理的制約に対する未解決問題を解決 量子デバイスへの応用に期待

2023年11月22日

ポイント

  • エネルギー保存則や運動量保存則のような保存則の下で、保存する物理量と同時測定不能な物理量の厳密な測定は実装不能であることを主張するWigner-Araki-Yanase(WAY)定理を、Yanase条件と呼ばれる条件の下で、非有界な保存量の場合に拡張した。
  • 非有界な保存量に対するWAY定理は、例えば運動量が保存する場合に位置単体の厳密な測定が不可能であることを示すため、物理的に重要な意味を持つ。
  • この結果は、WAY定理が1960年に成立して以来、60年以上未解決だった問題の、1つの解決を意味する。
  • さらに、ユニタリ操作についても非有界な保存量に対する同様のWAY型の定理を証明した。これらの結果は、量子センシングや量子計算などの量子技術への応用が期待できる。

概要

保存則などの普遍的な物理法則が量子測定などの量子操作に与える原理的な制約についてさまざまな観点から研究がされて来ました。こうした研究の中で重要なものの1つに、有界な保存量についての保存則による量子測定に対する普遍的な制限を与えるWigner-Araki-Yanase(WAY)定理があります。この定理は、もしも運動量やエネルギーを含む非有界な保存量に対して成立すれば、粒子の位置の測定について、位置と運動量の同時測定はHeisenbergの不確定性関係により不可能であるというよく知られた事実とは別に、運動量が保存する場合の位置単体の誤差のない測定が不可能であることを予言します。しかしながら数学的な難しさから、WAY定理がこのような非有界な保存量に対して成立するのかはその登場以来、未解決の問題となっていました。
今回の研究で、田島裕康助教(情報・ネットワーク工学専攻、兼任:JSTさきがけ)と倉持結助教(九州大学)のグループはWAY定理が運動量やエネルギーを含む一般の非有界な保存量に対しても成り立つことを、Yanase条件と呼ばれる仮定のもとで数学的に厳密に証明しました。さらに、量子測定とは別にユニタリ操作と呼ばれる量子操作のクラスについて、保存量と非可換な場合には実装することが非有界性に伴う例外的な場合を除き実装不可能であると主張するWAY型の定理も類似の手法を用いることで証明しました。今回の発見は量子センシングや量子計算、量子鍵配送などに用いられる量子情報技術の開発に新たな知見をもたらすことが期待されます。 本研究成果は米国物理学会の雑誌「Physical Review Letters」のオンライン版に2023年11月22日(水)午前1時(日本時間)に掲載されました。

研究の内容と成果

本研究では、こうした非有界な保存量に対してもWAY定理がYanase条件の下で有界な保存量の場合と全く同様に成り立つことを示しました。この結果は上で述べたような運動量が保存する位置測定に適用できる他、連続量量子鍵配送などで重要となる直行位相振幅の誤差のない測定が線形光学素子のみで実現できないことを予言します(図2)。さらに、この量子測定のWAY定理とともに、ユニタリ操作と呼ばれる量子操作に対するWAY型の定理が成り立つことも同様の証明手法を用いることで示すことができました。
以上の成果では、非有界物理量の数学的難しさを、対応する有界なユニタリ演算子である「1パラメーターユニタリ群」を変わりに考えることで回避し、このユニタリ演算子に通常の量子情報理論で用いられるテクニックを適用することで、証明をすることが可能となりました。

今後の展開

本研究結果は純粋に理論的なもので実用化や検証などを直接することができる性質のものではありませんが、適用範囲の一般性と普遍性により今後の量子デバイスの実装において新たな知見をもたらすことが期待されます。今後の研究の方向としては、①本研究成果は量子測定やユニタリ操作の厳密に誤差のない実装に対するものであるため、これをより一般の量子測定・操作の実装に対する制限に一般化すること、②今回のWAY定理の非有界な物理量への拡張は、Yanase条件を仮定するものについての拡張ですが、WAY定理には反復可能条件を仮定するものもあるため、Yanase条件を反復可能条件に置き換えた場合に同様の定理が成立するかどうかを理論的に検証すること、などが挙げられます。

参考図

"Wigner-Araki-Yanase Theorem for Continuous and Unbounded Conserved Observables", Phys. Rev. Lett. ©Yui Kuramochi and Hiroyasu Tajima (Licensed under CC BY 4.0)

(図1)量子力学的粒子の位置の測定の概念図。例えばこのように光を当てて粒子の位置を測定する場合には、粒子とプローブ光と検出器との間に運動量保存則が成立する。WAY定理によるとこのときの粒子の位置の誤差のない測定は不可能であるという結論が導かれる。

"Wigner-Araki-Yanase Theorem for Continuous and Unbounded Conserved Observables", Phys. Rev. Lett. ©Yui Kuramochi and Hiroyasu Tajima (Licensed under CC BY 4.0)

(図2)線形光学素子のみよる測定の概念図。ビームスプリッターや位相シフターなどの光学素子はエネルギー(光子数)保存則を満たし、またプローブ系への光子数計数測定の後処理で得られる測定はYanase条件を満たす。直行位相振幅の演算子はエネルギーと非可換なので、これより今回我々が証明したWAY定理を適用すると直行位相振幅の誤差のない測定が不可能であることが導かれる。

(謝辞)
本研究はJSPS科研費(JP22K13977、JP19K14610、JP22H05250)、JST さきがけ(JPMJPR2014)、 JST ムーンショット型研究開発事業 (JPMJMS2061)の助成を受けたものです。

(論文情報)
掲載誌:Physical Review Letters
タイトル:Wigner-Araki-Yanase Theorem for Continuous and Unbounded Conserved Observables
著者名:Yui Kuramochi and Hiroyasu Tajima
DOI:10.1103/PhysRevLett.131.210201

詳細はPDFでご確認ください。