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国立大学法人 電気通信大学

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新たな世界を切り開け 電気通信大学が挑み続ける最先端技術の研究。
それはどんなコンセプトのもとに実践され、具体的にどんな取り組みがなされているのか、
キーパーソンに聞いた。

思考力問う作問手順を初めてマニュアル化。教授 久野 靖

未来に目を向け、コンピューターの知的利用、
新領域開拓に挑む

コンピューターの進化はとどまる所を知らない。このためコンピューター関連の研究では常に未来を見据えた取り組みが求められる。情報理工学研究科の西野哲朗教授(情報学専攻)および西野研究室はコンピューターの知的利用、新たな活用領域の開拓などを目的に主にソフトウエアの基礎から応用まで幅広い研究を行っている。トランプゲーム「大貧民」のプログラムを競う大学の名前を冠した「UECコンピューター大貧民大会」は、同研究室の学術研究から生まれた人気イベントだ。研究室の主要な研究テーマの一つである自然言語処理、量子コンピューター研究の最前線を覗いてみる。


ロボットとのスムーズな会話実現へ
AIで言語解析

ロボットが私たちの生活を手助けする存在になると期待されるなか、誰もがロボットと自然な会話ができたらと思う。しかし、これは決して夢物語ではない。西野教授は自然な会話を通じ、学生が求める図書を探し出してくれる図書館案内ロボットの実用化に向け、大学附属図書館と共同研究に乗り出している。鍵を握るのは人工知能(AI)を核としたコンピューター処理によって、相手の会話内容をひも解く自然言語処理と呼ばれる技術だ。

人の言語の認識はスマホでの語彙検索をはじめとして、すでに一部で実用化し利用されている。ただ、現状のコンピューターによる言語処理は発展途上にあるといわれる。西野教授は「コンピューターが単語の意味を理解し、文法が正しいかのチェックまではできる。だが、その先の会話の意味、意図の正しい把握ができない」と説明する。人の言語は曖昧な要素を数多く含むため、全体の意味合いの正しい理解となると難易度が格段に上がってしまう。

自然言語処理は、まず人間が発した言語を単語、助詞などに分解し、どういう言葉で成り立っているかを解析。このうえで文法的に正しいかをチェックする構文解析を行い、その次に意味を導き出す意味解析の順番で進められる。会話の意味・意図の解析に向け、突破口を見出そうとしているツールが、米IBMが開発したAIの一種である質問応答システム「ワトソン」だ。ワトソンは元々、早押しクイズで人間に勝利するために開発されたシステムで、実際に米の人気クイズ番組で見事に人間を打ち破っている。ただ、会話の意味までを解析することはやはり苦手という。そうした中でも、会話の意味のやや下のレベルに位置づけられる「会話の意図」を掴むことはできるという。これをうけて西野教授は「ワトソンを使うことで会話の意図を一定程度理解し、完璧ではないにしても、自然に近い形で人間とロボットとの会話を実現しようというのが私たちの狙い」と明らかにする。

これが実現すれば応用範囲は広い。教育現場や社員研修で初歩的部分をロボットに代行させるのをはじめ、慢性的な人手不足に悩む介護分野でも多彩な利用の仕方が考えられる。西野教授は「どう研究にアプローチするにしても、今後は社会に役立つ応用アプリケーションを考えていくことが重要になる」と強調する。

量子コンピューター時代にらみ
先んじてアプリ探し出す

次世代コンピューターとして注目を集める量子コンピューターも注力する研究テーマの一つだ。
物理量の最小単位である量子の世界で起きる特有の物理現象の理論が量子力学と呼ばれ、これを用いたのが量子計算。そして、これらに基づいたコンピューターが量子コンピューターだ。「0」と「1」を組み合わせて計算する現在のコンピューターとは理論体系が根本的に異なっている。西野教授は「量子コンピューターは、スーパーコンピューターでも何万年もかかる計算問題を数分で解くポテンシャルを秘めている。本格的な実用化の時代をにらみ、キラーアプリケーションを先んじて見つけ出そうというのが私たちの狙い」と明快だ。

 
   
 

量子コンピューターをめぐっては、カナダのベンチャー企業、D-Waveシステムズが2010年代に入って以降、「D-Wave1」「D-Wave2」を相次ぎ発表。これを機に米国のロッキード・マーチン、グーグル、IBMといった巨大企業が導入したり、活用する動きをみせている。
量子コンピューターは大きくゲート式とアニーリング式に分けられる。アニーリング式は「量子焼きなまし法」とも呼ばれ、現行のD-Waveマシンはこの方式により、与えられた条件から解答を導き出すのに特化したコンピューターとされる。西野研究室は同コンピューターを活用し、解きたい問題を一度、「スピングラス問題」に置き換え、D-Waveマシンを使って解いたスピングラス問題の答えを再度、本来の問題に変換する手法で研究している。スピングラス問題とは、エネルギーが最小になるスピンの向きを解き明かす磁性に関するよく知られた物理問題。西野教授は「この方式を用いることで時間がかかる問題も速く解けるようになる可能性がある。この方式に基づいてアプリケーションを見つける研究を重ねておけば、本格的な量子コンピューターが登場した際にわれわれの研究成果を生かせるだろう」と期待する。

量子コンピューターが本格的な実用化時代を迎えれば、産業分野を中心に利用範囲は多岐に渡る。例えば通販事業の一工程である巨大倉庫での商品ピッキング作業も、最適経路を瞬時に探し出せるようになる。反面で金融のセキュリティーの要である暗号方式を再構築しなければならないなどの問題が生じるとの指摘もある。西野教授は「この研究を通じて人々の生活に役立つアプリケーションを探し出していきたい」と力を込める。

データサイエンティスト育成へ
2020年度もフェロー募集

西野教授はデータアントレプレナーフェロープログラムの担当教員も務める。ビッグデータの活用に注目が集まるなか、データサイエンティストの育成も急務になっている。データサイエンティストとはデータを的確に扱えて、分析などの能力も持つ専門家のこと。日本ではこの専門要員が圧倒的に不足しているとされる。この人材育成を目的に文部科学省のデータ関連人材育成プログラムに沿って始めたのが同プログラムだ。2020年度も前年度に引き続き開講する。

受講生は高度技術研修生・データアントレプレナーフェローとして大学院レベルの高度で専門的な科目を履修し、少人数でのグループ演習では実践的な指導を受けることができる。文科省の同事業は、電通大のほかでは大阪大や早稲田大など合わせて全国5つの大学が採択されている。同プログラムの講師として講義も受け持つ西野教授は「本学の場合、授業内容が体系的、実践的でカリキュラムがしっかりしていることを特徴としてあげることができる」と話す。実際の育成プログラムをみると、eラーニングなどを通じ基礎知識を習得する基礎学習、企業のソリューション事例研究などの対面学習、実際にデータ分析などを試みる実践学習に分かれている。

対面学習では豊富に用意されている電通大の各種科目を履修することもできる。そうしたなかでも他にはみられない最も特徴的といえるのが実践教育での演習だ。ここでは1グループ4、5人に分かれ、データサイエンス協会の協力のもと、企業に所属するプロのデータサイエンティストが各グループに一人加わり、実データを分析し、データから課題を解き明かすといった内容だ。実際のデータ分析作業を通じ、実践的能力が身に付く効果が期待できる。一方で職を持たない学生には研修報奨金を支給する支援策も用意されている。所定の科目をすべて履修し、一定の学業水準にあれば最大50万円が支給される。この報奨金で次の学びにつなげてもらうのが狙いだ。

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