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概要

 
1.セミナーの趣旨と概要

 独立行政法人日本学術振興会(JSPS)、国立大学法人電気通信大学(UEC)、インド科学技術省(DST)及びサハ核物理学研究所(SINP)の4機関は、平成22年11月29日(月)~12月4日(土)の6日間の日程で、インド・コルカタにあるサハ核物理学研究所にてJSPS-DSTアジア学術セミナー2010を開催しました。
 本セミナーの主題「新機能を持つクラスター・ナノマテリアル・表面」は、アジア各国が抱えている課題である持続可能社会の実現、環境とエネルギー、資源代替、情報通信システム、産業・経済、多様な教育、人材確保などの解決の基盤となるナノサイエンス・ナノテクノロジーと関連し、また、理学、工学、医学、生命科学、地球環境科学など多様な学問領域にまたがり、グリーンイノベーションとライフイノベーションに貢献する重要な最先端研究分野のトピックスです。本分野は異分野連携を通して今後様々な発展が期待されています。
 本セミナーは、アジア各国の大学院生や若手研究者を招待し、新機能を持つクラスター・ナノマテリアル・表面に関する最新の学術動向について、本分野を先導する研究者によるレクチャーと、ナノマテリアル・表面を計測・評価するための放射光X線分析法を具体的に講義するスクーリング “Synchrotron X-ray Techniques for NanoStructured Materals”、受講生によるポスターセッションから構成されており、受講を通じて当該分野に関する専門性を深化させるとともに、講演者との討論や受講生同士の交流を通じて次代のアジアの学術を担う精鋭を養成することを目的として開催されました。  
 ナノテク・材料研究分野はアジア各国、特にインドで大変関心が高く、研究のレベルも高く、研究者も多いことから、日印科学評議会にて議論した結果、日印科学評議員で表面・界面科学領域の日本側コーディネーター(岩澤康裕電気通信大学教授)が組織委員長を引き受け、インド側コーディネーター(Milan K. Sanyal サハ核物理学研究所長・教授)が副組織委員長として、本セミナーを計画しました。

2.開催期間
平成22年11月29日(月) ~ 平成22年12月4日(土) 6日間
3.開催地(会場)
サハ核物理学研究所、コルカタ、インド
4.運営体制
組織委員会
日本側委員
岩澤康裕(委員長、電気通信大学 大学院情報理工学研究科 先進理工学専攻 教授)
野村昌治(高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 放射光施設 教授)
インド側委員
Prof. Milan K. Sanyal ( 副委員長、Saha Institute of Nuclear Physics, Kolkata)
Prof. R. Ranganathan (Saha Institute of Nuclear Physics, Kolkata)
アドバイザー
Prof. C.N.R Rao (Hon.President, Jawaharlal Nehru Centre for Advanced Scientific Research)
Dr. Thirumalachari Ramasami (Secretary, Department of Science & Technology, Government of India; Chairperson, Indo-Japan Collaborative Research Committee)
組織委員会事務局
日本側  飯銅 純二(電気通信大学 研究協力課研究協力係)
インド側 Avijit Das (Surface Physics Division, Saha Institute of Nuclear Physics)
5.参加者数 (計123名)
講演者 29名(日本6名、インド19名、米国1名、英国1名、韓国2名)
受講生 94名(日本7名、インド72名、台湾6名、韓国1名、マレーシア1名、タイ5名、ベトナム2名)
6.講師と受講者の選出について
1)講師の選出方法
 新機能を持つクラスター・ナノマテリアル・表面の研究分野を先導する研究者で、併せて、スクーリング主題であるナノマテリアルを計測・評価するための放射光X線を用いた分析法・解析法に通じた研究者を加味して、日本、インド、韓国、米国、英国から講師を選びました。選考は、岩澤組織委員長を中心として、前日印科学評議会インド側代表者であるProf.C.N.R.Rao および本セミナー副組織委員長であるProf. M. K. Sanyal、KEK-PF の野村昌治教授、及びJASRI/SPring-8の高田昌樹教授がメール協議して決めました。また、Prof. M.K. Sanyal の来日時に、講師候補者に加えて主題と実施計画の内容の詳細について意見交換し最終調整を行いました。それらの結果、本セミナーとスクーリング主題を広くカバーする世界第一線の講師陣となりました。
2)受講者について
 受講者の募集・選考は、日本では、学振HP掲載、電通大HP掲載、日本化学会の「化学と工業」誌への会告および会員へのメール配信、日本表面科学会会員へのメール配信、日本触媒学会会員へのメール配信、日本放射光学会HP掲載、及びAsia-Oceania Forum for SR Research(AOFSRR)アジアネットワークにより案内、募集を行いました。AOFSRR ネットワーク配信については、KEK 物質構造研究所下村理所長の全面的支援を受けました。インドでは、インド物質科学会(IMRS)のHP掲載とネットワーク、インド触媒学会ネットワーク、サハ核物理学研究所のHP掲載により案内、募集を行いました。
 日本側およびインド側ともポスター・チラシを作成し、関係大学・研究機関に案内を送付しました。また、組織委員及び関係者の個人的なネットワークを利用してアジア各国の関係者に連絡し、応募依頼を行いました。
 応募は定員以上に多数あったため、応募理由、研究分野、国別など総合的、公平に判断し、インド人はインド側組織委員会が選考し、インド以外の日本を含めたアジア各国からの受講者の選考は、日本側組織委員会にて行いました。予算の許す限り受け入れることにした結果、アジア各国からの定員15名を大幅に超えて22名が参加し、インド国内からは30名定員のところ69名を受け入れました。
7.講師一覧
"講師一覧"ページ参照
8.セミナー、スクーリング、及び関連行事の日程
 アジア学術セミナーは、セミナーとスクーリング及びポスター発表から構成された。また、レセプション、バンケットなど歓迎行事が行われました。閉会セレモニーではインド民族音楽が演奏され参加者一同インド文化を心底堪能する機会を得ました。その後、ポスター賞授賞式が行われ12名の若手研究者が受賞しました。ポスター賞選考委員会は、組織委員長、副組織委員長、講師3人(米、英、インド)の計5人で構成されました。選考に際し考慮されたのは、研究成果、プレゼンテーション力(説明力)、理解力、ポスターディスプレー、熱意と姿勢の5つです。受講生91名中、日本人7人全員がポスター賞に選考され日本の若手研究者の質の高さを示す結果となりました。
"プログラム(英語)"ページ参照
9.学術的な観点からの成果
 我が国の科学技術基本政策策定の基本方針において、国家戦略としてグリーンイノベーションで環境・エネルギー大国を目指すこと、ライフイノベーションで健康大国を目指すことの二つの2大イノベーションの推進が謳われています。また、それらを支える我が国の基礎体力の抜本的強化として、基礎研究の抜本的強化と科学・技術を担う人財の強化が謳われています。若手人材育成・教育の強化は人類 社会の持続的発展に極めて重要かつ必須となっています。物質の機能の創出をもたらすクラスター、ナノマテリアル、表面の科学は、グリーンイノベーションとライフイノベーションの両方の基盤科学の一つとして、物理学、化学、工学、医学、生命科学、地球環境科学など多様な学問とも関係し、持続的社会の発展に貢献するための重要な最先端研究分野です。また、スクーリング"Synchrotron X-ray Techniques for NanoStructured Materals" により、我が国のみならずインド、中国、台湾、韓国などの放射光施設を使ったクラスター、ナノマテリアル、表面の特性や機能の解析に対して、アジア各国の若手研究者が放射光X線を利用した最先端研究の遂行が可能となります。
 本アジア学術セミナーの成果として、クラスター、ナノマテリアル、表面を扱う異分野間の連携により新たな知の創造と科学的・技術的革新の芽が生まれたと確信します。通常の個々の専門分野の国際会議では接することが出来ない講師や若手研究者が、踏襲的な専門ディシプリンとは異なる切り口を主題とした本セミナーに参加したことで、異分野連携・学際融合による革新的な学術の創成と新領域開拓が実現し、今後益々発展するアジアでの特徴的なプレゼンスを形成するでしょう。本セミナーは次代を担うアジアの若手精鋭を養成することに大きな貢献をしたと自負します。
10.国際交流及び若手研究者養成の観点からの成果
 現在の学術の体系は、教育、研究、学協会組織、科学研究費補助金制度など、全ての面において縦割りであり、細分化されています。
 この中で、次世代を担う若手研究者は、二つの一見矛盾する課題を追求しなければなりません。その一つは、自分が属する特定の研究分野についての知識と経験を十分に蓄積しながら、そこで研究課題に取り組むことです。もう一つは、学術全体を俯瞰し、学術と社会の関係について深い考察ができるような能力を養うことです。
 こうした観点から、深い専門性とともに幅広い見識を持つ次世代の若手研究者の育成を目的として動き出しているのが、ドイツ、オランダ、そしてヨーロッパ連合において実施されている若手アカデミー(Young Academy)のシステムです。それは、若手研究者が自ら俯瞰的視点から学術の社会に対する課題に取り組むことを支援するシステムを準備し、上記の二つの課題に応える能力を育成しようとするものです。また、ヨーロッパには若手研究者の研究活動をエンカレッジするNATO Advanced Institute があり、国際的な活躍をしている研究者と受講生が1週間程度の期間、講演、研究交流をできる場があります。
 分野を問わず、学術における発見と発明、困難な問題の解決のための新しい発想、あるいは、革新的な提案などは、ほとんどの場合、若い頭脳が生み出してきたことは歴史が証明しています。新しい現象に対する好奇心、斬新な考え方を取り入れられる柔軟性、さらに社会変革への純粋な意欲などは、若い世代の特権といってもよいでしょう。こうした人たちが存分に活躍し、未来の新しい学術・社会を創造する人材として育つためには、彼らの意欲を引き出し、自信を与え、かつ世界に貢献する成果を出せる環境を整える必要があります。
 学問の多様性は社会、自然の多様性の反映であり、学問の本質でもある。多様性とは一つ一つの価値を見いだし認めることであり、研究の多様性とともに、研究者の多様性が重要です。物質の機能の創出をもたらすクラスター、ナノマテリアル、表面の最先端研究と放射光利用スクーリングを通して、本アジア学術セミナーがアジアの次代を担う若手研究者に対してこのような場を提供したと考えます。
 従来、欧米諸国との研究交流が研究展開の多くの部分を占めていましたが、本セミナーは、レクチュアやスクーリングだけでなく、参加した若手研究者と講師および若手研究者同士の交流にも多くの時間を取ることができるよう工夫をしたことで、将来のアジア精鋭若手研究者交流ネットワークの構築や最先端研究協力を広げる機会となりました。今回の異分野の優れた若手研究者の交流が、アジア地域が将来、世界の研究をリードするための契機となったものと確信しています。