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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
田中(一) 研究室

自律的に高度なミッションを遂行する飛行ロボットの開発

所属 大学院情報理工学研究科
機械知能システム学専攻
メンバー 田中 一男 教授
所属学会 米電気電子学会(IEEEフェロー)、国際ファジィシステム学会(IFSAフェロー)、計測自動制御学会、日本ロボット学会、日本機械学会、電気学会、日本知能情報ファジィ学会
研究室HP https://sites.google.com/site/tanaka2lab/home
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掲載情報は2017年3月現在

田中 一男 Kazuo TANAKA
キーワード

インテリジェント制御、飛行ロボット、非線形制御

全翼機
全翼機
「飛行ロボット」というと現在はドローンが注目されていますが、ドローンは飛行効率の面で課題があることはあまり知られていません。一方で、全翼機や米軍の「オスプレイ」に代表される垂直離着陸機(VTOL)などの固定翼を持つ飛行ロボットは、飛行効率が高いため航続距離として100キロメートル以上を移動できます。長距離を飛ぶ飛行ロボットには、ほかに柔らかい翼(パラフォイール)を持つパラグライダー型などもあります。操縦が容易なドローンとは異なり、これらの長距離飛行ロボットを人が操らずに完全に自律で動かすには高度な制御と知能が必要です。

AI搭載で長距離飛行実現

田中一男教授は、これら三つの種類の長距離飛行ロボットを賢く飛ばすための研究に取り組んでいます。最新の制御理論を使って、実際に機体を大空へ飛ばすデモンストレーションも行っています。ヘリコプター型やマルチコプター型のドローンの研究は昨今では珍しくありませんが、固定翼機やパラグライダー型の飛行ロボットは制御や運用・管理が難しいことから、大学ではほとんど研究されていません。
機体は、ラジコン模型航空機など市販の無線操縦装置をベースに、中央演算処理装置(CPU)やモーター、バッテリーなどをカスタマイズし、各種センサーを載せて性能を向上させます。さらに、人間で言えば知能にあたる、ミッション遂行のためのアルゴリズムをプログラム化して機体に搭載します。こうして完成した人工知能(AI)飛行ロボットについて、その動作を非線形なモデルで表し、これを基に機体を安定に飛行させるためのコントローラーを設計するのです。翼の揚力や抗力を測定する風洞実験なども行っています。

北海道の大空で飛行実験

パラグライダー型
 

実際に自律的に飛行できるかどうかを確認するため、田中研究室では毎年春と夏に北海道で飛行実験をしています。飛行ロボットを長距離かつ広範囲に飛ばすには国の許可が必要です。研究室のメンバーが国の定める飛行操縦訓練を受け、国土交通省に申請するとようやく実験の許可が下ります。こうした準備の大変さも、大学が簡単に実証研究に乗り出せない要因になっているのでしょう。田中研究室は現在、固定翼機などの飛行ロボットの長距離飛行実験を学術的な観点から行う日本唯一の研究室なのだそうです。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の大樹航空宇宙実験場(北海道大樹町)で実施した2017年夏の実験では、3種類の機体をそれぞれ約20キロメートルにわたって自律的に飛行させることに成功しました。多様なミッションを確実に遂行させるために、一定の高度を保ちながら、決められた速度で安全に飛ばすのです。

VTOL
飛行船略図

目的地の情報収集が自動で可能に

開発した飛行ロボットは風速や風向を推定し、最適な経路を割り出しながら飛行させることができます。また、搭載したカメラで目的地周辺の滑走路やヘリポートマークを自動識別し、その周囲を旋回しながら情報収集したり、滑走路の中央線に沿って自動着陸したりすることもできます。定点をらせん状に旋回しながら下降・上昇するアクロバット飛行なども可能です。
最も制御が難しいVTOLでも、最先端の制御理論を使って自律飛行させることができました。強風など過酷な環境下でも巧みに制御できます。VTOLはほかの二つの機体と違って、ドローンと同様に離着陸に滑走が必要なく、空中浮揚(ホバーリング)が容易という特徴を持つため、今後さまざまな用途への活用が期待できそうです。

学術的な研究を重視

飛行ロボットからの空撮画像

長距離を安全に、完全自律で飛行するロボットが実現すれば、例えば、人間が立ち入ることのできない被災地の状況を空撮したり、センサーで空気中の成分を測定したり、また詳細な地図のない山間部の3次元地形図を作成したりといった応用が考えられるでしょう。今後は、高知能化や飛行の長距離化が課題です。田中教授は「実験結果を公表しつつ、フレームワークを提供するのが大学の役割だ」との認識を持ち、その上で「企業と一緒にやってもよいし、利用してもらってもよい」と考えています。
というのも、田中教授は「飛行ロボットをいかに賢く飛ばすか」という観点において、学術的に質の高い研究に重きを置いているからです。世間が注目するキーワードや成果の出やすいテーマを追いかけるのではなく、時間はかかっても、より本質的で普遍的な知見を得ることを目的にしています。こうしたことに加え、誰もやっていない長距離飛行ロボットという領域で理論から実証まで手がけていることも、高い競争力を維持しているゆえんでしょう。
その証拠の一つに、論文引用数の多さがあります。田中研究室がこれまで発表した論文が国内外で引用された回数は、2017年末時点で合計約2万3000回を超えました。この数字は電気通信大学では堂々の第1位です。
学術論文検索用エンジン「Google Scholar」で見ると、 “研究者の成績表”ともいえる「h指数(h-index)」は51と極めて高く、単に引用数が多いというだけでなく、権威ある論文に数多く引用されていることが分かります。海外の大学と積極的に連携していることも大きな強みです。スマートな制御によって大空を自由に、巧みに飛行する田中研究室のロボットは、世界にインパクトを与え続けているのです。

【取材・文=藤木信穂】

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