2026年4月6日
村松 正和
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
ご家族、ご関係の皆様にも、心よりお祝いを申し上げます。
本日、皆さんを電気通信大学の新しい仲間としてお迎えできることを、教職員一同、大変うれしく思います。
今日この場にいる皆さんは、それぞれに希望や期待を胸に抱いておられることでしょう。
その一方で、新しい環境、新しい学び、新しい人間関係に、少なからぬ不安を感じている方もおられると思います。
けれども、その期待も不安も、どちらも自然なものです。大学への入学とは、完成された人が次の場所へ移ることではありません。これから自分自身を大きく育てていく、その第一歩に立つことだからです。
本学は、無線通信技術者の養成を目的とする無線電信講習所を起源とし、その伝統を受け継ぎながら、現代では情報、電気、通信を核として、情報理工学の幅広い領域にわたる教育と研究を展開しています。
「電気通信大学」という名前から、電気や通信だけを学ぶ大学だと思われることもありますが、実際には、物理、材料、機械、光、ロボット、情報、数理、システム、メディアなど、多様な分野が結びつきながら、新しい知を切り拓いています。伝統を大切にしながら、つねに時代の先を見つめて学びを更新していくこと。そこに本学らしさが一つあります。
そして本学のもう一つの特色は、専門を深く学ぶだけでなく、異なる領域をつなぐ力を重んじていることです。
現代社会の課題は、一つの分野だけで解けるものではありません。AI、ロボティクス、情報通信、医工連携、環境、エネルギー、社会基盤、あるいはゲームの開発―どれをとっても、複数の知識と複数の視点が必要です。本学で皆さんが出会う学びは、単に知識を蓄えるためのものではありません。異なる分野の知を結びつけ、まだ見ぬ課題に向き合い、新しい価値を生み出すための学びです。
さて、今日は皆さんに三つのことをお伝えしたいと思います。
まず一つ目は、しっかり勉強してください、ということです。
大学時代は、自分の能力を大きく伸ばすことのできる時期です。大学で受けた教育や研究は、皆さんが社会にでたとき、そのままの形で役に立つとは限りません。しかしこの時期に勉強し、身につけた力は、これからの皆さんの人生の基礎となり、さまざまな場面で皆さんを支えてくれることでしょう。
特に大学での学びは1年の最初が肝心です。
高校でも塾でも、先生が丁寧に教えてくれていたと思います。何を学ぶかは決まっていて、教える方も教え方が決まっていました。学ぶ内容も学び方も、ある程度あらかじめ整えられていたと言えます。いわば小さな子供のライオンが親から獲物をもらっているようなもので、口を開けて食べれば、すぐに栄養になる。そういうものでした。
でも、ライオンの子供も少し大きくなってきたら、親は子供に狩の仕方を教えます。傷ついた獲物を子供に仕留めさせたりします。自分で狩をして獲物を取れるようにならないと、野生では生きていけないからです。
人生はわからないことだらけです。
大学は、その「わからないことにどう向き合い、どう挑戦するか」を学ぶところです。エサを与えるのではなく、狩の仕方を教えること、これが大学教育の大切な役割です。すぐに答えが得られるとは限らないことに、四苦八苦しながら向き合って考える。その経験が、皆さんの力になります。
このような勉強に対する考え方の違いは、高校までとは大きく異なります。毎年多くの新入生がここで戸惑います。1年の最初が肝心だというのは、まさにこの点です。勉強に対する考え方が変わるのだ、自分は狩の仕方を学ぶのだ、ということを心に刻んで、大学での教育に向き合っていってほしいです。
もしその過程で、やっぱり大学は厳しい、苦しい、やりにくいと感じることがあったなら、そのときは本学の「学生何でも相談室」を頼ってください。ここは本当に何でも相談に乗ってくれる場所で、きっと皆さんに寄り添い、的確な助言をしてくれるはずです。
最初のお話は、大学での勉強、学問としての勉強にしっかり向き合ってほしい、ということでした。
二つ目は、オタクになってください、ということです。本学はしばしば「オタクの大学」と言われています。
私は、それは本学の大切な個性の一つだと思っています。オタクというのは、単に「好き」というだけではなく、自分の関心のあることに深く入り込み、強いこだわりをもって追求していく姿勢のことです。皆さんには、自分の好きなこと、興味のあることをとことん掘り下げてほしいのです。
対象は何でもかまいません。勉学はもちろん、ゲームやアニメもよいですし、サークル活動でもよい。あるいは恋愛でもよいでしょう。何かに本気で熱中し、自分の時間と気持ちを注ぎ込む経験は、皆さんの世界を広げ、人生をより豊かなものにしてくれるはずです。
大学時代はそういう時間を取れることができる時期です。そして、そこに注ぎ込むエネルギーも、驚くほど湧いてくる時期です。どうか皆さんの大学時代が、自分の好きなことを思い切り追いかけ、その中で自分自身を大きく育てる時間になって欲しいと願っています。
三つ目は、そうして自分が夢中になったことを、周囲の人たちに向けて発信してほしい、ということです。
自分の思いや考えを言葉にし、誰かに伝えることは、本当に大切です。私は、本学の学生にはもっとそこに踏み出してほしいと思っています。知識や情熱を自分の中に抱えたままで終わらせず、ぜひ外に向けて表現してほしいのです。
ただし、ここで言う「発信」とは、単にSNSに短い言葉を書き込むことを勧めているのではありません。もちろんそれも一つの方法ではありますが、一番大切にしてほしいのは、対面で、自分の言葉で、相手の顔を見ながら伝えることです。
そして、それは自分が一方的に話すことではありません。相手に伝えるということは、相手の話をきちんと聞くということでもあります。自分の思いを伝え、相手の考えを受け止める。そのやりとりの中で、考えは深まり、言葉は磨かれ、人との関わり方も育っていきます。だからこそ、皆さんには、人と話し、人とぶつかり、人と分かり合おうとする経験をたくさん積んでほしいのです。
もちろん、その過程では失敗もあるでしょう。自分が傷つくこともあるかもしれないし、逆に相手を自分が傷つけることもあるでしょう。しかし、そうした経験を避けていては、本当の意味で人と関わる力は身につきません。失敗し、反省し、もう一度伝えようとする。その繰り返しの中で、人は成長します。会話する力も、相手を思いやる力も、その中で育っていくのだと思います。
社会に出る前の今だからこそ、そうした経験を重ねてください。自分の中にあるものを外に伝えていくこと。そして、人から何かを伝えられた時には、それを温かく受け止め、きちんと応えること。私は、それが皆さんを大きく成長させるはずだと信じています。
どうか本学で、自分を鍛え、好きなことに深く没頭し、そしてそれを人に伝える力を育ててください。
皆さんがこの場所で成長し、それぞれの可能性を大きく広げていくことを心から期待しています。
以上をもって、入学式の告辞といたします。