【報告】量子機械学習による通信故障診断システムの実証実験に成功
2024年09月12日
ポイント
*量子機械学習を用いた通信故障診断
*IBM の量子コンピュータで実証実験に成功
*30量子ビットで故障原因推定性能82%を達成
概要
電気通信大学曽我部東馬教授(i-パワードエネルギー・システム研究センター/基盤理工学専攻)、ソフトバンク株式会社および慶應義塾大学の3者は、127量子ビット(※1)のプロセッサーを搭載したIBM社製の超伝導型ゲート式量子コンピューターと、Q-CTRL(Qコントロール)社のエラー抑制システムを用いて、量子機械学習による通信サービス故障診断システムの実証実験に成功しました。
本研究成果は、2024年9月15日(日)~20日(金)に開催される「IEEE International Conference on Quantum Computing and Engineering(QCE24)」のTechnical session(QML)において論文が採択されており、QCE24にて発表予定です。
成果
本研究では、ソフトバンクの通信故障診断用データセット(図1)を使用し、量子機械学習アルゴリズムの一つである量子カーネル学習(※2)を活用した通信故障診断システムの評価を行いました。実機には、IBM社のゲート式量子コンピューター「IBM Quantum System One」(IBM-Kawasaki 127量子ビット)を使用しました。
図1.通信サービス故障診断用データセット
シミュレーター(※3)と実機(※4)の比較評価結果(図2)によれば、Q-CTRL社のエラー抑制システムの導入により量子ノイズが大幅に低減され、30量子ビット時の故障原因推定性能82%を達成しました。このビット数は、現時点で実機を用いた量子カーネル学習での世界最高記録です。
図2.量子コンピューターを用いた故障原因推定性能
本成果は、量子計算技術の進展およびその社会実装に大きく寄与するものです。今後はさらなる量子アルゴリズムの応用範囲の拡大、量子ハードウェア性能の向上、ネットワークアーキテクチャ間の連携に向けた研究を推進します。これにより、量子コンピューター技術の早期実用化と社会への貢献を目指します。
(論文情報)
題目:Parametrized Energy-Efficient Quantum Kernels for Network Service Fault Diagnosis
著者:Hiroshi Yamauchi, Tomah Sogabe, Rodney Van Meter
プレプリント:(新しいウィンドウが開きます)https://arxiv.org/abs/2405.09724
(用語説明)
- ※1量子ビット:量子コンピューターの情報の基本単位です。0と1の両方の状態を同時に扱えるため、一度に多くの計算を並列的に行うことができます。
- ※2量子カーネル学習:データを高次元空間にマッピングすることができるカーネル関数を使用し、その計算処理を量子コンピューター上で行って特徴を抽出することで、データをより簡単に分類または回帰させることが可能となります。
- ※3シミュレーター:量子コンピューターの動作を古典コンピュータ上で模倣するシステムです。実機を使用せずに、量子アルゴリズムの検証や性能評価が可能です。
- ※4実機:IBM社製ゲート式量子コンピューターなど、実際に動作する量子コンピューターです。実環境でのノイズやエラーの影響を考慮した精密な評価が行えます。
詳細は以下のウェブサイトをご覧ください。
- (新しいウィンドウが開きます)ソフトバンク先端技術研究所 Blogs