【ニュースリリース】全く新しいコンセプトの睡眠ステージ推定のアルゴリズムを構築 ~加速度センサのみで「睡眠リズム」の把握が可能に~
2024年09月26日
電気通信大学の髙玉圭樹名誉教授(現 東京大学情報基盤センター学際情報科学研究部門 教授)と株式会社ブレインスリープ(本社:東京都千代田区、代表取締役:廣田敦、以下「ブレインスリープ」)は昨年度、睡眠計測ツール「ブレインスリープ コイン」の睡眠ステージ推定精度向上を目的に共同研究を行い、「睡眠リズム」の把握が可能な全く新しいコンセプトの睡眠ステージ推定アルゴリズムを新たに構築しました。
背景
睡眠は、健康と幸福に重要な生理現象の1つです。睡眠に対する悩みや熟睡感などは主観による評価に留まることが多く、客観的な睡眠データと乖離していることもあるため、本来であれば主訴と客観的な睡眠データ両面から睡眠の質を把握することが重要となります。
従来の睡眠の質を測定する方法は、専門家が手動で評価するポリソムノグラフィー(PSG)検査と呼ばれる方法でしたが、この方法は多くの電極を頭や顔に装着するため、身体的・精神的に大きな負担がかかります。
最近では、AIやIT技術の進展により、日常生活で負担なく使用できるセンサを用いた睡眠測定方法が注目され、その中でも、加速度計を用いた方法は、特別な環境を必要としないため、多くの研究で使用されています。しかし、加速度計を用いた従来の方法では、睡眠の質を正確に測定する方法は確立されておらず、精度も不明瞭です。特に、加速度計を用いた多くの睡眠ステージ推定アルゴリズムは、心拍データを用いないため、REM睡眠や深い睡眠の判定が困難です。
ブレインスリープは、ブレインスリープ社が自宅で簡易的に睡眠を計測できるツールとして、睡眠計測アプリケーション「ブレインスリープ コイン(アプリ)」および睡眠計測デバイス「ブレインスリープ コイン(デバイス)」を開発・販売しており、このたび、本学と「ブレインスリープ コイン」の睡眠ステージ推定の更なる精度向上を目的に共同研究を行いました。この中で腰に装着した加速度センサを使い、身体の動きと人の睡眠中の生体リズムに基づいて睡眠の質を測定する新しい方法を確立しました。これは、従来の睡眠ステージ推定の方法とは一線を画す、全く異なる新しいコンセプトに基づく方法です。
研究概要と成果
- ・加速度センサで取得される身体の動き(体動)パターンと睡眠段階(覚醒、REM睡眠、Non-REM睡眠ステージ1-2、(以下「NREM12」)Non-REM睡眠ステージ3(以下「NREM3」))との関連性の発見とそれに基づく睡眠ステージ推定アルゴリズムを構築し、その有効性を検証しました。
- ・具体的には、20〜50代の35名の被験者に対して、ブレインスリープコイン(デバイス)を装着した状態でPSG検査を実施しデータを収集して分析をしました。腰に装着したブレインスリープ コイン(デバイス)から取得できる「体動の発生頻度」と「人の睡眠中の生体リズムの1つであるウルトラディアンリズム」に相関があることに着目し、身体の動きからウルトラディアンリズムを推定することに成功しました。そして、推定したリズムに基づいて、体動だけでは推定が難しい、REM睡眠やNREM3も推定可能なアルゴリズムを開発しました。
- ・NREM3の推定精度に着目すると、従来の機械学習モデルよりも高い精度で推定できることが実験で確認されました。具体的には、適合率(NREM3と推定した箇所が正しい割合)が27%改善し、再現率(NREM3である箇所を推定できた割合)が24%改善しました。これにより、従来のブレインスリープコインの睡眠ステージ判定アルゴリズムと比較して、全体の一致率が26%改善しました。
- ・図はPSG検査による睡眠ステージと新アルゴリズムによる睡眠ステージ推定結果の比較図となります。縦軸は睡眠ステージを表し、横軸は時間を表します。また、青色の線はPSG検査より得られた正解の睡眠ステージ、橙色の線はアルゴリズムが推定した睡眠ステージを表します。丸印はNREM3の箇所を正しく推定できている箇所を表し、バツ印は誤推定した箇所を表すものです。新アルゴリズムでは誤推定が大幅に軽減し、かつ睡眠リズムを捉えることに成功しています。
- ・本共同研究により、より簡便で正確な睡眠モニタリングが可能になりました。これにより、多くの人が自分の睡眠状態を把握し、より良い睡眠を得るための一助となることが期待されます。なお、本研究内容については以下の通り発表しています。
(論文情報)
論文雑誌名:AAAI Spring Symposium Series(SSS-24)
タイトル:NREM3 Sleep Stage Estimation Based on Accelerometer by Body Movement Count and Biological Rhythms
著者:Daiki Shintani, Iko Nakari, Satomi Washizaki, Keiki Takadama
DOI:(新しいウィンドウが開きます)https://doi.org/10.1609/aaaiss.v3i1.31246
(論文情報)
論文雑誌名:The Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society (EMBC) 2024
タイトル:REM Estimation Based on Accelerometer by Excluding Other Stages and Two-Scale Smoothing
著者:Daiki Shintani, Iko Nakari, Satomi Washizaki, Keiki Takadama
詳細はPDFでご確認ください。