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【ニュースリリース】認知症スティグマを感じさせない認知機能検査を開発― 質感認知のオノマトペ表現による早期認知症診断ツール ―

2024.12.05

概要

坂本真樹教授(情報学専攻)と順天堂大学大学院医学研究科脳神経外科学の中島円准教授らの共同研究グループは、オノマトペを用いた質感認知検査(Sound Symbolic Words Texture Recognition、SSWTR)によって、患者さんに心理的な負担をかけることなく、早期に認知機能の低下を発見できるスクリーニングツールを開発しました。
本成果は、従来時間と手間がかかっていた心理検査の時間を短縮し、認知症と診断されることへのスティグマを軽減すると期待されます。
本論文はFrontiers in Aging Neuroscience 誌のオンライン版に2024年9月17日(火)に公開されました。

本研究成果のポイント
  • 質感の認知をオノマトペ表現で選択する新しい認知機能検査を考案
  • 被験者が認知機能低下と判断されるストレスを軽減
背景

認知症の治療介入には早期診断の重要であることが知られていますが、一般の認知症の検査には医師や神経心理士が時間を要し、また被験者も認知症と診断される社会的スティグマは、過度な恐れを生み出し、医療機関の受診や支援につながることを遅れさせることがあります。当研究グループは、質感のオノマトペ表現(擬音語・擬態語の総称、Sound Symbolic Words Texture Recognition、SSWTR)に着目し、患者さんに心理的な負担をかけることのない早期認知症診断ツールを開発しました。

内容

本研究では、成人慢性水頭症である特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus、iNPH)と診断された102名に対し、質感オノマトペ(SSWTR)検査と一般的な神経心理検査を実施し、軽度認知機能障害を評価しました。SSWTR 検査では、世代の異なる健常者に予備実験を行い、1000枚の素材の異なる物体の接写より12枚の抽出し、質感を示す8つのオノマトペの選択肢から、その触感を最も反映した回答を見出し、0から1点の計12 点でスコア化しました。患者さんにはこの新しい検査のほか、同時にミニメンタルスケール(MMSE)、前頭葉機能検査(FAB)、欧州iNPH 認知機能重症度スケール(レイ15 語聴覚性言語学習検査 [RAVLT] 、ペグボードテスト、ストループ検査)を実施していただき、MMSE28点以上の認知機能正常群(n=39)と22から27点の軽度認知症群(n=51)を比較しました。結果、SSWTR のアンケートは10分以内に実施可能で、他の神経心理検査と中程度の相関が認められました。SSWTR は、認知機能正常群と軽度認知障害群を、ROC 解析でAUC=0.70、cut-off=7.34( p=0.001)、感度62%、特異度74%で鑑別しました。オノマトペを推察する質感認知検査―SSWTR は、短時間で実施でき、被験者が認知症スティグマを感じることなく、軽度認知機能障害をスクリーニングできるツールであることが示されました。(図1)

図1:提案手法と比較した神経心理検査(左)、提案手法の感度と特異度(右)
今後の展開

研究グループは軽度の認知機能低下をスクリーニングできる新しいツールの開発を行いました。検査時間を短縮し、認知症と判断されることへのスティグマを生じさせない検査は、被験者の負担を減らし、汎用性の高いこのツールは、一般の方にゲーム感覚で広く使用していただくことで、認知症早期の発見を促すことが予想されます。すでにウェブ上で回答できるツールとして実装しているため、どこでも広く本検査を実施していただくことが可能です(図2は回答画面の一部)。なお、本技術は「質感表現評価装置、質感表現評価方法、質感表現評価プログラムおよび質感表現回答シート、特許第6979213(出願人:電気通信大学、出願日:2016年10月21日、登録日2021年11月17日)」を活用したものです。

図2:オノマトペ質感認知検査のウェブ回答ツール画面例

(論文情報)
タイトル:A new test for evaluation of marginal cognitive function deficits in idiopathic normal pressure hydrocephalus through expressing texture recognition by sound symbolic words
タイトル(日本語訳):質感認知のオノマトペ表現による認知機能評価の正常圧水頭症患者に対する検証
著者:蒲原千尋1) 2)、中島円2)、野崎裕二3)、家田大希3)、川村海渡2)4)、堀越恒2)
宮原怜2)、秋葉ちひろ2)、荻野郁子 2)、Kostadin L Karagiozov2)、宮嶋雅一5)、 近藤聡英2)、坂本真樹3)
著者所属1)順天堂大学老人性疾患病態・治療研究センター、2)順天堂大学医学部脳神経外科学講座、3)電気通信大学大学院 情報理工学研究科 情報学専攻、4)埼玉県済生会川口総合病院 脳神経外科、5)順天堂大学医学部附属東京江東高齢者医療センター 脳神経外科
URLhttps://www.frontiersin.org/journals/aging-neuroscience/articles/10.3389/fnagi.2024.1456242/full
DOI:10.3389/fnagi.2024.1456242

詳細は以下のPDFにてご確認ください。

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