2025.01.14
牧野哲直日本学術振興会特別研究員(基盤理工学専攻)と田仲真紀子准教授(基盤理工学専攻)、東京科学大学リサーチインフラ・マネジメント機構の梶谷孝上席技術専門員は、鎖長の異なる2種類の二本鎖DNAが階層的に自己集合することで得られる液晶集合体が、六方柱状構造を形成することを世界で初めて発見しました。さらにDNA鎖の末端配列の親和性を調節することにより、マイクロメートルスケールでDNA集合体の成長方向を制御することにも成功しました。
この知見は、DNAをビルディングブロックとした生体材料の開発だけでなく、新たな機能性材料の創製や、ナノテクノロジー分野への応用が期待されます。研究成果は2024年12月23日にドイツの国際学術雑誌「Small」のオンライン速報版で掲載されました。
ビルディングブロックとなる2種類の二本鎖DNAには、化学合成した25塩基および18塩基が連結したオリゴヌクレオチドを用いました。それぞれ23塩基、16塩基の相補部分をもち、両側に2塩基が突出した末端を有しています。塩と高濃度のポリエチレングリコールを含む水溶液にDNAを加え、80℃まで加熱した後にゆっくり冷却することで、DNA液晶が形成されます。形状観察の際には、塩基対間に入り込むことで蛍光を発する染色試薬SYBR Green Iや、DNAに化学修飾できる蛍光分子Cy5を用いて、共焦点蛍光顕微鏡により画像を取得しました。また、偏光顕微鏡観察により複屈折を調べ、内部構造を小角X線散乱測定により検討しました。
研究グループは以前に、1種類の二本鎖DNAが高濃度のポリエチレングリコール存在下で自己集合することで、六角形プレート型液晶を形成することを報告しました。今回の研究で、25塩基および18塩基の2種類の二本鎖DNAを混合することで、形成する液晶集合体の形状にどのような影響が生じるのかを調査しました。その結果、長さの異なる2種類の二本鎖DNA同士の末端がワトソン・クリック型の相補塩基対である場合には、中央部分が詰まったチューブ状の集合体が、また末端同士が非相補塩基対である場合には、六角形フレーム状の集合体が形成されるなど、突出末端のわずかな配列の違いによって、集合体の形状に顕著な違いが現れました。そこで蛍光色素Cy5を修飾したDNAを混合して調べたところ、どちらの集合体も18塩基のより短い二本鎖DNAが六角形プレートの外枠部分に主に分布していることがわかりました。
さらに、偏光顕微鏡観察と小角X線散乱測定を行ったところ、1種類の2本鎖DNAのみからなる六角形プレート型液晶集合体と同様に、今回新たに観測された集合体はどちらも、二本鎖DNAが隣り合って並んだ六方柱状液晶であることがわかりました。得られたチューブ状集合体と六角形フレーム状集合体のベースとなる構造は共通しています。1種類目のDNAが自己集合した六角形プレートが集合体の核となり、冷却に伴い2種類目のDNAがプレート外枠に加わります。その過程において、垂直方向の成長が優位に起こったものがチューブ状構造を形成し、一方で水平方向の成長が優位に起こったものが六角形フレーム状となったことが考えられます(図2)。
末端配列の違いにより、形状の異なる集合体が形成された理由について、研究グループは以下のように予想しています。高濃度のポリエチレングリコールが含まれる水溶液中の二本鎖DNA間には、枯渇力とよばれる引力が働くことが考えられます。二本鎖DNAが隣り合って整列すると、DNAのまわりのポリエチレングリコールが入り込めない空間(排除体積)が減少することにより、ポリエチレングリコールの並進エントロピーが増大します。その結果、DNAは自発的に集合することになります(図3)。DNA水溶液を加熱し、ゆっくりと冷却することではじめは一本鎖にほどけていたDNAが、しだいに二本鎖を形成します。比較的柔軟な構造をとる一本鎖DNAとは異なり、二本鎖DNAは図3の模式図のように剛直な棒状分子としてみなすことができます。2種類のDNAは長短の違いにより、一本鎖から二本鎖構造になる温度が異なります。25塩基のDNAは18塩基のDNAよりも先に二本鎖を形成するため、それらが自己集合して核となる六角形プレートを形成します。溶液中にはまだ25塩基のDNAも残っていますが、さらなる冷却により18塩基のDNAも二本鎖となって、枯渇力により核の周囲に集合することになります。このとき、2種類目のDNAの突出末端が、核を形成する25塩基のDNAの末端と相補となる場合は、二本鎖間の親和性の高さのため、長さの異なるDNA同士が混ざり合って積層することになり、垂直方向の高さが不揃いになります。そこで溶液中に残るDNAは二本鎖になると、排除体積を減らすために高さの不揃いのある集合体の端にあたる部分につぎつぎと加わることになり、垂直方向への伸長が促進されたと考えられます。それに対して、18塩基のDNAが核となるDNAと非相補の突出末端を持つ場合は、長さの異なるDNA間の親和性が低くなります。そのため25塩基のDNAによる核が十分に成長した後に、18塩基のDNAは六角形プレート型の核の周囲に集合することとなります。六角形プレートの外側のフレームとなる18塩基のDNAの積層は高さが揃うため、チューブ型のような垂直方向への顕著な成長は抑制されたと考えることができます。
本研究は、鎖長の異なる2種類のDNAが段階的に自己集合することで、階層構造を有する液晶集合体を形成すること、さらにDNA鎖の末端配列のデザインにより、液晶集合体の形状を細長いチューブ状や、平らなフレーム状に制御できることを示しました。
共存分子が高濃度で存在する条件下で、わずか4つの核酸塩基ATGCのみから構成されるDNAがスタッキング相互作用・水素結合に加え、枯渇力により集合して階層的に集合体を形成することは、次世代の超分子ポリマーを開発する上で有益な知見となり得る可能性があります。また化学合成可能なDNAをビルディングブロックとした階層構造をもつ集合体は、今後さらなる自在な構造制御や機能の付与も可能であり、生体分子からなる新たな機能性ソフトマテリアルの創製や、ナノテクノロジーへの応用が期待されます。
本研究成果は日本学術振興会 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)「分子サイバネティクス」公募研究(課題番号:23H04409)、基盤研究C(課題番号:21K05108)、特別研究員奨励費(課題番号:24KJ1129)、日本科学協会 笹川科学研究助成、国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(課題番号:JPMJCR23L2)の助成を受けて行われました。
詳細はPDFでご確認ください。