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【ニュースリリース】グラフニューラルネットワークを活用した磁気結合回路の新たな解析手法の開発 〜アナログ/デジタル回路設計の効率化に期待〜

2025.02.03

ポイント
  • 磁気回路のグラフ表現:モータや変圧器を回路で表現する際に用いられる磁気結合回路を、等価的な電気回路として表す新しい手法を開発した。この手法により、磁気結合回路をグラフネットワークとして表現することが可能となり、グラフネットワークを入力とするグラフニューラルネットワーク(GNN)が活用できるようになった。
  • GNNの新たな応用:GNNの適用により、回路の寿命予測や、回路定数や製造プロセスの最適化、設計仕様に基づく回路の自動設計など、キルヒホッフの法則では予測困難だった回路の特徴抽出や自動最適化が、過去の設計データに基づいて可能になった。
  • 高い特徴量抽出精度:電源回路やフィルタ回路などに分類可能な磁気結合を含む回路データセットをGNNのグラフ分類で分類したところ、推論精度が従来より向上した。GNNは回路の特徴を抽出しやすく、提案手法を用いることで更なる精度向上が期待できる。
概要

庄野逸教授(情報学専攻)と三菱電機株式会社は、共同研究により、回路部品を点、配線を辺とするグラフネットワークにおいて、配線を持たない磁気回路をグラフネットワーク化する際に磁気結合成分を失う課題を解決するため、磁気回路を等価な電気回路に変換する方法を確立しました。
磁気回路を含む3,308個の回路を提案手法でグラフネットワークデータに変換し、GNNの学習に使用しないテスト用データで推論したところ、推論精度が平均98.78%となることを確認しました。

背景

回路設計は、多くの構成要素や配線間の相互作用が関与する複雑な作業です。従来、この設計プロセスでは、試作やシミュレーションを繰り返すことで設計精度を向上させるのが一般的でした。こうした問題を解決するため、回路をグラフネットワークに変換し、得られたグラフネットワークを機械学習の一種であるグラフニューラルネットワーク(GNN)を用いて処理する「Circuit2graph」を開発してきました(図1)。しかし、物理的な配線を伴わない「磁気結合」を含む回路では情報の欠損が発生するため、GNNで磁気結合を含む回路の特徴量を抽出しにくい課題がありました。

図1. 磁気結合を含む回路のグラフネットワークへの変換の概要

手法

本研究では、磁気結合を持つ回路の情報を損なうことなくグラフネットワークに変換するために、単相および三相磁気回路に対する「等価回路」を提案しました(図2)。
この等価回路は、磁気結合が持つ情報を損失させることなく回路部品と配線に置き換えるため、回路情報を失うことなく回路からグラフネットワークへの変換を可能にします。さらに、情報の劣化がないことから、GNNで最適化したグラフネットワークを磁気結合回路に戻すことも可能です。ただし、GNNはキルヒホッフの電流保存則を考慮できないため、等価回路を適用するだけでは回路情報を失ってしまう問題がありましたが、等価回路を対称構造にすることでこの課題を解決しました。そして、回路をグラフネットワークに変換する際に情報劣化が少ないほどGNNで特徴量が得やすく、特徴量から算出される推論精度が向上しやすいという仮定に基づき、GNNの一手法であるグラフ分類を用いて、等価回路の有無に対する推論精度を評価することで、その有効性を検証しました。

図2. 単相磁気回路と三相磁気回路の対称構造を持つ等価回路

成果

提案手法により、回路の分類精度を97.49%から98.78%へ向上させることに成功しました。この結果は、磁気結合の情報がグラフネットワークとして適切に保持されていることを示しています。また、非対称な等価回路では推論精度が96.71%に低下することから、対称な等価回路を適用することの重要性も確認されました。
さらに、本研究はアナログ/デジタル回路とニューラルネットワークの融合に関する先駆的な研究である立場から、今後、産学官で期待される具体的な活用例となることを示しています。

今後の期待

本研究の成果は、電気自動車やエアコン、冷蔵庫、発電所などを支えるモータ、スマートフォンなどの充電器や発電所を支える変圧器、ワイヤレス電力伝送など、磁気結合を含む複雑な回路設計の自動化や設計効率化に新たな可能性をもたらします。この手法を用いることで、従来は経験則や膨大な実測やシミュレーションに頼らざるを得なかった部分が数理モデルで代替され、設計者の負担が軽減されることが期待されます。
また、電力電子分野におけるさらなる応用の可能性や、GNNを活用した新しい設計手法の開発も視野に入っています。今後、より多様な回路構造や実際のデバイスデータへの応用が進めば、回路設計の精度や効率が飛躍的に向上することでしょう。

(論文情報)
著者名:Yusuke Yamakaji, Hayaru Shouno, Kunihiko Fukushima
論文名:Equivalent Circuit for Single/Three Phase Magnetic Coupling With Graph Neural Networks
ジャーナル名:IEEE Transactions on Power Electronics (オープンアクセス)
ソースコードhttps://github.com/y-yamakaji/Circuit2Graph
DOI10.1109/TPEL.2024.3485021
公表日:2024年10月23日

(外部資金情報)
三菱電機株式会社

詳細はPDFでご確認ください。


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