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【ニュースリリース】稲妻の衝突が作り出す放射線バースト ― 金沢での多波長観測で発生メカニズムに迫る ―

2025.05.22

研究成果のポイント

  • 世界的に珍しい冬の雷が多発する金沢市で、放射線・電波・可視光による雷放電の集中観測を実施
  • 雷雲から下降する稲妻と地上から上昇する稲妻が衝突する際の強い電場によって、「地球ガンマ線フラッシュ」と呼ばれる放射線バーストが発生することを解明
  • 発生源を特定したことで、雷が「加速器」となって放射線を作り出すメカニズムの解明に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の和田有希講師、近畿大学理工学部の森本健志教授、岐阜大学工学部のウ・ティン准教授、菊池博史准教授(電気通信大学宇宙・電磁環境研究センター)らの研究グループは、石川県金沢市で冬に発生する雷の放射線・電波・可視光を用いた多波長観測を実施し、雷雲から下降する稲妻と地上から上昇する稲妻が衝突する際に「地球ガンマ線フラッシュ」と呼ばれる雷放電と同期した放射線バーストが発生することを世界で初めて明らかにしました。

図1:金沢市のテレビジョン送信所から上昇する放射線バーストを発生させた雷放電

近年の研究により、雷放電や雷雲から放射線が発せられていることが明らかになっています。地球ガンマ線フラッシュは、雷放電に同期して数十マイクロ秒という極めて短時間の放射線を発生させる現象です。雷放電が「加速器」となって、大気中の電子を光速近くまで加速させることで発生すると考えられていますが、雷放電のどのようなプロセスが放射線を発生させるかといったメカニズムはこれまで解明されていません。
研究グループは、冬季に金沢市の金沢観音堂テレビジョン送信所への落雷が多発することに着目し、最新の機器を集めた集中観測を実施したところ、2023年1月30日 10時13分29秒(日本時間)に地球ガンマ線フラッシュの検出に成功しました。放射線・電波・可視光による観測によって、雷雲から地上に向けて下降する放電路と、送信所の鉄塔から雷雲に向かって上昇する放電路を検出し、それらが衝突して落雷に至る直前に、地球ガンマ線フラッシュが発生していることを突き止めました。これにより雷放電がどのようにして放射線を発生させるか、その詳しいメカニズムの解明が期待されます。
本研究成果は、米国科学振興協会が出版するオープンアクセス誌「Science Advances」に、5月22日(木)午前3時(日本時間)に掲載されました。
本研究成果について、5月21日(水)14時から大阪大学中之島センターおよびオンラインにて記者発表を行いました。

研究の内容

研究グループは、石川県金沢市観音堂町に位置する金沢観音堂テレビジョン送信所に着目しました。テレビジョン送信所は2本の鉄塔から構成され、2022年12月から2023年3月にかけて10例以上の雷放電を確認しています。そこでテレビジョン送信所を中心とした放射線センサー・電波アンテナ・可視光カメラを組み合わせた観測ネットワークを構築し、多波長での集中観測を実施しました。放射線センサーは地球ガンマ線フラッシュを、電波アンテナは雷雲中を進展する放電路を、可視光カメラはテレビジョン送信所への落雷を監視します。

図2:地球ガンマ線フラッシュの発生メカニズムを示す模式図

2023年1月30日 10時13分29秒(日本時間)に、この観測ネットワークによって、テレビジョン送信所への落雷と地球ガンマ線フラッシュを検出しました。2023年1月30日は日本海上で低気圧が発達するなど雷が発生しやすい気象状況となっており、石川県内には雷注意報が発令されていました。電波アンテナでは、高度2.5km付近で負極性の放電路(負極性リーダー)が始まり、高度0.9km付近まで下降して落雷に至ったことを確認しました。一方で可視光カメラでは、金沢観音堂テレビジョン送信所の石川テレビ放送本社送信所より雷雲に向かって上昇する正極性の放電路(正極性リーダー / 図1)を確認しました。つまり、地上と雷雲の両方から放電路が進展し、高度0.9km付近で衝突し、落雷に至ったと考えられます。このとき地球ガンマ線フラッシュは落雷に至る直前、わずか30マイクロ秒(10万分の3秒)前に検出されたことから、地球ガンマ線フラッシュは2本のリーダーが接近して衝突する直前に、リーダーの間に集中した強い電場によって発生したことを解明しました(図2)。
なお地球ガンマ線フラッシュによって地上にもたらされる放射線量は、最大で胸部X線検査1回分程度と推定されており、人体への影響はないと考えられます。

本研究成果の意義と今後の展望

本研究成果によって、世界で初めて、落雷に至る直前の下降・上昇する2本のリーダーの間という局所的な領域で地球ガンマ線フラッシュが発生していることを明らかにしました。大気は無数の原子で満たされており、その中で電子が光速近くまで加速されるのは一般的に困難です。本研究によって地球ガンマ線フラッシュの発生源が特定されたことにより、どのように電子が加速され地球ガンマ線フラッシュに至るかというメカニズムの解明が期待されます。
正極性リーダーは電波を出しにくいという特徴があり、電波での検出は困難です。一方で雲の中を進展する負極性リーダーは可視光カメラでは捉えられないため、電波で観測する必要があります。本研究は冬季に雷が頻発する金沢市のテレビジョン送信所を狙い、複数の波長・手法を組み合わせた多波長観測を行うことで、初めて成し遂げられた成果です。今後さらに観測ネットワークの拡充を予定しており、どれくらいの割合の雷放電が地球ガンマ線フラッシュを出しているのか、リーダーの衝突以外でも地球ガンマ線フラッシュが発生するのか、といったことが明らかになると期待されます。
冬季雷では夏季と比べて、エネルギーが数十倍から数百倍も大きい落雷が発生することがあり、送電設備などの損傷につながることがあります。このようなエネルギーの大きい落雷は送電鉄塔から上昇するリーダーによって引き起こされるという報告があり、今回の事例と共通しています。今後の観測によって、エネルギーの大きい落雷と地球ガンマ線フラッシュとの関係性も明らかになることが期待されます。

詳細はPDFでご確認ください。

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