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【ニュースリリース】電波の異常伝播の原因となるスポラディックE(Es)層の詳細構造を明らかに
超稠密GNSS観測によりEs層の生成から消滅までをこれまでの2倍の解像度で明らかに

2025.11.14

概要

細川敬祐教授(情報・ネットワーク工学専攻)と海上・港湾・航空技術研究所電子航法研究所からなる研究グループは、全球衛星航法システム(GNSS)受信機の超稠密ネットワークデータを用い、2024年5月17日に日本上空高度100km付近に発生したスポラディックE(Es)層の詳細構造とその生成から消滅に至る過程をこれまでの2倍の解像度で明らかにし、これまではっきりと捉えることができなかったEs層の複雑な構造を明らかにしました。
今回の観測は、Es層の生成から消滅までの一連の過程を詳細かつ連続的に捉えた初めての例です。今回の観測結果はEs層発生に関わる高度100km付近の風系、下層大気と超高層大気の結合過程を明らかにする研究の一端となるとともに、電波の長距離異常伝播を引き起こすなど電波利用の障害となるEs層の発生予測に必要な数値モデルの改良につながる新たな知見をもたらすものです。

背景

スポラディックE(Es)層は、高度100km付近の電離圏に発生する非常に電子密度の高い層で、突発的(Sporadic)に現れることからスポラディックE層と呼ばれています。Es層は、通常は電離圏で反射されないVHF帯の電波も反射し、通常は届かない遠方まで電波を伝播させ、時に電波干渉の原因となることが知られています(図1)。そのため、Es層の発生予測は社会的な課題として長年研究の対象となってきています。また、Es層は下層大気から伝わる大気波動の影響を受けることが知られており、地球大気の上下結合を理解する一端としても研究が行われてきています。Es層を観測する方法は、さまざまにありますが、面的・連続的に観測する方法は限られています。近年ではGPSに代表される全球衛星航法システム(GNSS)受信機ネットワーク観測、Es層による航空無線や船舶位置通報の電波の異常伝播観測からEs層の面的な分布が観測できるようになってきました。しかし、これまでの観測では空間的な解像度は十分ではなく、Es層がどのように現れ、移動し、そして消えていくのかはよくわかっていませんでした。Es層の数値シミュレーション研究も目覚ましい発展を遂げていますが、まだ現実を再現するには至っていません。

図1.Es層と電波の長距離異常伝播
図2.2024年5月17日13時(日本時間)頃に東北地方上空で観測されたEs層

今回の成果

本研究では、国土地理院が運用するGEONETネットワークの約1300点のデータに加え、ソフトバンクが全国に展開する3300点以上のGNSS独自基準点観測網のデータを用い、GNSS電波の電離圏による伝播遅延の揺らぎ(Rate-of-TEC Index: ROTI)をマッピングすることにより、Es層の空間構造を既存のGNSSネットワーク観測での2倍の解像度で可視化することに成功しました(図2)。これにより、Es層の、渦を巻いたり波紋状の構造を表したりといった複雑な構造がはっきりと捉えられるようになりました。また、今回発見したEs層は、関東北部で発生して東北地方を北上し、北海道上空で消滅していました。これはEs層の発生から消滅までの一連の過程が切れ目なく観測された初めての例です。これは、Es層発生に関わる高度100km付近の風系、下層大気と超高層大気の結合過程を明らかにする研究の一端となるだけでなく、電波の長距離異常伝播を引き起こすなど電波利用の障害となるEs層の発生予測に必要な数値モデルの改良につながる新たな知見をもたらすものです。

今後の展望

本研究の最終的な目標は、Es層の発生から消滅を予測し、電波伝播環境予報を実現することです。そのために、さらに観測データを収集するとともに、Es層の数値シミュレーションの専門家とも協力してEs層の発生予測モデルの改良に取り組んでいく予定です。
なお、本研究結果の詳細については、2025年11月27日(木)に神戸大学で行われる「地球電磁気・地球惑星圏学会 2025年秋季年会」で発表される予定です。

使用データについて

本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」の枠組みを通じて、ソフトバンク株式会社およびALES株式会社より提供を受けたものを使用しました。
本研究で使用したGEONET(GNSS Earth Observation NETwork)データは、国土地理院により収集され公開されているものを使用しました。

詳細はPDFでご確認ください。

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