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【ニュースリリース】重度の身体的逆境を越えて 次世代カメラの解像度測定と精密アライメントに革新をもたらす新技術

2026.04.30

この度、西一樹准教授(情報・ネットワーク工学専攻)はカメラ性能を評価する新たな技術として、古典光学における伝統的学術誌に2つの論文を発表しました。解像度すなわちボケの度合いを高精度に測るという点で両者は密接な関係があります。これらの革新的技術がどのようにして誕生したかについてのエピソードもあわせて紹介します。

1.ノイズと歪みに打ち勝つ次世代の解像度測定技術(論文情報〔1〕)

ポイント

  • 悪条件下での高精度測定:ノイズや画像の歪みが大きい環境でも、レンズやセンサの性能を正しく評価可能。
  • 限界を超えた解像性能の評価:センサの物理的な限界(ナイキスト周波数)を超える高い周波数領域の測定を実現。
  • 効率的な計算アルゴリズムの確立:独自の「傾斜正弦波チャート」と「非線形最小二乗法」を組み合わせ、最適な解像度指標を算出。

概要

カメラの解像度(どこまで細かい模様が見えるかの尺度)を評価する手法として、国際標準である「傾斜エッジ法」が広く用いられていますが、この手法はノイズの影響を受けやすく、また計算に広い画像領域を必要とするため、レンズの幾何学的な歪みに対して課題がありました。西准教授らの研究チームは、この課題を解決するため斜めに傾けたストライプチャート(正弦波パターン)を撮影し、非線形最小二乗法(NLSE)を適用して画像解析を行う新たな手法を開発しました。この手法の最大の利点は、歪みの影響を無視できるほど小さな画像領域であっても、ノイズに埋もれることなく高精度な空間周波数応答の測定が可能な点です。シミュレーションと実機実験の結果、この手法の推定誤差は理論的な限界値である「Cramer-Raoの下界」に迫るほどの極めて高い精度であることが実証されています。

成果

シミュレーションおよび実際のカメラを用いた実験により、提案手法は従来の「傾斜エッジ法」と比較して、特にノイズが多い状況下で極めて高い安定性を示すことが証明されました。また、センサの読み取り限界(ナイキスト周波数)を超えるような非常に細かい模様に対しても、折り返しノイズの影響を排除して正確なMTFを算出することに成功しました。これにより、画像全体の歪みを考慮しつつ、局所的な解像性能を正確にマッピングすることが可能となりました。

今後の期待

この技術は、高い信頼性が求められる「次世代の目」の評価に大きく貢献すると期待されます。

具体的な活用シーン
  • 自動運転車、運転手支援システム
    :雨や夜間など、ノイズが発生しやすい環境でも歩行者や障害物を確実に見分けるためのカメラ性能評価。
  • 医療診断
    :内視鏡やX線撮影において、極めて小さな病変を捉えるためのレンズ・センサの品質管理。
  • 宇宙・航空
    :厳しい環境下で撮影される衛星写真の解像力補正。
  • スマートフォンの進化
    :小型化により歪みが生じやすいレンズユニットの、製造現場での精密な検査。

図1:論文〔1〕の概要

(論文情報〔1〕)

タイトル:Sinewave-based measurement of the modulation transfer function for noisy and distorted images
著者:Kazuki Nishi, Miu Fujita, Koichi Toda
掲載誌:Journal of the Optical Society of America A, vol.42, no.6, pp.795-807 (2025.6)
DOI10.1364/josaa.553863

(外部資金情報)

日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(C)「モバイル端末・車載・監視用カメラのためのイメージセンサ傾き測定法の開発」(21K11933) 日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(C)「カメラ撮影における微細振動計測と画像の高精細化に向けた振動抑制法の開発」(24K14990)

2.3次元シャインプルーフの原理と全面合焦アライメント技術(論文情報〔2〕))

ポイント

  • 3次元シャインプルーフ原理の確立:従来、1方向の傾きにしか対応できなかった光学原理を、あらゆる方向の傾きに対応可能な3次元へと拡張。
  • 調整効率の劇的な向上:平面的な全探索(2次元的な探し方)が必要だったピント合わせを、縦と横の独立した探索(1次元×2回)へと簡略化することに成功。
  • 実用性の実証:市販のカメラを用いた実験により、新理論の正しさと、高速かつ高精度なピント調整が可能であることを証明。

概要

高精細化が進むスマートフォンのカメラなどでは、製造時にレンズとイメージセンサがわずかに傾いて取り付けられることで生じる「ピントの偏り(部分的なボケ)」が大きな問題となっていました。被写体・レンズ・センサ面が傾いていてもピントが合う幾何学的な法則として「シャインプルーフの原理」が知られていますが、古典的なこの原理は1方向(単一軸)の傾きにしか対応していませんでした。小林和行氏(情報・ネットワーク工学専攻博士後期3年(研究当時))、市川桃香氏(情報・ネットワーク工学専攻博士前期2年(研究当時))、西准教授の研究チームは、このシャインプルーフの原理を3次元空間(2軸の傾き)へと拡張する理論を構築しました。これにより、画像全面でピントを合わせるためには、2軸の自由度(縦・横)をそれぞれ独立してピント合わせ(1次元探索)すればよいことが明らかになりました。従来は2軸の傾きを網羅的に探索する必要(n2回の測定)がありましたが、独立した1次元探索の組み合わせ(2n回の測定)に落とし込めるため、測定の複雑さを大幅に削減し、撮影画像のみから部品間の歪みを高感度かつ効率的に検出できるようになりました。また、画像の位相情報も併せて活用することで実験装置のキャリブレーション不要な測定系が構築できる見通しも得られていて(論文情報〔3〕)、解像度測定技術(論文情報〔1〕)との融合によって検出精度の飛躍的な向上が見込めます。

成果

研究チームは、市販のカメラとテストチャートを用いた実験を行い、提案した理論が現実のシステムで正しく機能することを証明しました。例えば、従来の手法では、ピントが合うポイントを探すために100回の測定が必要でしたが、本手法ではたった20回の測定で済むことが分かり、計算コストと調整時間を劇的に削減できることを示しました。これにより、スマホ用カメラレンズの組み立てや、産業用ロボットの視覚システムの高精度化が期待できます。

今後の期待

この技術は、工場の自動検査ラインにおける精密部品の検品や、自動運転車の「目」となるセンサの精度向上に大きく貢献することが期待されます。具体的には、「高速走行する車から斜めの路面標識を瞬時に判別するシステム」や、「眼科での角膜や水晶体の精密な3次元スキャン」、「ドローンによる複雑な地形の測量」といったシーンでの活用が見込まれます。あらゆる角度からボケのない鮮明な画像を得られるこの技術は、次世代の画像認識インフラを支える基盤技術となるでしょう。

図2:論文〔2〕の概要

(論文情報〔2〕)

タイトル:Three-dimensional Scheimpflug principle and its application to full-focus positioning
著者:Kazuyuki Kobayashi, Momoka Ichikawa, Kazuki Nishi
掲載誌:Journal of the Optical Society of America A, vol.42, no.11, pp.1705-1717 (2025.11)
DOI10.1364/josaa.571923

(外部資金情報)

日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(C)「カメラ撮影における微細振動計測と画像の高精細化に向けた振動抑制法の開発」(24K14990)

(論文情報〔3〕)

タイトル:Measurement of image sensor tilt based on amplitude and phase of image
著者:Kazuyuki Kobayashi, Takumi Kawamata, Kazuki Nishi
掲載誌:Optical Review, vol.30, no.3, pp.342-349 (2023.6)
DOI10.1007/s10043-023-00802-2

3.イノベーションを生み出した原動力(Diversity and Innovation)

これら2つの高度な技術は、決して恵まれた環境だけで生まれたものではありません。研究を主導した西准教授は重度の呼吸器障害を患っており、24時間の酸素吸入が必要で行動が厳しく制限される状況にありました。しかし、「今の自分でもできることは何か」を自問自答し、「他のことはできないが頭だけはしっかり働く」と思考に集中したことが、不思議なひらめきと深い洞察をもたらしました。また、研究室学生も西准教授の状況をよく理解し、実験ノウハウを早期に習得し協力してくれたことや、カメラに関する豊富な知識と経験を持つ社会人博士後期課程学生のアドバンテージが融合したことで、これらの新技術が誕生しました。身体的逆境を乗り越え、多様な人材の協力によって生み出された「Diversity and Innovation」を体現する事例と言えます。

図3:逆境の中でのイノベーション

詳細はPDFでご確認ください。

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