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【ニュースリリース】次世代太陽電池を「印刷」する革命!低コスト・大面積化の壁を打ち破る「安定量子ドットインク」技術を確立

2026.05.13

ポイント

  • 「安く・大量に」作る新技術
    高価な材料を排除し、量子ドットインクを直接合成する手法で製造コストを劇的に削減。
  • インクの安定性を劇的に向上
    独自の化学エンジニアリングにより、量子ドットの「合体」を防ぐ保護シェルを形成。
  • 印刷薄膜の欠陥形成メカニズムの解明
    超低温PLと断面TEM解析により、印刷量子ドット薄膜中の形態欠陥を初めて直接可視化。
  • 大面積で世界トップ級の効率
    大面積モジュールにおいて、従来の1%台から飛躍し、変換効率10.0%を達成。
  • シリコンに代わる選択肢へ
    軽量で柔軟なため、ビルの窓や壁、モバイル機器など、場所を選ばない発電が可能に。

概要

沈青教授(基盤理工学専攻)およびShi Guozheng客員研究員(研究当時)らの研究グループは、東京大学先端科学技術研究センターの久保貴哉特任教授、瀬川浩司シニアリサーチフェロー(研究当時:東京大学大学院総合文化研究科教授)、ならびに中国の蘇州大学のMa Wanli教授の研究グループとの共同研究により、次世代太陽電池材料として注目されるコロイド量子ドット(CQD)インクにおいて、世界最先端の超低温蛍光マッピング技術を用いて薄膜の形態欠陥に由来する発光を直接観測することに成功しました。さらに、製造コスト削減と大面積化に伴う効率低下という2つの主要課題を同時に克服する革新的なインク技術を開発しました。これまでCQD太陽電池では、量子ドットインクの安定性が不十分であったため、大面積において均一な塗布が困難でした。本研究では、溶液中の化学反応を精密に制御する「溶液化学エンジニアリング」を導入し、量子ドット表面に強固なバリア(シェル)構造を形成することに成功しました。これにより、インクの長期安定性が大幅に向上しました。その結果、従来の複雑な製造プロセスを簡略化しつつ、大面積モジュールにおいて世界最高水準のエネルギー変換効率を達成しました。

背景

現在主流のシリコン太陽電池は、重くて硬いため、設置場所が限られるという課題があります。一方、コロイド量子ドット(CQD)は、インクのように「塗る」だけで作れるため、軽量で曲げられる太陽電池として期待されています。しかし、これまでは「性能を上げようとするとコストがかかり、安く作ろうとするとインクが不安定で大きなパネルが作れない」というジレンマに陥っていました。さらに、量子ドットインクの塗布過程における欠陥形成メカニズムも十分には解明されていませんでした。

手法

研究チームは、硫化鉛(PbS)を用いた「直接合成法」という、安価にインクを作る方法をベースに改良を加えました。具体的には、溶媒の中にヨウ素を豊富に含ませる独自の「溶液化学エンジニアリング」(SCE)を開発しました。これにより、量子ドットの表面にマイナスの電荷を帯びた厚いイオンの層(シェル)を形成させました。このシェルがドット同士の反発を強めることで、インクの中でのドットの合体を防ぎ、膜にしたときもムラなく均一に広がるように設計しました。

図:インクの安定化メカニズムと製膜プロセス
開発された量子ドットインクは粒子が均一に分散しており、一度の印刷工程で厚みが一定で高品質な膜を広い面積に形成することが可能です。 (a) 印刷による量子ドット薄膜形成の模式図および断面TEM像、 (b) 超低温フォトルミネッセンス分光による欠陥状態の評価、(c) 量子ドット太陽電池デバイス構造の模式図、(d)異なるデバイス面積におけるエネルギー変換効率(PCE)の比較、 (e) 環境影響およびコスト評価

成果

  1. 欠陥メカニズムの解明
    超低温PLマッピングと断面TEM観察により、印刷薄膜中の欠陥を直接可視化し、その起源が量子ドットのエピタキシャル融合であることを明確にしました。
  2. 開発された安定なインクを用いることで、以下の驚異的な成果が得られました。
    高効率の両立:
    0.04cmの小型セルで13.40%、さらに面積を約300倍にした12.60cmのモジュールでも、この分野では極めて高い10.0%の公称効率を達成しました。
    圧倒的な低コスト:
    材料コストを1Wp(ワットピーク)あたり0.06ドル(約9円)未満に抑えることが可能となり、商業化への経済的優位性を示しました。
    高い耐久性:
    1200時間以上の連続使用後も、初期効率の90%以上を維持する高い安定性を確認しました。

今後の期待

今回の成果は、太陽電池を「デバイス」から「素材(インク)」へと進化させるものです。低コストで大面積化が可能になったことで、以下のような具体的な活用シーンが現実味を帯びてきます。現在も電通大と東大の共同研究を継続しており、大面積化に向けた検討を進めています。

具体的な活用シーン

「発電する窓ガラス」:
透明度を調整した量子ドットインクを窓に塗ることで、ビルのすべての窓を電源に変える。
「着る太陽電池」:
服の生地に印刷し、スマートフォンやスマートウォッチを歩きながら充電する。
「災害時の電源シート」:
くるくると巻いて持ち運び、被災地で広げるだけで即座に発電を開始する。

(論文情報)

タイトル:Overcoming efficiency and cost barriers for large-area quantum dot photovoltaics through stable ink engineering
著者:Guozheng Shi, Xiaobo Ding, Zeke Liu, Yang Liu, Yifan Chen, Cheng Liu, Zitao Ni, Haibin Wang, Katsuji Ito, Keisuke Igarashi, Kun Feng, Kaicheng Zhang, Larry Lüer, Wei Chen, Xingyi Lyu, Bin Song, Xiang Sun, Lin Yuan, Dong Liu, Yusheng Li, Kunyuan Lu, Wei Deng, Youyong Li, Peter Müller-Buschbaum, Tao Li, Jun Zhong, Satoshi Uchida, Takaya Kubo, Ning Li, Joseph M. Luther, Hiroshi Segawa, Qing Shen, Christoph J. Brabec, Wanli Ma
掲載誌:Nature Energy
DOI:10.1038/s41560-025-01746-4

(外部資金情報)

日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(B)(JP20H02565)
日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(B)(JP24K01295)
米国エネルギー省(U.S. Department of Energy)国立再生可能エネルギー研究所(NREL)運用資金(DE-AC36-08GO28308)
米国エネルギー省(U.S. Department of Energy)アルゴンヌ国立研究所 高輝度放射光施設(APS)およびナノ材料センター(CNM)利用支援(DE-AC02-06CH11357)
中国国家重点研究開発計画(2022YFE0110300)
中国国家自然科学基金(NSFC)(92163114, 52372215, 52202274, 22161142003, 52002260)
江蘇省「双炭(ダブルカーボン)」科学技術革新基金(BE2022023, BE2022021)
姑蘇革新創業指導人材プログラム(ZXL2022451)
ドイツ研究振興協会(DFG)Excellence Strategy(EXC 2089/1-390776260)
その他支援:蘇州ナノ科学技術共同イノベーションセンター、111プロジェクト、ノーザンイリノイ大学(NIU)スタートアップ基金、上海放射光施設(SSRF)

詳細はPDFでご確認ください。

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