2026.05.18
村上礼也氏(基盤理工学専攻博士後期3年)、狩野豊教授(同研究科共通教育部)、東京科学大学病院高気圧治療部の柳下和慶教授、カンザス州立大学らの共同研究グループは、激しい運動(伸張性収縮(ECC)によって損傷した骨格筋が再生する過程で、細胞内のミトコンドリアが劇的な配置転換を行うことを明らかにしました。
本研究では、独自開発の「レーザー光熱変換顕微鏡(PTM)」と「透過型電子顕微鏡(TEM)」を組み合わせることで、再生中の筋線維において、ミトコンドリアが細胞の中心にある核(中心核)の周囲に高密度に集積していることを世界で初めて可視化しました。この発見は、筋肉の効率的な修復メカニズムの解明や、新たなリハビリテーション手法の開発、筋疾患の治療法向上に貢献することが期待されます。
骨格筋は高い再生能力を持つ組織であり、過度な運動による損傷後には、衛星細胞(筋幹細胞)の活性化を経て新しい筋線維が形成されます。再生初期の筋線維には、細胞の中央に核が位置する「中心核」という特徴的な構造が見られますが、この再生プロセスを支えるエネルギー供給システム(ミトコンドリアの配置や構造)がどのように変化しているのかは、これまで詳しく分かっていませんでした。
本研究グループは、ラットの伸張性収縮損傷モデルを用い、損傷から7日後の再生筋肉を詳細に分析しました。
筋肉の再生には膨大なタンパク質合成が必要であり、それには多大なエネルギー(ATP)を要します。今回の発見により、再生中の筋細胞は、タンパク質合成の司令塔である「核」のすぐ近くにエネルギー工場(ミトコンドリア)を集結させるため核の近くでミトコンドリアを盛んに産生し、効率的に修復作業を行っている可能性が示されました。この「バイオジェニック・ホットスポット(産生拠点)」の特定は、筋再生の代謝制御を理解する上で極めて重要な知見です。
本研究で活用された光熱変換顕微鏡技術は、生体組織内のオルガネラ(細胞小器官)の動態を詳細に把握する強力なツールとなります。今後は、この配置転換がどのようなシグナルで制御されているのか、また加齢や疾患によってこの修復拠点の形成が阻害されるのかを調査することで、筋力低下の予防や効率的なリハビリプログラムの提案に繋げていく予定です。
タイトル:Mitochondrial Localization Around Central Nuclei in Regenerating Skeletal Muscle Following Eccentric Contraction in Rat Model
著者:Reiya Murakami, Ayaka Tabuchi, Takayoshi Kobayashi, Kazuyoshi Yagishita, Daisuke Hoshino, David C. Poole, Yutaka Kano
掲載誌:American Journal of Physiology-Cell Physiology (2026)
DOI:10.1152/ajpcell.00115.2026
Published online: 3 April 2026
本成果は、主に以下の研究助成を受けて行われました。
JSPS科研費(JP25K22751, JP24K02827, JP23K18417, JP20H04074)
詳細はPDFでご確認ください。