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【ニュースリリース】AIで量子少数多体問題を解く-ニューラルネットワーク量子状態でエフィモフ状態の高精度計算に成功、計算コードを公開-

2026.09.28

ポイント

  • ニューラルネットワークで量子力学の波動関数を表現し、連続空間の量子少数多体問題に適用。エフィモフ状態の計算に成功
  • 3~6体のボース粒子系とフェルミ3体系について、基底状態だけでなく励起状態も従来手法と同等以上の精度で計算
  • 計算コードFewBodyNet.pyを公開。原子核・冷却原子・量子化学など、幅広い分野の量子少数多体問題にも応用が期待

概要

横井蒼良氏(基盤理工学専攻博士前期課程(研究当時))、遠藤晋平准教授(基盤理工学専攻)、斎藤弘樹教授(基盤理工学専攻)の研究グループは、ニューラルネットワークで量子力学の波動関数を表現する手法を連続空間の量子少数多体問題に適用し、「エフィモフ状態」と呼ばれる特異な量子3体状態とそれに付随する4~6体状態を、基底状態だけでなく励起状態も従来手法と同等以上の精度で計算することに成功しました。本研究成果は、冷却原子や原子核で現れる量子少数状態の理解を深める基礎物理学的意義を持つとともに、開発した計算コードFewBodyNet.pyを公開することで、量子化学や情報科学など幅広い分野の量子少数多体問題への応用に繋がることが期待されます。
本研究成果は物理学の専門誌Physical Review Research(オンライン版)に2026年9月18日(日本時間)に公開されました。

背景

量子力学に従う粒子の集団(量子少数多体系)の性質を計算機で求めることは、物理学・化学・材料科学に共通する中心課題です。粒子数が増えると必要な計算量が指数関数的に増大するため、正確な計算は数粒子でもすでに容易ではなくなります。この課題を乗り越える新たな手法として近年急速に発展しているのが「ニューラルネットワーク量子状態」です。これは、量子系の波動関数を人工ニューラルネットワークで表現し、深層学習における損失関数の最小化と同じ枠組みでエネルギーを最小化することで量子状態を正確に求める手法です。スピン模型や格子上の粒子系では大きな成功を収めてきましたが、冷却原子や原子核物理で重要な、連続空間で強く相互作用する少数粒子系にどこまで有効かは明らかではありませんでした。
その試金石として本研究が着目したのが「エフィモフ状態」です。これは、2粒子間の引力が特別に強いときに現れる3粒子の束縛状態で、2粒子だけでは結合しないのに3粒子集まると結合するという不思議な性質を持ちます。さらに、大きさの異なる相似な束縛状態が一定の比率で次々と発現するという、古典力学では説明できない純粋に量子的な特徴(離散スケール不変性)を示します。エフィモフ状態は冷却原子気体、原子核、ヘリウム原子クラスターなど、大きさの全く異なる系に共通して現れる普遍的な量子状態であり、これを正しく計算できるかどうかは、新しい計算手法の性能を測る理想的なベンチマークになります。

手法

本研究では、全結合型の順伝播ニューラルネットワークを用いて少数粒子系の波動関数を表現しました。計算を安定かつ効率的に行うため、粒子間の相対座標(ヤコビ座標)の長さと角度を入力値とすることで系全体の並進・回転の自由度をあらかじめ取り除き、さらに2粒子問題の厳密解を波動関数に掛け合わせることで、粒子が近づいたときの急峻な振る舞い(相関)をネットワークが学習する必要をなくし、収束の安定性と精度を大幅に向上させました。エネルギーの期待値とその勾配はモンテカルロ法で評価し、深層学習で標準的なAdam最適化と自動微分を用いてネットワークを訓練しました。さらに、得られた基底状態と直交する空間に波動関数を射影する方法により、励起状態の計算も可能にしました。

成果

2粒子間の引力が特別に強い条件のもとで、3~6個の同種ボース粒子系の基底状態と第一励起状態を計算したところ、得られたエネルギーは確立した計算手法による先行結果とよく一致し、基底状態についてはそれよりわずかに低い、すなわちより正確な値が得られました(図1)。また、得られた波動関数から粒子の空間分布を調べると、基底状態と励起状態が約20倍程度のスケール比で相似な形をしており、エフィモフ状態に特有の離散スケール不変性が正しく捉えられていることが確認できました。

図1:ニューラルネットワークの最適化の様子。3~6個のボース粒子系について、基底状態のエネルギーが先行結果(縦軸の0)に速やかに収束する。変分法では得られるエネルギーが低いほど厳密解に近いため、実線が0を下回ることは本手法がより正確な値を与えていることを意味する。

さらに、2個の同種フェルミ粒子と別種の1粒子からなる3体系についても計算を行いました。これらについても、基底状態・第一励起状態のエネルギーが先行結果と高精度で一致し、幅広い量子系に本手法が適用できることを示しました(図2)。

図2:ニューラルネットワークで得られたフェルミ3体系の第一励起状態。横軸は3粒子の広がり(hyperradius)、縦軸はその確率分布を表す。挿入図は、2個の同種フェルミ粒子を×印の位置に固定したときの、もう1粒子の存在確率分布。

本研究で開発した計算コードFewBodyNet.pyは、オープンソースとして論文ページにおいて公開しています。

今後の期待

本研究により、ニューラルネットワーク量子状態が連続空間で強く相互作用する量子少数多体問題に対する高精度かつ汎用的な手法であることが示されました。深層学習の標準的な枠組みを用いた約150行の簡潔なコードであり、粒子数や相互作用を書き換えることで、陽子・中性子からなる原子核、電子が強く相互作用する分子など、より複雑な系へ展開することができます。また、シュレーディンガー方程式を「ニューラルネットワークの最適化問題」として解くという考え方は、量子化学や生体分子・材料設計の最適化問題など、多様な分野で急速に進展しています。本研究成果や公開したコードが、分野の垣根を越えて量子少数多体問題に取り組むための共通の道具として役立つことが期待されます。

(論文情報)

タイトル:Neural-network quantum states for solving few-body problems: application to Efimov physics
著者:Sora Yokoi, Shimpei Endo, Hiroki Saito
掲載誌:Physical Review Research
DOI:https://doi.org/10.1103/31mv-7tz7
公表日:2026年9月18日(金)

(外部資金情報)

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP23K03276, JP26K00638, JP25K00217)、松尾学術研究助成の支援を受けた研究成果です。

詳細はPDFでご確認ください。

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