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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
坂本 研究室

オノマトペで五感と感性を定量化し、AIに搭載する

所属 大学院情報理工学研究科
情報学専攻
メンバー 坂本 真樹 教授
所属学会 人工知能学会、情報処理学会、認知科学会、感性工学会、バーチャルリアリティ学会、認知言語学会、広告学会
研究室HP http://www.sakamoto-lab.hc.uec.ac.jp/
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掲載情報は2017年3月現在

坂本 真樹 Maki SAKAMOTO
キーワード

感性情報処理、オノマトペ、知識、 創造的思考、五感の相互作用、広告、デザイン

「昼食をササッと済ませ、コーヒーをぐびっと飲んで、午後もサクサク仕事を進めよう」「ぽっちゃり『ゆるふわ系』の愛されモテ女子」――。
こうした“オノマトペ”が最近どんどん登場し、日本語に豊かさやリズム感を与えています。オノマトペとは擬音語や擬態語の総称で、日本語には豊富に存在します。

オノマトペと五感

オノマトペを構成する音には、五感の印象が数多く結びついています。そのため、言語学や心理学の分野では、オノマトペは昔から広く研究されてきました。坂本真樹教授は、言語の専門家としてオノマトペに着目し、そこに工学の手法を導入することで、感性を評価する新しいシステムを開発しました。
人が五感を通じて得た感性や感覚は、少なからずその人の言葉に反映されます。しかし、言葉はしばしば主観的であいまいです。これを客観的に評価できれば、「オノマトペで表現された言葉を通じて、人の五感や感性を定量化できるのではないか」と坂本教授は考えました。

五感を数値化する

坂本教授は、聴覚、視覚、触覚、味覚に関するオノマトペを評価する手法を考案しました。これは言葉の音(聴覚)から、視覚や触覚に基づく感性的な印象を予測するシステムです。例えば、「もふもふ」と入力すると、「温かい」「厚みがある」「柔らかい」といった、43種類の感性に関する尺度で印象を数値化できます。
例えば、肌などの状態を表現する際の「サラサラ」、「カサカサ」という言葉はどちらも乾いた印象ですが、より乾いているのは「カサカサ」の方でしょう。「キシキシ」は、さらに否定的なイメージです。微妙に異なるこうした感覚を瞬時に定量化できるのが同システムの特徴です。オノマトペに限らず、あらゆる文章から感性の情報を抽出し、それを「色」で表現して可視化するシステムも開発しています。
これとは逆に、数値化された五感の情報から、新しいオノマトペを作ることも可能です。「生物淘汰」の概念をモデル化した汎用的な遺伝的アルゴリズムを使って、オノマトペの生成システムを作りました。五感に基づく新しいオノマトペを作り出せれば、「広告などの新しい表現として使えるほか、隠れた感覚や質感の発見につながる」と坂本教授は期待しています。

「もふもふ」と入力した場合の評価結果の例

感性を持つAIの開発へ

このようにして人の五感や感性を定量化できれば、“感性を持つ人工知能(AI)”の実現につながります。電気通信大学は、人間のように多様な情報を処理する汎用的なAIを開発する「人工知能先端研究センター」を2016年に設立しており、坂本教授もメンバーに名を連ねています。

キャベツに関する記述を入力した例
現状のAIは、まだ質感や感性を直接人のように知覚することはできません。しかし、坂本教授が開発したオノマトペシステムをAIに搭載すれば、将来は、人のように「感じられる」ロボットが実現するかもしれません。坂本教授は、脳の基礎研究から情報工学への応用研究を通じて、「従来の視覚(画像処理)や聴覚(音声認識)機能だけでなく、触覚(質感検出)を持つAIの開発に寄与できる」と考えています。
研究の流れ

モノづくりへの応用も

すでに、感性を生かしたモノづくりにも貢献しています。例えば、自動車関連メーカーと共同で、自動車部品に使う模造金属のデザイン制作に関わりました。オノマトペの評価システムを駆使し、初めは「つるつる」した印象だった模造金属につやを落とす加工を施すことで、「ざらざら」とした、実際の金属により近い質感を持つ製品が誕生しました。これにより、模造金属の高級感が一層増したそうです。
また、「ふわキラ小物」「どろどろした粘性の高い素材」といったモノの質感をオノマトペで入力すると、インターネット上の商品やその画像、動画を検索できるシステムも開発しました。味覚についても、例えば「とろーり、とろとろ」を「まろーり、まろまろ」に置き換えるだけで、「より強いとろみを表現できる」ことが明らかになりました。
これらは例えば、商品開発における素材の検討や、食感表現の開拓などにつながりそうです。オノマトペは多様で感覚的な表現ですが、究極的には、「個人ごとの“感覚空間”が作れるだろう」と坂本教授はみています。

医療にも貢献

さらに、医療応用も目指しており、「ズキン」や「シクシク」といった痛みの表現を定量化する多言語表示可能な診断支援システムを開発しました。痛みの度合いを「強い」「鋭い」など複数の要素で数値化し、さらに「ハンマーで殴られたような」「電気が走るような」というように比喩でも表現することで、主観的な痛みを可視化できます。これをAIに適用すれば、将来は“痛みの分かる”ロボットが実現することでしょう。
坂本教授は今後、ハードルの高い嗅覚のオノマトペや、「さらさらした人」などパーソナリティ(個性)のオノマトペの評価などを試み、最終的に「オノマトペが使われるあらゆる分野を制覇したい」と考えています。感性に基づくAIの開発と日本の未来のモノづくりは、オノマトペが鍵を握っているのかもしれません。

【取材・文=藤木信穂】

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