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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
美濃島 研究室

「光のものさし」で作る
超高精密の距離測定技術と超高精度の光源技術

所属 大学院情報理工学研究科
先進理工学専攻
メンバー 美濃島 薫 教授
所属学会 応用物理学会、日本物理学会、レーザー学会、
The Optical Society (OSA)
研究室HP http://www.femto-comb.es.uec.ac.jp/
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掲載情報は2015年8月現在

美濃島 薫
Kaoru MINOSHIMA
キーワード

光エレクトロニクス、量子エレクトロニクス、長さ標準、光周波数コム、光コム、レーザー、超短パルスレーザー、光シンセサイザ、周波数シンセサイザ、距離計

長さを測る道具と技術

何らかの物体の長さを測るとき、良く使われるのは巻き尺とプラスチック定規(ものさし)でしょう。標準的な巻き尺とプラスチック定規はいずれも、長さを一ミリ単位で測ることができます。巻き尺を使えば、数メートルの長さを測れます。
もっと高い精度で長さを測る道具に、ノギスがあります。測定できる最大の長さはおおよそ二十センチと短いものの、長さを二十分の一ミリ単位で細かく測れます。さらに細かく長さを測る道具に、マイクロメーターがあります。マイクロメーターは、長さを百分の一ミリ単位で測れます。ただし、測定できる最大の長さはおおよそ三センチとかなり短くなります。
また最近のノギスとマイクロメーターは、電子技術によって測定分解能と操作性が著しく向上しています。電子化されたノギスはデジタルノギス、マイクロメーターはデジタルマイクロメーターと呼ばれており、測定分解能は標準的な機種でそれぞれ百分の一ミリ、千分の一ミリとなっています。
ノギスやマイクロメーターなどは机上に置けるような、比較的小さな物体の長さを測定する手段です。これに対し、ビルディングや木造家屋などの建築現場で数メートル〜数百メートルの長さを測定する道具に、レーザー距離計があります。例えば最大二百メートルの距離を、一ミリ単位で表示する携帯型のレーザー距離計が市販されています。

超短パルス光の繰り返しが作る「長さ」の標準

これらの「長さ」を測定する道具はいずれも、市販品です。これに対して研究段階では、従来の市販品をはるかに超える精密な「ものさし」が試作されています。このものさしは「光周波数コム」または「光コム」と呼ぶ技術をベースにしており、美濃島さんはこの「光周波数コム」を研究しています(図1)。

図1 美濃島研究室の研究内容。超短パルスレーザーによる光コムを様々な応用へと展開している。

「光周波数コム」の「コム」とは「櫛(クシ)」を意味します。光周波数コムでは、周波数スペクトルがクシの歯のように広い範囲に規則正しく並んでいるからです。
光周波数コムを作成するには、極めて短いパルスのレーザー光を繰り返し発生する光源「超短パルスレーザー(モード同期レーザー)」を使います。超短パルスレーザーが発生する光パルスの幅はきわめて短く、例えばフェムト秒というオーダーです。1フェムト秒という時間は、10のマイナス15乗秒(千兆分の一秒)しかありません。光の進む速度は3×10の8乗メートル毎秒なので、空間的にはわずか3×10のマイナス7乗メートル(0・3マイクロメートル)の距離にしか存在しません。時間的にも空間的にも短い光ですので、計測に利用するときわめて短い時間や短い距離を測定するプローブとして使えます。そして超短パルスレーザー光の周波数特性は、パルスの繰り返し周波数の間隔で並んだ数多くの周波数の光、すなわち光周波数コムになります。
美濃島さんは2013年に本学に赴任しました。その前には、独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)で、光周波数コムの研究に携わっていました。光周波数コムは、高精度な「長さ」の標準、すなわち「メートルの定義」を実現する方法として用いることができます。
「メートルの定義」と言いますと、合金で作られた「メートル原器」を想像する方もいらっしゃるでしょう。メートル原器が標準に使われていたのは現在から約55年ほど前、1960年までです。1960年以降はメートル原器のような物ではなく、物理現象をメートルの定義に利用しています。初めはランプの波長の倍数でメートルを定義していました。1983年以降は光の速度自体が定義となり、「光が真空中を2億9,979万2,458分の1秒間に伝わる長さ」を「一メートル」と定義しています。
1983年以降の「メートルの定義」で最も重要な点は、定義に時間が関わっていることです。「2億9,979万2,458分の1秒」という「時間」を求める精度が、メートルという「長さ」の定義を実現する精度そのものになったのです。時間とは周波数の逆数ですから、「周波数」を求める精度が「長さ」を求める精度になったとも言えます。

図2 ERATOの研究プロジェクト「美濃島知的光シンセサイザプロジェクト」の概要。光を自在に操作する知的光シンセサイザの実現と応用開拓を目指す。

高い精度で一定の周波数(波長)を保つ光源の代表は、レーザー光源です。このため当初は、ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザーの波長を実用的な長さの標準に利用していました。このときの長さの精度はおおよそ11桁でした。これに対し、産総研が開発した光周波数コムでは、長さの精度が約三百倍に向上しました。そして2009年7月16日以降は、日本における長さの標準として、産総研が開発した光周波数コム装置が正式に使われています。
実際には、メートルの定義が高精度に決められるだけでは長さを正確に測ることはできません。しかしそこでも光周波数コムの高精度なものさしを用いることで長さの精密計測が実現できます。例えば光周波数コムを使うと二百四十メートルの距離をおよそ1・6マイクロメートルという高分解能で測定できることが実験で確かめられています。これも美濃島さんらの研究チームによる研究成果です。分かりやすく表現すると、およそ十キロメートル先に立てたコピー用紙の束の厚みを一枚の違いで測定できる水準だとのことです。

知的な光のシンセサイザを実現へ

本学で美濃島さんが取り組もうとしている代表的かつ将来が期待される研究テーマは「知的光シンセサイザの研究」でしょう。知的光シンセサイザとは音楽の楽曲作成におけるシンセサイザ(ミュージックシンセサイザ)の概念を光分野に拡張した技術で、光における時間や空間、周波数(波長)、位相、強度、偏光などのパラメータを自由自在に操作できます。光周波数コム技術を応用することで、このような光源の開発を考えています。
知的光シンセサイザの研究は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業・総括実施型研究(ERATO)のプロジェクトに選ばれています。この「美濃島知的光シンセサイザプロジェクト」は2013年10月から2019年3月までの間で、知的光シンセサイザの開発を進めるとともに、応用分野を開拓します。具体的には、天文観測や環境センシング、イメージングなどの分野が考えられています。
【取材・文=福田昭】

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