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国立大学法人 電気通信大学

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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
定本 研究室

制御×学習、制御×電力の新たな地平を目指して

所属 大学院情報理工学研究科
機械知能システム学専攻
メンバー 定本 知徳 助教
所属学会 計測自動制御学会、システム制御情報学会、米電気電子学会(IEEE)
研究室HP http://www.sc.lab.uec.ac.jp/ts/index_j.html
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掲載情報は2021年3月現在

定本 知徳
Tomonori SADAMOTO
キーワード

制御理論、学習理論、電力工学、データ駆動型設計、最適化

ロボットや機械などを自在に操る「制御工学」の分野では、長らく高機能な製品を動かすことを目標にして研究が行われてきました。しかし、2000年以降は、従来の高機能化に向けた研究に加えて、例えばエネルギー問題などの社会的な課題の解決を目指す研究がその大きな潮流になりつつあります。

大規模複雑システムの理論研究

定本知徳助教は、このような社会課題の解決に向けて、制御工学の分野において理論と応用の両面から研究を進めています。理論研究では、主に大規模で複雑なシステムの制御をテーマにしています。小規模で単純なシステムならば、従来の理論や、あるいは理論を使わなくても試行錯誤によってある程度の制御は可能でしょう。しかし、電力システムや交通システムなどの大規模複雑システムには、秩序だった系統的な解析・設計手法、すなわちシステム制御工学に基づくアプローチが必要になります。
大規模複雑システムの制御は、データの積極的な活用が鍵になると定本助教は考えています。この観点から、特に学習理論との融合を視野に入れた「データ駆動型」の新しい解析・制御手法の研究を続けています。ここでは一例として、可制御性に基づくデータ圧縮を介した高速の強化学習手法を紹介します。
大規模複雑システムでは扱うデータ量が膨大なため、リアルタイムに制御するにはデータの圧縮が欠かせません。ところが、データを圧縮すると、そのデータを基に設計する制御器の性能が劣化してしまうという問題があります。これを解決するため、定本助教は圧縮したデータを使いながらも、高性能な制御器を設計できる強化学習の新しい手法を提案しました。併せて、データの圧縮率と制御器の性能との関係も理論的に明らかにするとともに、高性能な制御器が高速に学習できることを数値的にも検証しています。近年は、学習に必要なセンサ情報が限定される状況での同様な高速学習も提案しています。

スマートグリッドの応用研究

一方、応用研究の具体例としては、電力の流れを制御するスマートグリッド(次世代電力網)の本格運用に向けた、制御理論に基づく提案をしています。例えば、風力発電機は導入量を増やすにつれて電力の安定供給が難しくなる場合があり、具体的には落雷などをきっかけに停電などの障害が発生しやすくなります。
そこで定本助教は、ある種類の風力発電機が、設計次第では電力システムに悪影響を及ぼすことを「可制御性」という観点から解析しました。その上で、補償回路を追加するだけで可制御性を高められること、その結果として、制御による減衰性能を高められることを理論的に示しました。実データに基づく詳細なシミュレーションによって、その有効性も実証しています。
この手法を使えば、風力発電機を大量に導入しても電力を安定的に供給できるようになります。この研究が示すように、定本助教は「次世代の電力システムの問題意識を起点として、制御工学と電力工学を融合し新たな解決策を見いだしたい」と考えています。

制御工学と電力工学の間を埋める

制御工学と電力工学の融合については、制御工学の観点から電力工学について解説するなど積極的に活動しています。同じ工学であっても、制御と電力は異なる研究分野であり、使用する用語や概念も違います。そのため両分野を理解する研究者はいまだに少ないのです。
実際に、スマートグリッドは電力工学の研究者がリードして設備は整いつつありますが、電力をどのようにコントロールするかという制御工学からのアプローチが追いついていません。定本助教は将来に向けて、「人材育成などを含め、両者の間を埋めるような研究をしていきたい」と意欲をみせています。
定本助教は国際共同研究に熱心で、制御工学の分野で世界的に著名な米ノースカロライナ州立大学のアラーニャ・チャクラボッティ教授らとともにこれらの研究を進めてきました。国内でも国家プロジェクトをはじめ、他大学との協働の輪を広げています。次世代電力システムの実用化に向けて、今後は企業との連携でもその力を大いに発揮してくれることでしょう。

動画

【取材・文=藤木信穂】