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国立大学法人 電気通信大学

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研究者情報:研究・産学連携

研究室紹介OPAL-RING
曽我部 研究室

AIによる最適化手法をエネルギーシステムや材料、量子デバイスの設計に生かす

所属

i‐パワードエネルギー・システム研究センター
大学院情報理工学研究科 機械知能システム学専攻
先進デバイス技術とAI技術融合研究ステーション長

メンバー

曽我部 東馬 准教授

所属学会

応用物理学会、人工知能学会、情報処理学会、量子ソフトウェア研究会

研究室HP

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掲載情報は2023年4月現在

曽我部 東馬 Tomah SOGABE
キーワード

深層強化学習、リスク低減型確率最適化、自律飛行クワッドローターの開発、マテリアルインフォマティクス、デバイス逆設計、透明型太陽電池、エネルギーデバイス開発、量子制御アルゴリズム、量子回路設計、量子機械学習

曽我部研究室ではカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)社会の実現に向けて、人工知能(AI)を用いた次世代エネルギーデバイスの開発、社会インフラシステムの最適化問題、量子コンピュータのアルゴリズム開発に取り組んでいます。主要研究領域として、強化学習、機械学習、確率最適化、量子アルゴリズム、量子(回路・機械)学習などの最先端研究を推進しています。

研究概要

AI手法を用いた再生可能エネルギーシステムの最適化

太陽光発電や風力発電、地熱発電など再生可能エネルギーの普及に伴い、分散した電力を利用状況に応じて最適化しながら効率的に配電するスマートグリッド(次世代電力網)の導入が進んでいます。しかしながら、天候は変動するために電力需要の予測が難しく、強化学習を用いる従来のエネルギーシステムの最適化手法には再生可能エネルギーの導入が難しいという現状にあります。
こうした背景において、曽我部東馬准教授は不確実性や変動性のある電力需要の下でも効果的に運用できるエネルギー最適化の手法を研究しています。最近、単一のネットワークのみを使う強化学習に、リスク評価技術と複数のネットワークの出力値から総合的に判断するAIの一つであるアンサンブル学習を組み合わせた「アンサンブル強化学習」を導入し、分散型エネルギーシステムの最適化に成功しました。
アンサンブル強化学習をエネルギー分野に適用したのは初めてで、これによって「変わりやすい天候や未知の需要データに対しても、より柔軟に経済的な売電、買電の計画が行えるようになる」と曽我部准教授は考えています。カーボンニュートラル社会に向けたスマートグリッドによるエネルギーの有効活用が期待できます。

再生可能エネルギーの最適化システム

この成果を不確実な環境でも機能するAIの開発ととらえれば、「AIの最大の課題である『フレーム問題』を解決する糸口になるだろう」と曽我部准教授はいいます。将来予測を交えた不確定要素の強い環境を扱う問題では、このフレーム問題への対処が重要になってくるそうです。

AI材料探索

一方、AIも昨今は一時のブームが過ぎ、画像認識や音声認識などの典型的な応用分野から、近年は物理や材料などの理工系分野に適用する流れに変わっています。ビッグデータをAIで解析し、化学構造や組成を設計するマテリアルズ・インフォマティクス(MI)は材料科学における「第4次革命」といわれています。
曽我部准教授はAIと材料科学を融合したこのMIの領域で、通常とは逆向きに材料探索を行う「逆設計」の手法で研究に取り組んでいます。順設計がある物質の材料特性を「予測」する手法であるのに対し、逆設計は所望の物性を持つ材料組成に「最適化」するという、いわば目標から手段を導く手法です。「現実で求められるのは逆設計の問題が大半である」(曽我部准教授)からです。

デバイスを逆設計する

このAIによる逆設計を、曽我部准教授は材料探索だけでなく、デバイスの設計にも生かしています。現在、取り組んでいるのが、壁面・窓用の透明型太陽電池の開発です。世界全体で毎年約18億6000万平方メートル以上の窓が設置されており、そのうち10%の窓を透明型太陽電池に置き換えると、最終的に世界の二酸化炭素(CO2)排出量の10%程度を減らせるといわれています。
そこで「透明型でエネルギー変換効率の高い壁面・窓用の太陽電池を開発する」という目標を達成するデバイスを逆設計しました。まず、透明化には2種類の方法があります。どのような物質でもある程度薄くすれば透明に見えるほか、物質間にスペースを設けることでも透明化できます。これが「厚みやスペースの制御による透明化」の方法です。

量子ドット太陽電池の逆設計

この方法では、高効率のペロブスカイト量子ドット中間バンド太陽電池において、トレードオフの関係にある「変換効率」と「透過率」、さらに20年以上使える「寿命」という三つのパラメータを同時に満たす、変換効率33%の透明型太陽電池デバイスの材料や組成などの条件を導くことができました。
もう一つ、材料の厚みは変えずに、光吸収係数を制御して透明化する方法もあります。人の目で見える可視光の波長の光は吸収し、それ以外の波長の光を透過させて発電に利用することで透明な太陽電池を作ることが可能です。

曽我部准教授はこの方法でもAIによる逆設計を行い、これまでに光吸収スペクトルと発光スペクトルを正しく予測できるAIモデルを構築しています。これをもとに変換効率約20%のペロブスカイト量子ドット太陽電池の実現に向けて、今後は材料探索などを行っていく予定です。AIと量子物理学を用いたこのようなデバイス設計エンジンは、世界でも最先端の研究です。「まだシミュレーションの精度は低いものの、重要なのはそのスピードであり、わずか0.01秒で結果が得られる」(曽我部准教授)そうです。既存の最適化手法は110秒程度かかるそうですから、約1000倍の速さです。

AIによる量子回路自動設計と最適化

曽我部准教授はAIを用いた最適化の技術をベースに、エネルギーシステムや材料探索、デバイス設計などの応用研究を進めていますが、第3の研究軸としてAIを導入した量子コンピュータ向けの量子制御アルゴリズムの研究も手がけています。現在、「量子+AI」の研究の多くが、重ね合わせやエンタングルメントのような量子現象を利用して古典的な機械学習の問題を解決するという、いわゆる量子機械学習における量子ソフトウェアとAIの融合に特化しています。

これに対して、曽我部准教授が着目するのは、量子コンピューティングの機能を担う中核技術である量子ハードウェア、特に量子回路設計を最適化するためのAI技術の活用です。量子コンピュータは一回の測定では系の状態を完全に知ることはできません。それは、被測定系が本来持つ量子ゆらぎによる不確定性と、測定の過程で生じる不確定性の二重構造に起因するからです。そのため、量子回路を設計するためには高度な測定フィードバック量子制御技術が必要になります。しかしながら、量子システムは高度な非線形性と不安定性、さらに部分観測性を持つことから、従来の数理的な制御理論を適応するのが非常に困難であるといわれています。曽我部准教授はこうした問題を解決するために、深層強化学習AI技術を用いた新たな量子制御技術の開発に精力的に取り組んでいるのです。

【取材・文=藤木信穂】